第四十話 倉庫鑑定団
「えっと、ここで固まっていても仕方がないので奥から調べたいんですが。オババさんよろしくお願いします」
再起動を促すと、数回瞬きをしてオババさんが「あ、あぁ、そうだね」と返してくれた。
そこからのオババさんは普段通りだった。
「ちょっと、コイツは世界樹の板と枝じゃないかい!」
「……その板でテーブルとか椅子を作っちゃいました。まずかったですか?」
「ちょっと待っておくれ。そのテーブルはどこにあるんだい?」
「オババ、わたしが持ってますわ」
リーリさんが魔法鞄から取り出してみせた。オババさんは持ってきた石板をそのテーブルに載せてその石板をじっと見ている。
「……なんてこったい」
オババさんがつぶやいた。
『それは、ダイゴ様が作ったものなので、その価値をご理解頂けるとありがたいのですが』
「も、もちろん売りはしないさ。ただ、その、びっくりしただけさ」
オババさんが額の汗をぬぐってる。別に特別な細工とか装飾とかもないただのテーブルなんだから売り物になんかならないでしょ。
「えっと、そこに沢山ある鱗みたいのは?」
『それは、水神様の鱗です。井戸に入れると永遠に水を供給し続けるので、ダイゴさまには常に携帯していただきたいのですが、よろしいでしょうか?』
「もしかして、枯れた井戸に水が出たってのは、この鱗を入れたってこと?」
『はい。その、わたくしも水神様のお傍にいる時間もありますのと、実態を保てる時間が限られてしまうので』
「あぁ、それなら俺がやりましょうかね」
ここにあるのは10枚ほど。使った分だけ補充されるらしいので、バンバン使えってことのよう。
荒地に水がいきわたれば、色々な影響はあるけど、いい方向に行くのが多いでしょ。たぶん。
「オババさんこの本は?」
「そ、それはだね、昔話の絵本、らしいね」
「じゃこっちの水晶玉は?」
「こっちは……占いの水晶と出てるさね」
「ふーん、普通だから売り物にはならなさそうだね」
「あ、あぁ、そうした方が良いね」
オババさんが汗だくになってる。若干顔色も悪い。調べる行為は大変なんだろうな。
「オババさん、体調が悪そうだけど、大丈夫?」
「いや、アタシは大丈夫さ。ちょっとびっくりしてるだけさ。おっと、そこのハンマーなんてベッキーにちょうど良いんじゃないかい?」
「無骨で実用1点張りな感じだけど」
柄の長さが160センチほどで、その先に大型冷蔵庫並みの頭部がある。柄の先端には大きな水晶玉が埋め込まれてる。あれ、割れないのかな。
「激流の槌という名だね。振るうとオオツナミが出せるらしいけど、オオツナミって何だろうかねぇ」
オオツナミて大津波のことだろうなぁ。水神様関連だろうしさ。
「水で押し流す感じじゃないかなー」
「ダイゴさんはオオツナミを知っているのですか?」
「んー大津波を大災害として知ってるだけなんだけどね」
「「「大災害……」」」
『ベッキー様にはちょうど良いですね!』
ローザさんが嬉しそうにパンと手を叩いた。
「そ、そうだね! 貸してもらおうっかな!」
ちょっと、ベッキーさんが涙目なんだけど。嫌なら使わなくってもいいんだよ?
こんな感じで倉庫内のモノを見ていった。オババさん曰く、普通の品が多いから、売れないだろうって。そんなうまくはいかないよねー。
『ダイゴ様、この指輪など如何でしょう?』
ローザさんが手のひらに指輪を載せている。シルバーのリングみたいで、特に彫の絵柄もなくシンプルイズベストな指輪だ。
「うーん、指輪をする趣味はないんだよね」
「ちょっと、アタシが見てみようかね」
いうなりオババさんがパッと指輪を取っていった。
「……ほぅ、コレはアンタにはいいかもしれないねぇ。変化の指輪だよ」
「変化? 変身するの?」
「変化っていっても、些細なもんさ、これは、そうだね、頭の上に獣人の耳がつく程度さ」
「耳?」
「あんたのその髪はここらじゃ見せない方が良いからね。ただ獣人の黒髪は結構いるのさ。それに擬態すれば、フードをかぶってなくても問題はないだろうさ」
そんな意図がとローザさんを見たらゆっくり頷かれた。正解らしい。正直、それなら俺も助かる。フードをかぶってると、蒸すんだ。あせもができちゃう。
『大きさは指の太さに合わせて変わりますので、お好きな指につけてくだされば』
なるほど、便利だ。右手はきき手だから左手がいいな。邪魔にならないのは、中指かな。
指に通せば、指輪はシュッといい感じにフィットした。グーパーしても邪魔には感じない。
「ダイゴさんに耳が生えましたわ」
「わ、狼さんの耳だね!」
「どれどれ、ほう、触った感触もあるのか」
「あら、そうなのですか?」
オババさんとリーリさんに耳をにぎにぎされてこそばゆい。スマホの内向きカメラで確認しよう。
「……マジで生えてる」
この辺かなって感じで力を入れたら獣の耳がピコピコ動いた。ナニコレカワイイ。
『ダイゴ様、獣人でもいけますね』
「意外と似合ってますわね」
「わ、ダイゴさん可愛いね!」
褒められたと取っていいんだろうか。ちょっと複雑な気持ち。
「ちょっと、その金属の板は何だい? なんであんたが写ってるんだい?」
オババさんがスマホを凝視してる。
あぁ、スマホはないよね。
「えっと、不思議な板です。風景とか音楽を聴くとかできます」
試しにオババさんを写メで撮る。理解できないのか眉根を寄せているオババさんの顔が写ってる。
「ほら、オババさんが写ってるでしょ?」
「アタシじゃないかい! なんでここにアタシがいるんだい?」
オババさんは目をぱちくりさせてスマホの自分を見てる。
「そのような機能なので」
ついでなので全員の写メを取っておく。いちおう断りを入れて笑顔になってもらった。
「わ、あたしがいるよ!」
「わたしもいますわ」
『わたくしは、このような顔だったのですね。もうすっかり忘れていましたわ』
忘れるって。ローザさんは、元々は人間だったってことなのかな。おっとこちらをジト目で見ないでください。
「はぁ、アンタといると色々なことがあるねぇ」
オババにもジト目で見られた。俺、何かしましたか? 何もしてないよね?
途中で休憩を挟みながら、倉庫の品々を見てもらった。
「アタシャ薬草でお腹いっぱいさ。薬草を売ってもらえたらそれでいい」
「あたしも、こんなすごい武器を使わせてもらっちゃうし」
「わたしでは使いこなせないものばかりでしたわ」
誰かが使えそうなら使ってもらった方が良いんだけどなー。みな謙遜しちゃってる。もったいないけど、まあいいか。




