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第百二十七話 ドシロ村に戻ってきた

 巨大なガラス容器を土産にドシロ村へ空をかける。北限の寒さは何をしても寒いので素直に防寒着を着ることで我慢する。早朝のアジレラを出れば昼くらいにはドシロ村に着く。ぶちこサマサマである。

 眼鏡白熊ことザシロ・ヒ・ホワイトベアーさんを探さねば。村にいるのは全員白熊で、どこかにワンポイントの何かをつけてるだけなのでぱっと見で探しにくい。

 あと、コワイ。


「いないなぁ」

「あ、あそこにいる!」


 ベッキーさんが見つけたようで、ザシロ熊さんは五右衛門風呂みたいな鍋を担いで炎の柱に歩いていくところだった。


「ザシロさーん、解決できるブツを持ってきましたー」


 俺たちが小走りで向かうと、ザシロさんは五右衛門風呂を氷上に置いて小さく手を挙げた。


「やぁ、また来たのかい」


 ザシロさんは今日も穏やかだった。周りにいる白熊たちもなんだなんだと集まってくる。


「彼らは水神の使いで、この状況を何とかしてくれると言っているんだ」


 ザシロさんの説明に「ほぅ」とか「ふむ」とかなんとも言えない反応が返ってくる。そりゃそうか。


「ここは見せたほうが早いのかもしれません」

「だねぇ。じゃあとっととやっちゃいますねー」


 リーリさんの提言にしたがって何か言われる前にやってしまおう。


「ここにガラスのデカいやつを置いて、氷を溶かせないかと思いまして」


 リーリさんが取り出した5メートル四方のガラス容器を置く。この大きさなら炎の柱のそばにおいても邪魔にはならない。あそこはちょっとしたスペースになってる。白熊さんたちは暑くて近寄りたくないだろうからね。


