表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/156

第二十六話 オレハシラナイヨ

「昨日の夕方変更があって、至急部品の整合性を取る必要があるって話で徹夜までしたのに朝になってその変更よりもひどい計画そのものが中止とかって、昨晩のうちにわかってたんじゃないんすか!」

「だってしゃーねーじゃん、客は移り気なんだよ」

「それに文句を言うのが営業の役目じゃないのかよ!」




 あぁ、まただ。

 頑張ってやっても結局なかったことにされて結果が残らない。

 俺のしたことは無意味だったのか。

 評価とは何か。

 俺が間違っていたというのか。


 あーーーっと叫んで、起きた。

 うむ、働いてた時の夢を見た。最悪の目覚めだ。


「あぁ、もう明るいな」


 地平線にゆっくりと顔を出す連星の太陽。空は赤みが強い。

 こんな朝は頭から水をかぶるに限る。悪夢は水に流してしまえ。

 静かに起き上がる。ぶちこは、まだ寝てるのか動かない。離れるために少し歩く。

 水袋をつかんで前かがみになって、後頭部からダバダバダバダバ。


「うひょーつめてぇぇぇぇぇ!!」


 ん-ー、目が覚めた。

 俺はもうあの会社にはいないんだよ。変更なんかクソくらえだ。

 住んでたアパートにもいないけどさ。

 自由だ。

 行動のつけは払う立場だけど、とりあえず自由だ。


「んがー今日も一日(いちにち)がんばろー!」


 がしゃっがしゃ髪をかき混ぜて前から後ろに髪を流す。手櫛で十分だ。


「おはようございます」


 背後から声が。これはリーリさんだ。


「おはようございます。いまから朝食をつくりますねー。あ、顔を洗います? 水、だしますよ」

「あ、はい、そうですね、お願いしますわ」


 リーリさんに水を出す。ぱしゃぱしゃと控えめな水音。


「ふう、朝から洗顔なんて贅沢、久しぶりですわ」

「あ、そうなんだ」


 水は貴重。忘れがちだ。


「あの、出発前で良いので、その、弓を直していただきたくて……」


 なにやら恥ずかしそうなリーリさん。俺、何かした?

 してないよね、寝てたもん。


「いま直しちゃいましょ。早い方がいいでしょ」

「え、あ、はい!」


 リーリさんが腰の魔法鞄から弓を取り出した。弦が切れてるね。ま、直せるでしょ。

 リーリさんから弓を受け取る。握るところがツルツルだ。長く大切に使ってるんだろうなぁ。

 大事な道具なんだ。しっかり直したいな。

 リーリさんにバッチリな弓になりますようにと祈願しながら、弓の端から端に掌を流して行く。


「……我ながら不思議だ」


 切れてたハズの弦は繋がってた。おまけに少し光ったのは見逃さない。

 ま、問題はないでしょ。

 ちょっと試しに引いてみたいな。なんて軽い気持ちで弦を引いたのが悪かったのか。


「び、微動だにしない……」


 弦が全く動かない。

 俺、非力すぎん?

 悲しみに暮れつつリーリさんに弓を返す。


「ありがとうございます!!」


 リーリさんは花丸の笑顔だ。大事な弓だもんね。


「ふぅー。せいッ!」


 リーリさんは深呼吸をひとつしてから弦を引いた。弦はギギギと軋みつつもリーリさんに応えた。

 すげえ、俺がやっても動かなかったのに。

 俺には向いてないんだわ、ハンターとか。

 無理無理。


「あぁ、すごい! 私が精一杯の力で引くと、ちょうど良い位置にきますわ!!」

「……それは何よりです」


 俺のお願いが効いたんだろうか?

