第三十九話 調理スキルさん現る
ちょっと短めです……
「というわけで、ここで生活してます」
かいつまんで説明した。職安から飛ばされて、空の池に社があって、水が吹き出して、水神様に会って、スキルを色々もらって、ぶちこに会って、畑を作って薬草とかを植えて、コルキュルでふたりに会ったことまでをね。
理解できないこともあるんだろう、時折首を捻りながらだけど、3人は話を聞いてくれた。
「よくわからなかったけど、ダイゴさんが大変なのはわかった!」
「濃密な日々だったのですね……」
「お前さんも良いように使われてるねぇ」
若いふたりは労わってくれたけど、ストレートなオババさんの言葉はぐっさり来るなぁ。そうなんだろうなとは俺も思うもん。
でもお給金が出てるし、食事に困らない食材は用意されてるし、便利すぎるスキルもあるし、薬草を栽培できるように倉庫に種があったってのは、前の会社に比べれば涙が止まらないくらい優しいんだよ。前の会社は残業代も出なかったからね。
水神様は、なんだかんだで俺のお願いを聞いてくれた恩もある。これに後ろ足で砂はかけられない。
「それでも、以前よりはよっぽど良い環境ですよ」
取り繕う笑顔ではなく、真顔で答えた。3人とも苦い顔をしてたけど、そうでもないんだよ。割と気ままに楽しくやってるんだ。
「ま、当人が良いならば外の輩がどうこう言うのは筋が悪いねぇ」
金の話ならいくらでも相談に乗るよ?というオババさんの瞳にはなぜか$マークが見えたけど、わかりやすくてそれはそれで頼れるオババだ。そっか、オババさんだよ。
「オババさん、倉庫に俺じゃわからないものが沢山あるんだけど、調べてもらえない?」
ただとはいわないから、とお願いをしてみる。俺のために用意したんだとしたら、俺が知っておかないとだめじゃん?
「わ、なにがあるの?」
「倉庫があるのですか? 外から見た感じ、そのようなスペースはないと思ったのですが」
「これ以上のブツがあるのかい?」
三者三様だけど、オババさんが嫌そうな顔をした。売れるものが増えたった喜びそうな気がしたんだけどな。
「まいいさ。調べるための道具を持ってくるから一度家に取りに行ってくるよ。すぐに戻るからね」
有名どころのセリフを残してオババさんは扉に消えた。
「オババさんが戻ってくるまでおやつでも食べて休憩しましょう」
俺も腹が減った。
が、ものの数分でオババさんは帰ってきた。来るなり「アタシにはないのかい?」とすごまれたのでビールを進呈した。怒れる祟り神にはお供え戦法さ。
さて気を取り直して倉庫に案内することに。途中の縁側でオババが「ここで呑む酒はさぞ旨いだろうねぇ」と暗に追加のビールを要求してきたけど、スルーしといた。俺だって吞みたい。
縁側を過ぎて扉を開けたら中に女性が立っていた。栗色の髪で、俺が着ている水色のローブと同じローブを着た、人間の女性だった。凛としたという言葉が似合いそうな顔で、いわゆる美人さんだ。
迷わず扉を閉めた。
「なんで知らない人が!??」
この家に住んでいるのは俺とぶちこだけ。後ろの3人は招いたので別枠。したがって、誰もいないはず!
「おや、誰かいたのかい?」
「知らない女性が、立ってた……」
コワイ、とてもコワイ。夢に出てきそう。
『あの、わたくし、調理スキルです!』
扉の向こうから聞き覚えのある女性の大きな声が。
「調理スキルさん!??」
は? マジですか?
『はい。色々あって、顕現しました』
顕現って。
「あの、スキルって、中の人がいるんですか?」
背後の3人をチラ見する。3人とも首を横に振った。
『そ、そうですね、一般的にはいないと思われます』
「ですよねー」
って俺だってそんなん知らないよ。そもそもスキルだってよくわかってないのに。
まぁ、危険はなさそうだし、倉庫に入るか。扉をそっと開ける。
同じように女性が立ってたけど、その顔はにっこりと笑みを浮かべていた。
『ダイゴ様、この姿では初めてお会いいたします、調理スキルことロータンヴェンヘ-ザと申します』
あ、名前があったんだ、当然か。
「えっと、改めまして佐藤大吾です」
「実績解除が進みましたので、お手伝いとその案内も兼ねて、お邪魔させていただきました。よろしくお願いいたします」
深々と頭を下げたロータン……調理スキルさん。どうしてこうも長い名前が多いんだ、覚えられないじゃん。
『ローザと呼んでいただければ嬉しく思います』
「あ、はい、ローザさんで」
『ローザ、と』
「だめです、ローザさんです」
だって俺の様付けを直してくれないじゃん。数秒見つめあって、仕方ありませんね、とローザさんが折れてくれた。
「ところで実績解除といってましたけど、それって何です?」
そもそも実績って何よ。心当たりがないんだけど。
『実績とは、ダイゴ様の身の回りの変化を段階的に区分けしたもので、水神様が決めていらっしゃるものになります』
「水神様が決めたものかー」
ありゃー。
水神様のことだから悪いことではないんだろうけど。身の回りの変化といえば、3人のことをすっかり忘れちゃってた。紹介しないと。
「えっと、大変お世話になっている調理スキルさん改めローザさんです」
と振り返って紹介したんだけど、3人の様子がおかしい。3人ともフリーズしちゃってる。オババさんまでだ。ローザさんはそんな3人の前に歩いて行った。
『初めましてロータンヴェンヘ-ザと申します。よろしくお願いしますね』
ぺこりと頭を下げるローザさんと、無言でコクコクと首を縦に振る3人。
「水神様とも話ができる人なので、仲良くしてほしいなーって」
怪しいけど怪しい人ではないんだ。俺的には、だけど。
「わ、わかった、よ!」
「と、当然ですわね……」
「まさかと思うけど原初の――」
『お願いいたしますね』
ローザさんが再度ペコリした。どうしてかオババさん顔を引きつらせて笑ってる。スキルが実体化したことがそれほどの驚異だったんだろうか。




