第二十三話 腹ペ娘無双
ひとしきり驚いてたベッキーさんが何かを拾って戻ってきた。さっきのピリッとした空気はなく、ニコニコ顔だ。
「魔石~魔石~」
「わたしの出番はありませんでしたね」
ふたりがハイタッチをした。
「いつもなら倒すのにふたりがかりで20分はかかるのにね!
「強くなったのかもしれませんが油断は禁物ですわ」
「そだね!」
なるほど、これがいつものふたりなんだな。
「ダイゴさん、ちょうど良いので休憩しましょうか」
リーリさんが提案してくる。コルキュルを出てから2時間くらい歩いたから、確かに足が疲れてきてる。
ふたりはそうでもないんだろうけど俺を気にしてなんだろうなー。
「腰掛ける石もないか」
地べたに座って水袋から水を飲む。空気が乾いてるから喉にしみいる感じでおいしい。
周りは荒地のみ。枯れ木のひとつもない。あ、これ野営とかどうするんだろ。
「なんかね、棍棒が軽くなった気がするんだ!」
「怪力スキルが強くなったのかもしれませんね」
「かもね!」
嬉しそうなベッキーさんとリーリさんをによによ見てる俺。なんか立ち位置が親だ。
「あ、ふたりで盛り上がっちゃってごめんなさい!」
ベッキーさんがぺこりとしてくるけど、俺はこの距離感がちょうどいいかなって。
「いやいや、すごかったよ。あんな大きいのと戦えるってことがまずすごくってさ。俺じゃ無理だもん」
「ロックワームは3級討伐対象なので、そうでもないんですけどね」
「強さの等級とかよくわからないけど、立ち向かえる度胸がすごいよ」
素直にそう思うよ。俺も理不尽な扱いに立ち向かってたら、ここにはいなかったのかもねぇ。
ま、くさくさしてもしゃーない。
「次は休憩する前に水を撒いて近寄ってこないようにしましょ。急に出てくるよりはマシだし」
「そうですわね。襲われるよりは対処がしやすいですし」
「さんせーい!」
こんな感じでちょっと休んだらまた歩き始めた。ぶちこは走り回ってるのか戻ってこない。弾けちゃってるなぁ。
小一時間歩いて腹時計が正午をさすくらいに、ポツンと廃井戸らしき石積みを見た。
「ここで昼食にいたしましょう」
「いつもここで休憩してるんだ!」
ここもやっぱり荒地だ。パサついた茶色。それしかない。
「ここは、もともと村があったんですわ。コルキュルが廃墟になった後、ここも廃村になってしまいましたの」
「ここにもその、スケルトンが?」
「この村はアジレラとコルキュルの間にある中継地でしたの。それなりに栄えていたのですが、コルキュルがなくなった後訪れる人も減り、こうなってしまいましたわ」
なるほど、過疎った結果なのか。日本でも廃村が出てるんだよなぁ。人の流れってのは、需要なんだな。自治体が若い人の移住者を募集してるのも死活問題だからなのか。
おっと、水を撒いておこう。井戸があるならこの中にダバダバ突っ込んどけば深くまでしみいるでしょ。水袋のひもを緩めてゴンゴン水を入れる。子供のころにやったアリの巣に水を入れていくのを思い出した。いつまで水を入れてもあふれてこなかったなぁ。
「ピギュアー」
遠くで聞き覚えのある悲鳴が。と同時にドッカーンという派手な音が。
「わっふぅ!」
ぶちこが帰ってきたようだ。ロックワームに体当たりはついでなのか。
「お腹がすいて帰ってきたな、たぶん」
「ぶちこちゃん、ロックワームにあたったことも気にしてない感じですわね……」
「うん、眼中にないって感じ!」
ちょっとお転婆って言葉では済まないかもしれないな。
「わふわふわふわふ」
「はいはい、お腹がすいたのね。リーリさん、食材を出してほしいんだけど」
「承知しましたわ」
リーリさんが魔法鞄からテーブルを出してきた。あれ、これって。