 よくわからん。


「あの、試し撃ちがしたいのですが!」


 やべえ、リーリさんの顔が戦闘民族になってる。これは逆らうとやばい。


「じゃ、じゃあ水を撒いてみましょうかね」


 触らぬ神になんとやら。そそくさと水を撒いたさ。


「ピギャアァァァ!」


 出てきましたロックワーム君。3階建のビルくらいのが100メートル先くらいにドカーンと地面から生えてきた。


「ハッ!」


 背後から掛け声がして、ミサイルみたいなナニカが水平にすっ飛んで行った。

 リーリさんが放った矢はビルの根本を吹き飛ばし、朝焼けの空に消えていった。当然ビル(ロックワーム)は倒壊した。


「……あら、突き抜けてしまいました……」


 物理法則先生、ニュートン先生が健在ならば山なりって言葉があるんはずなんだ。

 思わずリーリさんを見た。テヘペロで返された。

 オレハナニモミテイナイ、イイネ?

 そんなこんながあったが、無事に出発した。今日中にアジレラに着く予定だ。


 歩き始めて3時間ほど。日焼け防止でフードをかぶってるんだけど、暑い。ベッキーさんもリーリさんも帽子も何もないのに、俺はかぶってた方が良いっていうんだよ。

 ひ弱判定されてるみたいだけどさ、反論できない。


「そろそろ川に出るはずですわ」


 背後からリーリさんの声。


「川?」

「エーテルデ川といって、ドゥロウギ大森林の奥地から流れてくる大河で、アジレラを東西に貫通しているのですわ」

「あとね、川の周りにだけ、畑があるんだ!」

「なるほど、水があるところなら農業ができるのか」


 荒地ばかりでどうやって生活してるんだろうと思ってたら、なるほど川があるのね。


「あの川沿いに街道があるので、そこからは人が増えますわ」


 確かに、遠くのほうに動く何かがちらほら。それを辿っていくと。壁とその奥にビル群が見えた。

 ビル?


「まさか、あれが目的地?」

「そうだよ! あれがアジレラだよ!」


 荒野の先に浮かび上がる、ねずみ色の壁と無機質なビル群。目立つな。


「はー、立派なもんだね」

「商業都市なので人の往来が多くて、住居のスペースが取れなくなって上に逃げるように発展しているのですわ」


 どこぞのタワーマンションかよ。まぁ、理屈は通ってる。ローマ時代にもコンクリートはあったんだし。高層建物くらいあるよね。


「わっふ」

「ぶちこは暇だろうけど、我慢してね」

「わふぅ」


 賢い子はなでなでしちゃうぞ。もふふふふっと下あごあたりを撫でまくる。


「あ、なんか飛んでる」


 灰色に向かって、青い空の中で黒いナニカが動いてる。飛行機、ではないよな。


「連絡用の飛竜ですわね」

「飛竜!」

「ぶちこちゃんくらいの、飛竜だね! ライダーが乗ってるんだよ!」

「ドラゴンライダーかー。ファンタジーだねぇ」


 あれ、なんかふらふらしだした。ぐいーんと大回りで遠くに行っちゃった。


「大丈夫なの、あれ」

「普段であればそのままアジレラ内に降りるはずなのですが、何か用事があったのでしょうか」

「まぁ、俺たちには関係ないでしょ」


 荒れ地をまっすぐ進むと、踏み固められた道に出た。そして脇には、大河と言って差し支えないほどの川があった。川幅は30メートルはあって、この荒れ地の中だったら大河でしょ。

 ただ、土手はなく、洪水が起きることはないんだろうなって感じ。

 ベッキーさんが言った通り、川の両側には畑が広がっていて、作業している人らの姿も見えた。なんか頭の上に動物の耳とか見えるんですが気のせいでしょうか。

 予想通り水田はない。麦とかの穀物と野菜が中心なんだろうな。


「割と透き通って綺麗な水だ」

「アジレラや下流の街の生命線ですわ」

「たまにね、流木も流れてくるんだ!」

「その、なんとか大森林ってとこからかー」

「「ドゥロウギ大森林」」

「そうそうそれ」

「荒れ地が多い中で大森林ってあるんだね」

「水の源、聖なる山から水が流れていると言いますわ」

「……聖なる山、ねぇ」

「山頂に池があって水神様が住んでるんだって!」

「山頂に池、水神様、ねぇ」


 思い当たる節しかないけど俺は何も聞いていない。なんですかリーリさん、その目は。

 オレハシラナイヨ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