第百二十五話 それぞれの道
「え、ここに残りたい?」
「す、すみません……」
飲みすぎて二日酔いになった全員(俺とロッカポポロさん除く)を手当てで治し終えた後、そのロッカポポロさんにそう言われた。
お婆ちゃんがいるのにお世話できそうな人がいないのは問題だと。
「……ちょっといいか」
いつの間にか復活していたサンライハゥンさんが俺の腕を引っ張ってくる。彼女の前では言えないことだろうか。連れられるまま外に出た。
「あの娘は、元にいた商会の時に、あのくらいの小さい婆さんがかわいがってくれてらしい。商会から逃げ出すときに、それだけが心残りだと聞いたことがある」
そう言われて理解した。もうできない恩返しか。
ただ不安はある。男どもの中に女の子を放つということは、危険でデンジャーなわけだ。でもロッカポポロさんの意向は尊重したい。もしかしたら縁あって手助けとか期待できるかもしれないし。
「んー、ちょっとマッキンドール氏と話をしてくる」
「余計なおせっかいかもしれないが」
「気にしないで」
「ちょっといいー?」と中にいるマッキンドール氏とロッカポポロさんを呼ぶ。関係者に同時に話をしたほうが早い。
「……というわけで彼女がお世話してもいいって言ってるんだけど」
「なんと。それは助かるけど……いいのかい?」
マッキンドール氏がロッカポポロさんを覗き見る。
「えぇ、皆さん見た印象は怖いのですが、ちゃんと話は聞いてくださいますし、洗濯して綺麗になった服を見てお礼をしてくれましたし」
うつむき加減だけどロッカポポロさんが強めの語気で言い切った。控えめな彼女がここまで強く言うのは初めてだ。俺としては彼女を止められない。
「僕らは大歓迎さ! なにせ僕をはじめとして、誰も料理ができないんだハッハッハ!」
開き直って歯を輝かせて笑うマッキンドール氏。まぁ俺も調理スキルさんがいなければ料理なんてできてないんだけどさ。
「大森林の探索を終えたときは、必ずアジレラの水の教会まで彼女。送り届けてくださいね。絶対ですよ?」
「うむ、光の使徒の名に誓って約束しよう」
マッキンドール氏は真面目な顔で歯を光らせた。光の使徒ってバラしていいの?
まぁでも言質はとった。違えたら水神様をけしかけて水を止めてしまおうそうしよう。
手を合わせてにこっと微笑むロッカポポロさんを見るに、間違った選択じゃないと思う。これからまた探索に向かう腕白一番と別れ、俺たちはアジレラに向かった。
ぶちこに乗って飛んでしまえばアジレラにはすぐ着いた。教会の裏手に降りてレパパトトスさんを探す。
「あのおっちゃんがいそうなのは――」
「レパパトトスのおじちゃんは、コルキュルで炉を作ってるよ!」
教会を掃除してるメイド服女児のトランダルちゃんが教えてくれた。向こうに炉を作ってるのか。それならちょうどいい。
「そういえば、おじさまが何度かコルキュルに来ていたようですが。収穫した果物を売るルート構築だと思っていましたが……」
「なにか商売に繋がることをやるはずだろうねぇ。商売っ気の強いチトトセさんもいるし」
チトトセさんが、なによりイケオジヤクザが腕のいい職人を放置しておくとは思えない。ブランデーをより美味しそうに良く見せるならガラス職人に見栄えのいいグラスを作らせることくらいはやるな。
こっちの用事もねじ込まないとまずいかも。
「ちょっと急いで探そうか」
コルキュルに移動したら教会の裏手の木々を切り開いて何かの作業をしている先生とレパパトトスさんら見つけた。知らない男性も交じってるけど作業をしているので職人か何かだろうか。
声をかけるのを躊躇していると、先生がこちらに気がついたようで小さく会釈した。
「取り込み中にすみません」
「いえいえ、無事なお帰りでほっとしましたよ。ダイゴ殿は何か御用事で?」
「レパパトトスさんに作ってほしいものがありまして」
俺の言葉を聞いたのかレパパトトスさんがこっちに顔を向けた。大汗で額に砂をつけたままだけど、とてもいい笑顔だ。
「おぅ、大森林に行ったって聞いたけどもう帰ってきたのか?」
「えぇ探しものが見つかりましたので。早速なんですが作ってほしいものがありまして」
「お? オレで作れるもんなら何でも作るぞ。で、なにが欲しいんだ?」
腕を組んだレパパトトスさんが値踏みするように俺を見てきた。「オレを楽しませてくれよ?」みたいな圧を感じる。レパパトトスさんの技術はわからないけど腕利きのガラス職人だったはずので期待大だ。
「ガラスででっかい水槽を作りたいんです。しかも熱で割れないほど強いやつ」
ガラスじゃないとダメなんだよね、錆びるから。
「ガラスなら俺に任せろ。俺のスキルはガラスマスターだ。作れねえガラス製品はねえ。にしてもだ、ガラスの材料はあるか? でかい水槽だと、かなりの量が必要だぞ?」
レパパトトスさんが顎をさすりながら問うてきた。確かに、作るにしても材料は必要だ。ガラスの材料はいくつかの鉱物からできてたはず。
「鉱物鉱物……鉱物といえば――」
「「エルエッサ村!」」
ベッキーさんとリーリさんの声がハモる。
「あそこは、ガラスも掘れるんだよ!」
「土神のお膝元なので、この世の鉱物はすべて出ると言われていますわ」
「宝石目当てが多いけどね!」
「なるほど、ガラスそのものが採掘できるんだ……掘ってる最中に割れちゃいそうだ」
ガラスが産出するけどガラス製品をあまり見かないのは加工が手間だからなんだろうか。お高い嗜好品ならペイできるんだろうけど大量生産が必要な日用品だとそうもいかないってことかな。割れやすいし、板ガラスを作れるほどの機械というか魔道具もないんだろうしね。
「エルエッサならまぁ揃うだろうが、かなりの量だぞ? 持ち帰れるか?」
レパパトトスさんが肩眉を上げて疑問を呈した。
「あたしが、たーくさん持てるから!」
「わたしもたくさん持てますので!」
「「大丈夫!」」
「お、おう……そうか、そいつは心強いな」
レパパトトスさんがふたりのやる気に引き気味だ。息ぴったりのふたりを見てると和む俺がいるな、うん。おっとここでたたみこまないと。
「もちろん代金は弾みますよ?」
「む……それなら、酒がいいな。あの酒精が強くてやたら旨い酒で手を打とう。あれこそ仕事の対価としてふさわしい!」
レパパトトスさんが腕を組んで目をつむった。金よりも酒か。ドワーフらしいというか。
でもこの世界だとブランデーとか超貴重品だし理解できなくもない。レパパトトスさんなら普通に稼いだ金で買えるんじゃないかな。
酒が欲しいと聞いたリーリさんがちょっと嫌そうな顔を見せたけど、そこは俺がフォローするしかない。忘れちゃいけないのは、目的はホワイトベアーの水源を復活させるってこと。これはマストだ。
「わかりました。ビールでも日本酒でもなんでも出しますよ」
「おおそうか! オレに任せとけ! 炉は明日にでも完成するから、火入までしとくぜ!」
レパパトトスさんがはじけるような笑顔になる。ドワーフのおっさんのニコニコ顔はノーセンキューだけどしっかりやってもらおう。
善は急げと早速エルエッサ村に向かう。もう歩きとか考えないでぶちこに乗せてもらって一気に行く。道行く人らが見上げるてくけど急いでるんで御免あそばせ!




