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第二十話 問題とは

 薬草を売るのって、わりと定番なんじゃないの?


「薬草なら栽培できるから、売れたらいーなーって感じなんだけど……」

「薬草はドゥロウギ大森林の奥にしか自生していないので、大変貴重なのです。本当にお持ちなのですか」


 え、薬草が貴重?


「ポーションの原料ではありますが、ポーション1本を作るのに薬草がひと株必要になりますわ」

「そうだよ、すっごく高いの。ポーション1本で豪勢な食事が何回も食べられちゃうくらい!」


 ベッキーさんの基準がわかりやすい。高級フレンチを何回も食べられるくらい高いって感じか。売れればぶちこのご飯代に困ることはなくなるけど。


「もちろん売ることはできます。ギルドでも買取はしていますので、ただ……」

「ハンターギルドの買取はハンター登録しないと買い取ってくれないし、それにドゥロウギ大森林は中の魔物が強くて、最低でも2級ハンターでないと入っちゃいけないんだよね」

「つまり、わたしたちが売ろうとしても、そもそも3級ハンターな時点で薬草の出所を疑われます。ハンターではないダイゴさんだと、下手すれば拘束もあり得ます」

「えぇぇぇなにその不条理! それじゃ薬ってすっごく高いからほとんど存在してないとか? 病気とかどうしてるの?」

「病気にかかったら基本は寝るのですわ。治癒魔法で治す方もいますが主に貴族階級とそれ以上の方々ですね」

「お金持ちってわけかー」


 お金が強いのはどこでも同じか。貴族とか、ヨーロッパではまだいるみたいだけど、何してる人たちなんだか。

 ぱっと聞いた感じ、薬草を売るのはリスクが高いみたいだ。

 そもそもなんだが、ふたりはハンターだっていってるけど、ハンターってなによ。その辺を知れば突破口はできるのかなぁ。


「いまさらかと思われるかもしれないけど、ハンターってなんなの? 誰でもなれる、とか?」


 俺はなるつもりはないけどさ。


「大陸は魔物が多くて、人々の生活の脅威となっていますの。街を襲ったりするので、それらを打ち倒す力を持った者をハンターと定義されています。わたしたちはハンターを統括するギルドで登録してハンターとなりました。級は強さの基準ですわ。登録時の5級から始まって、3級で一人前、2級で上級者、1級になると英雄扱いとなります」


 武道の段とかと似たようなものかな。ふたりは3級だから、一人前扱いなのか。


「ハンターは、あたしみたいに戦闘向けのスキルを持ってたりする人がなるんだよね! 不器用で何をするにしてもうまくいかないとあたしみたいなにはうってつけだよね!」

「ベッキーさんはなんのスキルを?」

「あたしは怪力スキル持ち。持ってる人は割と見かけるけどね。ぶちこちゃんなら持ち上げられるよ!」


 ベッキーさんがぶちこを見た。俺もつられて見た。ぶちこは「わふっ」とないた。うん、でかいね。

 無理でしょ。

 とは思うけど俺の調理スキルさんを考えたらできるんだろうなあ。


「スキルはそのハンターの強さと直結しているので、あまり気軽に教えないのが良しとされておりますけど……」

「えー、だってあたしのスキルはすぐにわかっちゃうもん!」

「そうかもしれませんけど、もしかしたらダイゴさんが悪い人だったという可能性も考えてくださいませ」


 んー思い切り牽制されてるな。まあ当然か。


「大丈夫だって、リーリ。おいしい食事をご馳走してくれる人に悪い人はいないよ?」

「まったく、ベッキーはいつもそうですわ」


 リーリさんがぷりぷりしてるけど、本気で怒っているわけではなさそう。


「いやー、俺は悪い人かもしれないですよ?」


 なるべく悪そうな笑みを浮かべてみる。


「え、そうなの? どうしようリーリどうしようあわわわ」


 ベッキーさんがあたふたし始めた。いやわかりやすすぎでしょ。


「悪い人になり切れないお人好しさんかなとは。ダイゴさんは緊張感がたりないとは、思いますわ。助けていただいたのに不躾ではありますが、よく知らないハンターを無防備に迎え入れてはいけませんわ」

