第百二十六話 巨大ガラスプール
エルエッサ村の守衛?さんに挨拶して北の鉱山へ。受付のおばちゃんは忙しそうにしている。
なんでも鉱山歌のとおりに割れた宝石が出たとうわさが広まって宝石目当てのカップルが増えて対応が大変なんだとか。ドコノダレナンダロー。
受付のおばちゃんが俺とベッキーさんとリーリさんのペンダントをチラ見してきて居心地が悪いのでそそくさと鉱山に向かう。身から出た錆なんて言わない。文句は土の神様に申して立ててどうぞ。
「あ、ガラスってどこで採れるか聞くの忘れた」
「ガラスは固い岩の壁にあったと記憶してますわ」
「前にね、硬い岩の中なら宝石があるだろうって壊しながら掘ったときに、ガラスを見つけたよ!」
「あの時は宝石だ!って喜んだのですが出口でガラスといわれてショックでした」
「あれは、がっかりだった!」
「ほんとうですわ」
ふたりは当時を思い出したのか、ちょっと苦笑い気味だ。まぁいい思い出だったってことで。
「じゃあ固い岩のあたりを掘りまくればガラスをゲット?」
「たくさん掘るよ!」
ベッキーさんがデカいハンマーを取り出してフンスと構えた。鉱山を崩壊させないでねと心で祈っておく。やれそうだから怖い。
手すりのない螺旋階段を下りれば見覚えのある大広間に出る。放射状に通路というかトンネルがあってどこに行けばよいやらだ。
「ぶちこ、硬い岩がある方向ってわかる?」
「わっふぅ!!」
ぶちこに聞けばしっぽを振りながらとある方向に走っていくのでついていく。あまり人気のない通路をたったか進んでいくので見失わないようにするのが大変だ。
「わっふぅ!」
ぶちこがひと吠えしたのは、オレンジの背景に白と黒のごまみたいな模様をした岩肌だ。なんか見たことあるな。あ、小学生の時に社会科見学で行った国会議事堂で見たような石だ。何とか石とかブランドがあったはずだけどもう記憶にない。
「綺麗な模様の岩ですわ!」
「壊しちゃうのが、もったいないね!」
「うーん、でも壊さないとガラスが取れないしねぇ」
あちらを立てればこちらが立たず。でも優先はガラスなんで、今回は涙をのんで壊すべし。
ふたりが躊躇しているので聖剣ノコギリを取り出す。嫌な役なら俺がやる。
「さーて、切れ味はどうかな」
ちょっと悪そうな笑みを浮かべてみる。ふたりから「ぷくく」と笑いを我慢する音が聞こえてくるけどスルーしよう。顔を向けたら負けだ。
「てぇぃっ!」
気合を入れすぎたのか聖剣ノコギリが岩に吸い込まれ、その勢いのまま下に切り込んで地面まで切ってしまった。もう少しで俺の足もさようならするところだったよアブナイ。
「つまらぬものを切ってしまったって言いたかったなー」
「切れすぎるのも問題ですわね」
「だね!」
「わっふ」
慰めともとれるお言葉をもらい、気を取り直して岩を切ってベッキーさんに破壊してもらう。岩の破片からゴロンゴロンと透明な手のひらサイズの球が転がってきた。
「これがガラス玉か。思ったよりも小さいから、かなり集めないとだめだ」
「では、急ぎ集めましょう!」
「よーし、やっちゃうぞー!」
「わっふぅ!」
ドカンドカンとベッキーさんがハンマーで岩を砕く傍らでぶちこが前足でガリゴリ岩を掘り進んでいく。リーリさんは砕かれた岩の中からガラス玉を確保する係だ。俺は聖剣ノコギリで岩に切り込みを入れる係さ。
ものすごい騒音の中で作業すること2時間。小学校のプールくらいの量のガラス玉が集まった。さすがに疲れた。
「これだけあれば足りるでしょ。足りてお願い」
「では、急ぎ戻りましょう」
「わ……ふ」
吠えようとしたブチコの口から色とりどりの宝石が転がり落ちた。ざっくり数えても20は越えてる。ぶちこは「わふふふ」と反省するように頭を下げた。
