第百二十一話 探索開始
というわけで腕白一番に事務棟の探索を任せて俺たちは崩れそうな遺跡にゴーだ。壁が大きく崩れた場所から中にお邪魔した。
床はコンクリートっぽい感触だけどひび割れが酷い。ザリザリと砂の感触がする。天井はすっかり崩落していて空が見える。
「んー、日差しがまぶしい」
「明るくって、いいね!」
ベッキーさんがにぱっと笑顔で天井を指さした。木も遺跡の上までは浸食できなかったようだ。廃墟なのに木漏れ日みたいでいい景色にも見えちゃうのが怖いな。
「上からがれきが落ちてこなくって丁度いいじゃないさ」
「それは言える。戦闘中に突然崩れてきても邪魔なだけだ」
オババさんにサンライハゥンさんも絶賛だ。ハンター的思考はこうなんだろうなぁ。
壁もだいぶ崩れてるけど配管が走り回ってってそれが支えになってる感じだ。配管が落ちれば壁も崩れそう。
広い通路と思われるところにいるけど、だいぶ先まで見通せるから、かなり大きな建物だったんだなって。
ただ、配管途中に機械らしき物体は見当たらない。
「どっから探すじゃん?」
「んー、手あたり次第探すしかないんだけど、機械室を探したいんだよねー」
「なにそれじゃん?」
トルエが半目を俺を睨んでくる。何も悪いことは言ってないよ?
図面もないし、何よりここが何のための工場なのかもわからないんだから虱潰しにやるしかないんだって。
「設備用の機械はだいたい機械室にあるんだよね」
「キカイってな、なんだい?」
「魔道具みたいなものです」
ふーん、というオババさん。あまり魔道具には興味がなさそう。腕っぷしで生きてるから便利さとかに頼らない感じなのかな。
「で、そのキカイシツとやらはどこにあるんだ?」
槍を携えて周囲を警戒するサンライハゥンさんの声が飛んできた。建物内とはいえ上は伽藍洞だ。いっそ直してしまった方がよかったかも、なんて考えがよぎる。
「うーん、ともかく探そう」
立ち止まっていてもラチが開かない。
俺が手を広げても3人が並べそうなくらいの幅の広い廊下を歩く。遺跡というよりは廃墟だ。廃墟マニアがいたら泣いて喜びそうだ。
なんてくだらないことを考えていた罰か、ぽっかりあいた天井から人の大きさくらいの茶色い何か舞い降りてきた。大きいけどモモンガとかムササビとかに見える。大きな目をギラギラさせて俺を見てくるけど、やっぱり俺が一番弱いってわかるのかな。
「デスモモンガですわ!」
「燃えちゃえじゃんフレイムアローたくさんじゃん!」
リーリさんが矢を射ってトルエが炎の矢魔法を連射すると、当たったデスモモンガは爆散轟炎して花火のように消えていった。
汚い花火だぜ、と思っちゃったのはごめんなさい。
「ふふふ、どうじゃん! この杖があればいくらでも魔法が使えるじゃん!」
どや顔のトルエが俺を見てくる。褒めてほしいのか何なのか。とりあえず「すごいね」と当たり障りのない返事をしといた。
「大きな魔獣は入ってこれないようだねぇ」
「小さい魔獣の方が面倒なんだけどな」
オババさんとサンライハゥンさんが上を警戒してそう呟いてる。そういや小さいほうが厄介だっていってたな。
「ってことは出てくる奴はみんな厄介ってこと?」
「大丈夫、あたしがバーンとやっちゃうよ!」
勇ましくハンマーを振り回すベッキーさんだけど壁に当ててしまってボコンと穴が開いた。ぼろぼろとがれきが落ちてくる。
「ベッキー、遺跡が崩れてしまいます!」
「あわわ、気をつけるね!」
「まったくもぅ」
といういつものやり取りの後、探索を再開する。
廊下を歩いているが機械室らしきものが見当たらない。時折壊れた機械というか魔道具らしきものが落ちているので拾っていくうちに突き当りに来てしまった。突き当りの壁の隙間から日差しが見えるので先は外のようだ。
途中に他の通路を見つけたけどまずはこの通路を探すと決めたからなんだけど。
「この通路に機械室はないね」
常識的な設計なら機械室は絶対にあるはず。他の通路も探すしかないな。
「ここで拾ったものの中にはないのかい?」
オババさんが聞いてくるけど、拾ったものは小さいんだよね。
「直せばなんだかわかるかな」
修繕スキルで直してみれば、手のひらサイズの平べったい餅みたいな白い物体になった。なんだろうと首をひねってると、サンライハゥンさんに「魔力を通してみればいいだろ」と言われた。
できるならそうしてますよー。
「俺って魔力がなくってさー」
「あぁそうだったな。あたしに貸してみな」
サンライハゥンさんにペリっと取られてしまった。リーリさんが「それはわたしの役目です」って顔してる。すまぬ。
「どれどれ……うわ、眩しい!」
サンライハゥンさんが魔力を込めると餅みたいな物体がピカって輝いた。結構眩しくて、直視すると瞼の裏に焼き付いた跡が残るくらいだ。
「照明器具だね。たぶん、天井についてたけど崩れた際に落ちたんだろうね」
「わ、教会にほしい!」
「でー、でもこれって天井につけるんだよね。魔力のために触らないといけないなら使いにくい。ってことはスイッチがあるはず」
一緒に拾った物をすべて修繕で直しちゃう。そうすると何個か照明器具ではなく、手のひらよりも小さくて押しボタン的な丸が書かれている器具があった。
「これがスイッチだと思うんだけど、これと照明器具を結びつける何かがあると思うんだよなー」
現代だと配線が電源と繋がってないと点灯しないわけだけど、それに匹敵するものがあるはず。
んー、でも物理法則先生が息をしてない世界だしなー。もしかしたら?