「教会のテーブルですが、ちょっと拝借いたしましたわ」
「あぁ、思いつかなかったな。これがあると調理も食事も楽だ」
「何をお出ししましょう?」
「えっと、昼の分のパンと、葉物野菜と、鶏肉かなー。ぶちこには肉の塊をお願い―」
リーリさんがテーブルにどんどん食材を出していく。調味料は俺が背負い袋で持ってきた。
大鍋に水をたんまりいれてぶちこにの前に置く。走り回って来たからのども乾いてるでしょ。
鶏のもも肉は皮つきのまま二口サイズくらいに切って塩コショウをまぶす。油をひいたフライパンに入れて加熱だ。炊飯用に下駄蓋をだして、肉の上に載せ重しにして火力最大級で一気に焼く。ジュアァァァlっといい音がしだした。
現実には不可能な密閉加圧焼きにして時間短縮を図る。俺式理不尽調理法だ。
「うぅ、いい匂いすぎるよー!」
もうベッキーさんが騒ぎ出した。まだステイです。
用意するのはニンニク。ニンニクを手のひらに載せれば、微塵切りになった。便利すぎです調理スキルさん。
頭にぴーっと電子音。もういいらしい。
蓋を外して肉をひっくり返したらニンニクを投入で少しかき混ぜて、また蓋をするっと。
「ん~、ニンニクの焼ける匂いがイイ!」
作ってる俺も腹減りだ。
「ダイゴさん、私たちにできることはありますか?」
リーリさんがそわそわしながら聞いてきた。待ちきれないんだな。
「あ、じゃあ手を綺麗にしたら葉物を適当な大きさにちぎって皿に盛ってください。食べたいだけ盛ってくださいねー」
ふたりに洗浄をかける。これでキレイキレイだ。
「ベッキーやりますわよ」
「はいはーい! ベッキーにお任せアレー!」
なんかいいな、これ。
「うん、もういいでしょ」
蓋をとって出来栄えを確認。
「きつね色にこんがりパリパリに焼けてる、イイネイイネ!」
ニンニクの匂いがやべぇ。俺のお腹も限界だ。
「ぶちこに肉にもちょっとにんにくを入れとこう。仲間外れはかわいそうだ」
大きなフライパンで肉の塊を焼く。ちょっとやキメが入ればいいから、そうしたらにんにくをぱらぱらっとまぶす程度で。フライパンの余熱でジュージューいい始めた。この間に盛り付けだ。
大きな平皿に肉をどこどこ載せていく。取りたいだけとってお願いのバイキングスタイルだ。
取る用のフォークを置いておけば問題ないでしょ。あ、パンも大皿にしてしまえ。
軽く焼いた肉を皿にのせて、ぶちこの前に置く。テーブルは配膳が完了してた。
「うう、我慢ができない―!」
「よし、じゃあ食べましょ!」
俺は手を合わせ、ふたりは祈る形で、それぞれの儀式を。
まずは肉を取ってパクリ。
「ん~~、皮がパリパリで、肉に汁が染みて、ニンニクのちょい辛が、ともかくうまい!」
うまいものに言葉はいらん。噛むごとにあふれる肉汁がたまらない。
「うう、美味しいよう! 食べる手が足りないよう!」
ベッキーさんは右手にパン、左手にフォークでひたすら食べている。腕が4本あったら食べまくってるんだろうなぁ。
「ちょっとベッキー、食べすぎですわよ!」
「だって、おいしいんだもん!」
「お肉を確保ですわ」
リーリさんが肉を自分のサラダの上に置き始めた。
足りなきゃ作るだけなんで仲良く食べてくくださいな。俺はパンを手に取って、真ん中を割る。肉を挟んで即席肉サンドイッチにした。
「むぐ、むぐ。パンに肉汁が浸み込んで、むぐ、うまいな」
「あ、その食べ方、おいしそう! あたしもー!」
やばい、パンもなくなりそうだ。パンは25個はあったはず。5人前以上は用意したと思ったんだけどな。
ベッキーさん、恐るべし。
あ、調理スキルさんと水神様にお供えができないや。




