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第四十一話 リーリ先生の地理授業

「さて、若輩ながらこのリャングランダリ、ダイゴさんにこの大陸について教えさせていただきます」

「あ、はい、よろしく願いします」


 家のテーブルでリーリさんと向かい合って座っている。テーブルの上には大きな金属の板が載せられている。これが地図替わりらしい。

 いまさらなんだけど、俺ってこことコルキュルとアジレラしか知らないんだ。で、ここ自体も家があって住んでいるだけで、名前も知らない土地なわけで。それをぽそっとつぶやいたら、3人から「それはダメ!」といわれてしまった挙句にリーリさんが教えてくれるという流れでこうなった。

 まぁ怒られたわけではないし、俺としても知っておいて損はないので、大学ぶりに授業を受けているのだ。

 ちなみにベッキーさんはぶちこと一緒にこの山の周辺を探索してる。あのハンマーの試運転も兼ねてだそうな。


「まず、この大陸についてですが、大昔に土の神様が多数あった陸地をひとつにまとめたことで出来上がったと伝えられています。ベガと名付けられました」


 リーリさんが丸い円盤の金属をドーンと置いた。なるほど丸いのか。


「すげぇ、そんなことができるんだ」

「そのせいで雨が降らなくなったり風の向きが変わったりで神様同士の争いも起きたといわれておりますわ」

「なにそれ、土の神様は独断でやっちゃったの?」


 リーリさん黙って頷いた。そういやリーリさんは風の神様を信仰してるんだっけか。オコなわけだね。


「時が流れ、水が不足したことを危惧した水の神様が大陸の中央に聖なる山を作り、そこに枯れることのない池を作って大陸中に水を行きわたらせたとされています」


 リーリさんが円錐形のナニカを大陸の中にの置いた。


「もしかしてここが()()?」

「正解です」


 うわ、マジかよ直轄地じゃん。そりゃ水神様の神社があるわけだ。でも俺が来たときには池が枯れてたのはなんでだろ。


「ここまでよろしいでしょうか?」

「あ、よろしいですハイ」


 なんかリーリさんは教え慣れてる感じだ。


「ベガには、ここ聖なる山を中心に3つの国があります。この山の北にあるのが私たちが住んでいるデリーリア、西の山の向こうには商業業都市国家群マーマイト、南の荒地がベルギス王国ですわ」


 リーリさんが山の周りに文字らしきものを書き始めた。

 ぐぬぬ、読めぬ。最初に書いたのがデリーリアだと思う。たぶん。さすがに文字は覚えられないな。


「国って3つしかないんだ」

「それぞれの国は内部で細分化されていますわ。例えばデリーリアは18の種族の族長が集まって政をする制度になっています。紛糾して話が進まないのが難点ですわ」


 あぁ、利害関係の調整がうまくいかないパターンだ。会社ですら調整が面倒なんだから国だったら決まらないよね。


「種族っていうと、エルフとかドワーフとか獣人とか?」

「そんな感じですわ。ただし、人族はいませんの」


 へぇ、人はいないんだ。種族の集まりっていうと、中東とかアフリカみたいな感じかな。


「わたしとベッキーが根拠地にしているアジレラは、デリーリアの一番南に位置しますわ。ベルギスとの国境にはドゥロウギ大森林があって、通れる道はひとつだけになっています」

「あれ、アジレラって交易都市とか言ってなかったっけ?」

「ベルギスとの交易と、大森林からもたらされる資源を買い求める人々が訪れる都市ですわ」

「あー、ドゥロウギ大森林だっけ。薬草も採れるって話もあったし」


 なるほど、交易都市だ。ハンターがいるのも納得だよ。


「デリーリアは人族が少ないので立場が弱かったりします。ダイゴさんは気を付けてくださいね」


 リーリさんがじっと見つめてきた。本気と書いてマジと読む、ですね。


「迷子の時に人間をあまり見かけなかったから、それはわかる。出かけるときは変化の指輪を忘れないようにする」


 ひらひらと左手を振って指輪を見せる。

 宗教の原理主義ではなく種族の原理主義者とかいそうだし。襲われたくない。


「ベルギス王国ですが、この国は各貴族が自領地を治め、王が彼らをまとめて政をしています。人族優位が強いので、わたしたちはよほどの用事がなければいきません」

「俺も行きたくないな。なんかコワイし」

「商業業都市国家群マーマイトですが、名の通り商業都市の集まりですわ。主導者は各都市持ち回りとなっていますわ。商売に人種は関係ないので、デリーリアともベルギスとも関係は良好ですわ」

「さすが商人。いい意味で金に正直なんだな」


 俺が行くことはあるのかなぁ? 商業都市っていっても交易都市とあまり変わらないんだろうし、ここからなら行けないことはないんだろうけど、用事がないな。

 あ、旅行ついでに井戸に水神様の鱗を投げて回ってもいいんだな。


「何か質問はございますか?」

「ハイ、先生! アジレラの近くに町はないのですか?」

「一番近くにあったのがコルキュルで、その次は首都のデリアズビービュールズですね。村なら川沿いにいくつかあるのですが、少ない人数が何とか農業で暮らしているという規模です」


 まーたいいにくい名前だ。でもアジレラってベルギスに一番近いんだよな。その次に近いのが首都って安全的にはどうなんだろ。


「首都がだいぶ南にあるようだけど」

「エーテルデ川の畔という立地も関係していますわ。ここから流れるエーテルデ川の途中に首都がありますの。それと北に土地は広がるのですが、水が不足しているのと寒冷のために住むには適さないのです。熊獣人と狼獣人がかろうじて住んでいるくらいです」


 あぁなるほど、水の都合ね。北はやっぱり寒いんだ。


「でもなんでまたそんな厳しいところに住んでる種族がいるんだろ」

「北には海があります。海の魔獣を狩って生活をしているようです。皮などは上着にしたり素材として売れますので」


 エスキモーかよ。


「デリアズビービュールズはアジレラよりも西にあり、アジレラとここ(聖なる山)との中間くらいにあります」

「首都までは割と近かったりします?」

「アジレラからデリアズビービュールズまでは土竜(どりゅう)が引く車で5日ほどです。ここからも同じくらいだと思いますわ」


 5日といわれても、歩きよりは早いだろうけど、距離感がつかめないなぁ。徒歩だと一日では30キロが目安だって何かで読んだことがある。馬車だとざっくり倍と換算して5日で300キロくらいは離れてるのか。いや遠いわ。なら万が一攻められてもたどり着くまでに反撃とかできそうだ。

 でも300キロは遠いな。新幹線でもあれば楽なんだけど。

 いっそ首都と扉でつながればいいのに。

 なーんて考えちゃうとまた玄関が光ったりしちゃうからやめておこう。うんうんと納得した瞬間だった。玄関がまばゆく光った。光ってしまった。

 うわぁぁやっちまったぁぁぁぁぁ!!

 絶対に俺の思考を読んでわざとやらかしてるでしょ!


「……ダイゴさん、なにかやりましたね?」

「冤罪です! 遠いから首都につながる扉があれば楽だなって思っただけです!」


 俺は悪くないと思う!

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