「だれか……リーリさん、この丸いところを触って魔力を流してもらえる?」
「お任せください!」
嬉しそうな顔のリーリさんがスイッチと思われる器具を手に取った。では、と言って魔力を流すと拾い集めた照明器具が全て点灯した。
「ま、まぶしい!」
「目が、目がじゃん!」
「どどどうすれば」
「魔力を切るんだよ」
「あ、そうですわ!」
リーリさんが魔力を遮断したからか、明かりは消えた。瞼の裏でチカチカする。
「原理はわからないけど、連動してるみたいだ」
WIFI的無線なのかそれとも見えない線か何かでつながってるのか、謎技術過ぎてよくわからん。
わからんけど点灯した。こうゆうのを調べていくのも面白いかも。
「おい、またお客さんだぞ」
サンライハゥンさんが鋭く警告した。頭上には見覚えのある蟷螂の姿が。群れなのか10体ほど。ちょっと数が多いかも。
黒蟷螂らはガサガサと通路に降りてきた。役立たずな俺は後ろに追いやられる。
「わっふぅ!」
ぶちこがご機嫌に吠えて突撃するのが見えた。そのまま黒蟷螂の群れに突入してボンボンと通路の向こうに跳ね飛ばしていく。
「獲物をとられたじゃん!」
「まっさきに動けたモンの勝ちさね」
「わっふぅぅぅぅ!!」
ぶちこが一際強く吠えると、青く燃える火の玉が黒蟷螂に向かって飛んでいくのが見えた。
「ありゃまずい。結界を張りな!」
のっぴきならない顔のオババさんが振り向いてこっちを見たのですぐさま戸締りスキルを発動させる。ぽわんと俺たちを囲むようにほのかな光の半球ができると同時に視界が真っ白に染まった。
どごぉぉぉぉんという轟音と振動が発生し、崩壊しかけていた壁が一斉に砕け散った。
「うわぁぁぁ」
「きゃぁぁぁ」
「目が、目がぁぁぁ!」
ほのかに光る球体にドドドとがれきか何かがぶち当たり、すごい音で鼓膜が破れそう。
光は数秒で消えたけど建物が崩れるのが止まらない。ガランドカンと上からも何かが落ちてきて、砂煙で何も見えない。
「これは、遺跡が崩れましたね」
「のんきに言ってる場合じゃないぞ! あたしらも埋まっちまうぞ!」
「ダイゴさんの戸締りだもん、だいじょうぶ!」
「……探してる魔道具も埋まっちまったんじゃないかい?」
「わふわっふ」
砂煙の向こうから小さくなったぶちこがてむてむ歩いてきた。体よりも大きながれきが頭に当たってるけど気にならない様子。
俺の足元に座ってわっふと鳴いた。ほめてほめてってことかなぁ。でもねぇ。
「さすがにやりすぎ」
この爆発はぶちこが起こしたものだろうけど、遺跡を壊すのは看過できない。ちょっと言って聞かせないとダメだ。小さくなったぶちこを視線の高さまで持ち上げる。
「ぶちこ、あの蟷螂を倒したのはいいんだけど物を壊しちゃだめ」
「わ、わふぅ……」
「メッ」
ガーンて顔をした後にしょぼーんとしてるけどここで甘やかせるのはぶちこの将来にも悪い。
「物は壊さない。特に建物はね。わかった?」
「わふぅ」
こくりとうなづいたのでぶちこをおろす。俺の言葉を理解できるくらい賢いからもう大丈夫だと思う。ぶちこもしっぽを振ってわふわふいってるし。
「そいつを表に放したら大森林がきれいになるんじゃないか?」
サンライハゥンさんが顔を引きつらせてる。
「ぶちこはふつうのワンコです」
「ふつうの犬はあんな爆発する火の玉なんて吐かねえぞ」
「この世界だと普通でしょ?」
「んなわけあるか!」
そんなことを言い合っていると砂煙が晴れてきた。さっきよりもずいぶん明るくなってしまっている。
「外が、見えるね!」
「外の木々もだいぶきれいになっているようですわ」
「壁もなくなっちまってるねぇ、ガハハ!」
廊下だった場所は壁もなくなっていて、向こうに広がるはずの大森林の姿も見えない。背後には遺跡が残っているけどすっかり外になっていた。




