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第百二十四話 宴は甘辛で

 地上で合流したマトトセさんが事務棟を見て、俺に話しかけてきた。


「あの建物を持って帰っちゃまずいかねぇ」

「あれを、ですか?」


 マトトセさんが親指で背後の事務棟を指している。あれをどうやって持ちか……まぁできちゃうか。リーリさんもどこかからあの部屋を出すわけだし。マッキンドール氏も出したし、わりとメジャーな能力?なのかも。

 でも、明らかに文明度が違う、いわばオーパーツを持ち帰ったらどんな騒ぎになるかわからない。金持ちに目をつけられたら面倒だろうしなぁ。


「あれは、あのままにしておくのがいいかなって思うんですよ」


 ふとエントランスのガラス張りを見る。あんなガラス貼りの空間はこの世界にはなかった。貴族のお屋敷とかは知らないけど、少なくとも首都の執務城にはなかったように記憶してる。

 何か生み出すために苦しんで雲をつかむような状態で、どこかから持ち込まれたその目指す完成品を見ると「やっぱりできるんだ」となり、それは成功へとつながっていくんだけど、本当は試行錯誤と苦労の末にひとつの回答を見つけた人がいるはずなんだ。その人がフロンティアを開拓した栄誉に与らないとだめだと思うんだよね。

 それはこれから出てくると思うんだ。レパパトトスさんとか、やりそうだもの。


「あれは、この世界にはそぐわない物だからさ。魔道具を持ち出すのはいいと思うけど」

「あんたが言うなら、仕方ないねぇ。もったいないけど諦めて別な遺跡を探すさ」


 マトトセさんは肩をすくめながらも理解を示してくれた。後日ここに来て持って行くかもしれないけど。いややりそうだ。


「ダイゴ殿の探し物は見つかったようだね。君たちは戻るのだろう? 僕らは、せっかく大森林に来たからね、マトトセ婆さまの探し物に付き合うことにするよ」

「おや、そいつは助かるねぇ」


 マッキンドール氏が歯を光らせながら俺に話しかけてきた。マトトセさんともうまくやっているようでちょっと安心した。

 マトトセさんひとりにするとまた魔獣に追いかけられちゃう気がするから一緒にいてくれるなら安心だ。


「もし壊れた魔道具があれば、アジレラの水の教会に持って来てください、直しますんで」

「あぁ、そうさせてもらうよ」

「じゃあ拠点に戻って夕食にしましょう。マトトセさんもどうぞ」

「おやおや、この婆も行っていいのかい?」


 マトトセさんが珍しく遠慮をしてる。遠慮するようなことがあったかな?


「マトトセ、婿殿の作る料理は()()さ。あれを食わなきゃ死にきれないねぇ」

「ほーぅ、デアがそこまで言うんなら、よほどなんだろうねぇ」


 マトトセさんがニヤッと笑った。このお婆ちゃんズは付き合いが長いからか、のせ方も手慣れたように見える。


「ぜひぜひ、マトトセさんが売ってくれた魔道具で作ったお酒もありますし」

「そうかいそうかい、楽しみだねぇ」


 ということになった。

 日が傾いて夕闇が忍び寄る中、夕食と聞いた皆の足取りは軽く、襲ってきた魔獣は腹ペコハンターたちのやる気の前に瞬殺されていった。大森林って魔獣がすごく強くて1級ハンターでないと生きていけないとか言ってなかったっけ?