「……今回はきちんとお金を払おうかね」
受付のおばさんに大金を払ってエルエッサを出て一路アジレラに。教会の裏に降りてコルキュルに向かう。
「ホントに大量のガラスを用意したなぁ」
ベッキーさんとリーリさんが持ち込んだガラス玉の山を前にレパパトトスさんは頭をかいている。まさか昨日の今日でこれほどとはという感じだけど、でもどことなく嬉しそうだ。
ガラス加工に炉が必要だけど、なぜかキューチャ商会のイケオジヤクザが準備万端状態で完成された炉の横にスタンバってて、すぐに加工が可能になっていた。予想通りなんだけどなんか悔しい。
「いやぁ、チトトセとサィレンがブランデーを飲むのに洒落たグラスがあるとより映えるってんでガラス加工を頼むことにしててな」
炉を餌にレパパトトスさんを確保していたんだろう。多分それだけじゃなくって、その先の先まで見込んでレパパトトスさんを確保してるはず。まぁ、いい就職先と思えば。俺もビールジョッキを頼もうかな。
「割り込んで申し訳ないんですが、先に作ってもらっていいですかね」
「おぅ、話は聞いてる。早いとこホワイトベアーのところに持ってってくれ。あそこはうちのいいお客なんだよ」
ラゲツットケーニヒさん曰く、北限で産出される砂糖と塩をほぼ独占しているとのこと。あの道は商会が作ったとか。インフラまで手を入れてるって、マジ大商会じゃん。
「んで、でかい水槽が欲しいって言ってたけど、どれくらいなんだ?」
炉の火加減を確認しているレパパトトスさんが聞いてきた。
「5メートル四方でなるべく深いほうがいいです、直径1メートルのパイプに接続可能な口が欲しいです。あと直管も少し」
「それなりにでけえな。だが、俺にできないものじゃねえなガハハ!」
レパパトトスさんがにやりと笑う。炉よりも断然でかいんだけど、できると言い切る。
「ふん、まあ見とけ」
ガラス玉を手に取ったレパパトトスさんはそれを炉に放り込んでいく。溶けて炉にくっついちゃうんじゃと思ったけど、レパパトトスさんが鉄の棒をつっこむとデロっと溶けたガラスの塊が出てくる。それを素手で掴んでグイっと伸ばし始めた。
「熱いうちに形を変えねえと固まっちまうからな」
伸ばしつつガラス玉を炉に放り込んでは溶けたガラスを取り出して、成形してあったガラスにつっくけていく。見る見るうちに成形されたガラスが巨大になっていく。
「ガラスって、融合するんだ……」
「おう、それがオレのスキルだからな! アチチチ」
炉の火が跳ねたのか、レパパトトスさんが素早く手を引っ込めた。なるほど、これがガラスマスターなんだ。ガラスを触ってもやけどはしないけど、炉の炎ではやけどをするのか。
「数時間はかかるからどっかで暇つぶしてくれ」
「数時間でできちゃうんだ……」
暇つぶしというか小腹がすいたのでちょっとブレイクしてたら終わってた。数十分の間違いやんけぇ!
「おぅできたぞ!」
自慢げ腕を組んだレパパトトスさんの背後に、一辺が5メートルほどの超巨大なガラスの器がある。透明で、日に当たってきらっと光って、すごくきれいだ。かき氷を入れたら泳げるかもしれない。
「すごい!」
「大きいですわ……」
「がっはっは、オレの手にかかればこんなもんよ」
浮かれてふんぞり返りすぎて倒れそうになったレパパトトスさんだったけどガハハとごまかしていた。割とメンタル強いな。
「こんなもんでいいか?」
「えぇ、想像以上です」
これだけ大きければ氷の塊をどんどん積み上げてもあふれることはないでしょ。
「あ、熱で溶けちゃうってことは、ないよね?」
「最後の最後で、鉄が溶けてもこいつは溶けない様に固めておいたから、大丈夫だ!」
「……固めれば溶けないんだ」
ここでもパワーイズパワーがまかり通ってたか。