「あははは、まったくです」


 遠回しにハンターはやめておけど言われた気がする。

 うーん、そうするとぶちこの食費を稼ぐ方法が閉ざされちゃうなぁ。金を稼ぐって難しいな。


「ハンターでなくても薬草を売る伝手はありますけど……」


 リーリさんが口にしたくなさそうな感じだ。

 うーん、迷惑はかけたくないけど話は聞いてみたい。


「その伝手について聞いてもいいですか?」


 眉根を寄せたりーりさんが、むむむと口をひねってる。それでも美人さんだ。ベッキーさんも何か察した顔になってる。

 そんなに問題が多そうな相手なの?


「……わたしたちが活動しているアジレラに、薬師をしている伯母がいるのですが、少々荒っぽいのでダイゴさんとは相性が悪そうなのです。腕が確かで薬草を見る目もずば抜けていますので、信頼はできるエルフです」 


 あぁ、その伯母さんの押しが強くって俺が負ける流れを心配してくれてるんだ。優しいなぁ。

 ところで、さっきも聞いたアジレラってのは何のことなんだろ。町とかかな。


「もし、もし仮にそのアジレラってとこに行くとしたら、どんな問題があります? というかアジレラって?」

「アジレラは、ここから歩いて1日半のところにある商業都市だよ! 商人がたくさんいて、何でもそ揃うんだ!」


 徒歩1日半か。どこかで夜を過ごすのかー。野宿をしたことはないな。酔って公園で寝たことくらいはあるけど。

 それに魔物がいるって話だし。だからこそのハンターだもんなー。

 なんか死ぬフラグしかないじゃん。


「わたしたちが一緒にいれば、もちろんぶちこちゃんがいれば危険はないですわ。問題は、ぶちこちゃんが大きすぎるのでアジレラにはいれるかどうか、ですわ」

「そっか、こんなにおとなしいけど魔物扱いされちゃうかもだね!」

「それは……」


 ぶちこを見る。たれ耳で目を隠してしまっている。魔物扱いにショックを受けているようだ。

 ぶちこはワンコ。これは真理だ。


「ぶちこちゃんをダイゴさんの獣魔ということにするか、でしょうか」

「あ、獣魔使いはそこそこいるもんね!」

「ふむ、その獣魔ってのは魔物だけど協力的というくくりです?」

「協力というか使役する感じですね。もちろん獣魔との間の信頼関係は必須でしょうけども」

「あ、獣魔使いってことならハンター登録もできそうだね!」


 俺がハンター登録?


「ギルドって組織でしょう? いやー組織に属するのはちょっと……」


 元いたブラック設計会社を思い出しちゃう。いいように使われるに決まってる。ハンターになってギルドに属するなんて絶対に嫌だ。

 あと、俺が死ぬ未来しかない。


「あれ、そうなの? ギルドに属しているといろいろ便利だよ?」

「便利さと苦しみを天秤にかけたらギルドにはいかないって選択ししかないですー」


 うん、リーリさんの伯母さんの所へ行く一択しかないな。あとは都市へ行くなら服とかも買いたい。

 着替えが全くないしさ。下着も洗浄スキルでキレイにはなるけどすっと着っぱなしはなぁ。それに部屋着も欲しい。タオルとかも欲しいし。


「あぁ、買うためのお金がないんだったぁ!」

「ダイゴさんは、そんなにお金が必要なの?」


 ベッキーさんに心配されてしまった。


「わたしたちは明日アジレラに戻るので、ダイゴさんも一緒に行かれますか? 助けていただいた上に美味しい食事までいただいたお礼としては少なすぎるのですが、如何でしょう」

「あ。それがいいね! アジレラを案内するよ!」


 なんか、そうなった。

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