 拠点に着けばメイド服のロッカポポロさんが干してあった洗濯物をしまっているところだった。


「ロッカポポロさん、帰りましたー」

「あ、おかえりなさいませ!」


 嬉しそうに、それと安どの笑みは、夕焼けに照らされて、そうはもう可愛かったさ。腕白一番のヒャッハーさんたちが固まっちゃうくらいに。


「おら男ども、ボサットしてないで着替えてきな!」


 ヒャッハーさんたちがオババさんに追い立てられて拠点に入っていく。


「あ、清掃スキルかけるの忘れてた。まぁ食事前でいいか」

「わたしは、いまがいいですわ!」

「あたしも、いまがいいな!」

「汗かいてベタベタじゃん」

「これくらいはいつものことだ」

「汗、嫌」


 約一名大丈夫というけど多数決は絶対なので清掃スキルでさっぱりしちゃう。すっきりしたところで女性陣を着替えに追いやって俺は調理だ。

 魔獣と戦って腹ペコなハンターはさぞかし食うだろう。鶏肉が大量にあるので自然と鶏肉料理を選ぶことに。


「うーん、サラマンダーの抜け殻のカレー粉でカレー沼に沈めてやりたい。ヨシ、これに決めた」


 巨大なフライパンに油をひかないで鶏肉を焼く。じゅうじゅと肉が焼けるいい匂いがして焦げ目ができたあたりでひっくり返しす。匂いだけでお腹が鳴りそう。


「ここで投入するは秘蔵の醤油、酒、酢、サラマンダーの抜け殻を粉にした疑似カレー粉を混ぜたスペシャルブレンドたれ! これは絶対にうまい!」


 スペッシャルなブレンドたれをフライパンで戯れる鶏肉の群れに投入し蓋をしたら5分ほど蒸す。蒸したら蓋を開けて汁がなくなるまで煮込んで出来上がり。

 蓋を取ったらスパイシーな薫りが俺の腹を直撃する。表面は照り照りな皮が輝いて見える。甘辛カレー風味照り焼きチキンだ。匂いだけでご飯がいける。

 うう、つまみ食いしたいけど我慢だ。なにせこれの数倍を作らないと絶対に足りないのだ。

 野菜マシマシスープも作らねばいかん。遅いと腹ペコハンターに俺が狩られてしまう。時間との戦いだ。


「おいしい匂いが2階迄くるよう」


 ベッキーさんが夢遊病のようにふらふらとやってきた。やばい、リミットが近い。フライパンを増やして倍速で焼く。床に大鍋を置いてお湯を沸かし刻んだ野菜を投入する。肉が辛いからホワイトソースにしようかな。

 フライパンダブルと大鍋シチューの3刀流だ。忙しい。

 ぶちこはおとなしく足元でわふわふしてる。ステイが効くいいワンコだ。

 2階で着替えていた女性陣が続々と集まってきてはフライパンを覗いていく。ハンターさんたちの目が怖いのですが。


「出来上がるまでお酒を飲みましょう」

「つまみは、とりあえず携帯食でいいだろう。ほらマトトセ、この酒さ」

「へぇぇ、透明なんだねぇ」

「味は格別さ」


 リーリさんとオババさんが音頭を取って酒に誘導した。助かるけど、のん兵衛が増えるだけかもしれない。

 なんてタイミングでマッキンドール氏と腕白一番がはいってきた。ロッカポポロさんには配膳を頼む。


「お腹を刺激するいい匂いが外まで漂っててお腹が悲鳴をあげているよ」


 マッキンドール氏が歯を光らせた。背後のヒャッハーさんたちの目が肉食獣になっててコワイ。


「ウェイトあと5分ちょっと待って!」


 そう叫んでから5分きっかりで25人分を作り切った。足りてくださいオネガイシマス。


「お肉が美味しー!」

「うめえぜヒャッハー!」

「この酒は美味しいねぇ。長く生きてるけど、初めて飲んだよ!」

「スープもおいしいです! お肉も甘辛くって、おいしいです!」

「姉さん、酒をひとりじめはダメじゃん」


 戦勝会ともいうべき夕餉は照り焼きチキンとブランデーとウィスキーが飛び交う宴になった。マトトセさんとオババさんがヒャッハーさんらと笑いあってたりロッカポポロさんとマッキンドール氏が楽し気に話しているのをゆるい笑みで見ているサンライハゥンさんとか双子の狐っ子が酒の取り合いしてるのとか、それぞれが楽しんでいるのを、俺はブランデー片手に眺めてる。

 騒がしく姦しいけど、この雰囲気はいいなぁ。

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