「ふむ。じゃあそこに氷を入れれば、水になるってことかな?」

「そのつもりで用意したので、ガラス容器を炎の柱のそばに置いてパイプをつなぎたいんですよ」

「なるほど」


 そう頷いたドシロさんは周囲の白熊さんたちに顔を向けた。


「みな、どうだろうか?」

「良いアイディアだと思うよ」

「そうだな、僕らではどうしようもないし」

「試してみる価値はあると思うよ」


 白熊さんたちからは穏やかな答えが返ってくる。ホワイトベアー族はおっとりさんが多いのか、助かる。


「うん、ぜひやってみて欲しい」

「じゃあじゃあ、持って行くね!」


 許可が出た途端にベッキーさんがガラス容器を持ち上げてトテテと駆けだす。


「走ると転んでしまいますわ!」

「大丈夫だもーん!」

「まったくもぅ!」


 ぷぅとほっぺを膨らませたリーリさんもベッキーさんを追いかけてしまった。俺はのんびり行くとしよう。

 炎の柱までは徒歩で5分ほど。そもそもドシロ村は小さいから走るほどじゃないんだよ。

 まぁ早く試したいってものあるのかもしれないけど。ここ、寒いし。


「炎に近すぎると白熊さんたちが氷を投入できませんわ」

「えー、でも遠いと氷が溶けないよ?」

「では、氷が溶けるぎりぎりを攻めましょう」

「えっと、このへんかな?」

「もう少し、攻めてみませんこと?」


 先に着いていたふたりがガラス容器の位置をいい感じに調整している。遠すぎず近すぎずそれでいて暑がりの白熊さんたちが氷を投げ入れできる距離にだ。

 ただ、もともとのパイプは炎の柱の中に入っちゃってるんだよね。見落としてた。どうするかなぁ。


「わっふ!」


 ぶちこがひと吠えしてガラス容器の近くに歩いていく。ガラス容器のパイプ接続口と炎の柱を見比べて、氷上にぺたんとお尻をつけた。


「ぶちこ、なにする――」

「わっふぅぅぅぅぅ」


 下を向いたぶちこの口からレーザーみたいな真白い何かが放出されて、氷に穴があいた。すげぇ、口からビームだ。


「わっふわっふわっふっふ」


 前足でガラス容器とできたばかりの穴を交互に指してる。


「この穴につなげってこと?」

「わっふわっふ!」


 ぶちこがぶんぶんと頭を縦に振るので正解のようだ。


「もしかしたら、下の氷の中で元のパイプと繋げたの?」

「わふ!」


 正解!と言わんばかりにぶちこはが短く吠えた。


「ぶちこちゃんはこの氷を溶かせるのですね」

「わ、すごいね!」

「うーん、そうなんだろうからやってみるかな」


 リーリさんに接続用のガラスパイプを出してもらった。ゴムなんて素材はなさそうだし鉄だと錆びるし、ついでだからガラスで作ってもらった。直管と45度エルボ(曲がり管)だ。45度エルボを氷上にできた穴に差し込む。そこにぴったりくるようにガラス容器を微調整。容器の内側から直管を水の出口に差し込むと、エルボにぴったりはまる感じで収まる。

 ガラス容器と氷上の穴がドッキングした。


「すごい、全部手作業でやってたのにジャストフィットだ」

「ガラスマスターのスキルはすごいのですね」

「腕が治って、よかったね!」


 レパパトトスさんマジすげえ。腕の怪我さえなければ超一流の職人さんじゃん。

 

「どうやら完成かい?」


 背後にいたらしきザシロさんがぬっと視界に入ってきた。白熊がぬっと出てくるのは心臓に悪いのでやめていただきたく。


「完成はしたので、試しに前のように氷を入れてもらえます?」

「任されよう」


 ザシロさんはのしのしとどこかに歩いていったけど数分で戻ってきた。頭上に1メートル四方ほどの氷のブロックを掲げながら。さっくり1トンの氷だけど軽快な足取りだ。


「いつもの半分くらいの大きさだけど、試しなら丁度いいかな」

「いつもはもっと大きいの!?」

「それくらいの氷を入れないと、飲み水には足りないからねぇ」

「ごもっともだけど……」


 ザシロさんは氷のブロックをゴトンとガラス容器に入れた。入れた途端に氷が溶け始める。じわじわ溶けてガラス容器に水が溜まっていくけど、ポンプを動かすにはまだまだ足りない。ある程度水に浸からないと動かないんだよねぇ。


「よし、次々入れよう」

「次は僕だね」

「じゃあその次はオレかな」


 ザシロさんの後ろには同じく氷のブロックを掲げた白熊さんたちの列がある。かわるがわる氷を入れては離れていく白熊さんの群れ。なかなかシュールだ。

 でも、そのおかげでガラス容器には水がたっぷり溜まった。


「そろそろポンプを動かしても大丈夫かな」

「じゃあやってみるね!」


 ベッキーさんが「暑い暑い」言いながらポンプに駆け寄って魔力を流した。

 キューンとインバーターっぽい音がしてズゴゴゴとガラス容器の中の水を搬送し始める。溜まっていた水があっという間に減っていく。


「おっと、それほど減るのが早いのならもっと大きな塊を入れても大丈夫そうだね」

「ふむ、ならば次はいつもの倍の大きさにしてみよう」

「いやいや、3倍もいけるのでは?」

「いっそのことこの容器くらいの大きさの氷でも良いかもしれないね」


 白熊たちがガラス容器の前で相談を始めた。くまさんの井戸端会議だ。いつ終わるやら。

 試験動作は成功したし、後の運用は白熊さんらに任せよう。


「作動は大丈夫なので、ホワイトベアーの方に確認しに行きますね」

「あぁそうだね。向こうに水がいかないと意味がないからね」

「何か異常があれば戻ってきます。来なければ問題はなかったと考えてください」


 北限は寒いからね。滞在時間も減らしたいのよ。


「うん、わかったよ。これでしょっぱい水を飲み続けなくってもよさそうだよ。本当にありがとう」


 そういうザシロさんの顔は、なんとなくほっとしたように感じた。白熊の顔だから本当になんとなくだけども。


「じゃあホワイトベアーに行きますね」

「じゃあねー!」

「また機会あれば」


 ぶちこに乗ってドシロ村を離れた。族都ホワイトベアーまではすぐだ。


「早く暖かいところに戻りたいよー」

「もう少しの我慢ですわ」

「そうそう。これが終わったら一区切りだね」


 俺がなんとなしにそう言うとふたりはぎょっとした顔になる。あれ、変なこと言ったかな。

次が最終話になります。

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