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第百十八話 エンカウントマトトセ

「ここからが区域Ⅳだ。気を張りな!」


 オババさんが警告の意味を込めた発破をかける。皆の顔にも緊張が見て取れる。

 区域Ⅳ。

 大森林の中の区切りでしかないけど、ここから先は落ち葉がなくなっていた。大樹の上を見れば、葉が生い茂ってるのが見える。落ちた葉っぱはどこに行くのか。いや、落ちないのか?

 そんなことを考えてたら悲鳴が聞こえた。ぎゃーという女性の声だ。その悲鳴は段々近づいてくる。


「他にもハンターが来てる?」

「……カモしれないねぇ」


 何とはなしにオババさんに聞いたんだけど、なにやら顔が強張っている様子だ。


「こちらに逃げてきているようだね」


 マッキーンドール氏が剣を光らせながら声のする方に厳しい視線を向けている。腕白一番の4人はそれぞれ武器を持って臨戦態勢だ。


「魔獣を引き連れて逃げてくるんだろ? よくあることさ」

「それならいいんだけどねぇ。罠に追い込む知性のあるやつらも、いるのさ!」


 サンライハゥンさんがため息交じりで槍を構えたその横で、オババさんが地面に拳を突き立てた。ズズンと地面が揺れると、近くの大木の根から真っ黒な鎌が飛び出してきた。それがいくつも飛び出しきて、しまいには人くらいの大きさの蟷螂5体を姿を現した。メタリックブラックで艶やかなボディの、蟷螂たちだ。ヒタヒタとゆっくり近づいてくる。


「蟷螂にしてはデカいけど、今まで見た巨大な奴に比べると小さいな」


 俺が持った感想はこれだった。もちろん俺じゃ餌にされるだけなんだけどさ。


「大森林の魔獣は、小さいほど強いんだ!」


 マッキーンドール氏が素早く剣を振って光の線を飛ばしたけど、黒い蟷螂は前足の鎌を振りかざしそれに当てて霧散させた。

 おっと、これはかなり危険なやつだ。俺の視界にベッキーさんの頼もしい背中がはいってきた。必ず盾になってれる、頼もしい背中だ。


「こいつらは1級討伐対象の中でも飛び切り危険な黒蟷螂だ。首斬られて死ぬんじゃないよ!」


 拳を握り締めたオババさんが一番近い黒蟷螂に突撃した。狙ってくる鎌を避けつつ黒蟷螂の腹を蹴ったが、勢いを殺したのか、ふわっと後方に飛んで着地した。蹴られた黒蟷螂にはダメージが感じられない。

 ヤバイと俺の本能が叫ぶ。


「戸締り!」


 俺の周囲5メートルほどの半球ドームが出来上がると同時に、なにかが当たり金属質な轟音が鳴り響く。あれか、エルエッサに行くときの追いはぎのボスが使ってたスキルの強いバージョンか。


「あたしの左腕はコイツラに斬られたんだ! 気をつけな!」


 右手で槍を回転させたサンライハゥンさんが突っ込んでいくが、あっさり避けられ、逆に背後に黒蟷螂が回ってしまった。2体の黒蟷螂に挟まれたサンライハゥンさんだけど顔に焦りはなく、ちょっとニヤッと笑った気がする。この人もやっぱりハンター(バトルジャンキー)なんだなって。


「ウォーターランスじゃん!」


 トルエの水の槍魔法が黒蟷螂の頭を焼き、マヤが霧をまとって黒蟷螂の背後に忍び寄り、「斬、首」と首を一閃した。ボトリと黒蟷螂の首が落ちるも動きが止まらず、鎌が彼女を襲う。そこにオババさんが割って入って黒蟷螂を殴り飛ばした。大木に叩きつけられた黒蟷螂がどさっと地面に落ち、ようやく動かなくなった。


「首を落としても、こいつらは10秒は動く。切った後も油断するんじゃないよ」


 優しく語り掛けるオババさんに、マヤはゴンゴンゴンと激しく首を縦に振った。離れたところではマッキンドール氏と腕白一番のふたりが黒蟷螂1体を仕留めている。これで2体。あと3体もいる。


「1体を挟み撃ちしな」


 オババさんの指示が飛ぶ。一番早く動いたのはサンライハゥンさんだ。


「囮になるから後は頼んだよ!」


 サンライハゥンさんが槍を振り回して黒蟷螂の前に飛び出して注意を引く。アイコンタクトでベッキーさんが背後から襲い掛かって黒蟷螂を地面に叩きつぶした。

 あと2体。


「ああああああ」


 遠くからの悲鳴が間近まで迫り、声の主の姿がはっきり見えた。小柄な猫獣人で、結構なお年を召した女性だ。そして見覚えがある。黒蟷螂に追いかけられていた。


「おっとマトトセじゃないか」

「そ、その声はデア、だね!?」


 オババさんが飛び出し、マトトセさんと並走を始めた。巨躯の婆と小柄な婆が結構な速度で走り抜けていく。


「相変わらず魔獣に追いかけられるのが好きだねぇ」

「好きで追いかけられたんじゃないさ!」

「ガハハハ!」


 ふたりは言いあいながら大木の間をすり抜けるように駆けていく。サンライハゥンさんとお婆さんコンビに搔き乱されて黒蟷螂の動きが止まったところにリーリさんが放った光の矢が頭部を砕いた。

 

「今のうちに片づけてしまおう!」

「よーし!」

「やるじゃん」

「ひゃっはー!」


 マッキーンドール氏の叫びに皆が呼応して、残っていた黒蟷螂はあっという間に退治された。ふたりのお婆さんを追いかけてた黒蟷螂はオババさんに踵落としを食らって地面にめり込んでた。人数がいるのは確かだけど、ハンター恐るべし。


「まったく、しくじっちまったよ」

「ガハハハ、あんたも歳ってことさ」

「デアの方がもっと年寄りじゃないのさ。まぁ、助かったよ、ありがとぅよ」

「たまたま大森林に来てただけさ」


 オババさんとマトトセさんが歩いて戻ってくる。思いっきり走ってた割に息も乱れてないお婆さんズ。魔獣よりも恐ろしいかもしれない。

 マトトセさんがこっちを見て驚いてる。俺も驚きだよ。


「おやまぁ、妙なところでばったり会うねぇ」

「すごい偶然ですねぇ」


 チトトセさんのお婆さんと知ってしまったのでなんともぎこちない感じだ。積もる話、というかマトトセさんが先にいたので情報を仕入れるためと黒蟷螂の解体と軽食のためにここで休憩にした。

 ぶちこはいつの間にかそこらを走り回ってたのか、戻ってきて口からゴロゴロゴロと大きな魔石とやらを吐き出してた。満足したのか俺の足元でゴロンと寝そべってる。

 俺はと言えば、解体はできないので軽食担当だ。

 黒蟷螂の戦闘が結構なものだったので軽食ながらもがっつり食べられるカツのサンドイッチにした。厚切り食パンをほんのり焦がしてたっぷりバターを塗りたくってからキャベツと揚げたてカツを挟む。一切れ食べたら満腹になりそうだ。


「デアにしちゃずいぶんな大所帯じゃないさ。気でもふれたのかい?」

「バカ言うでないよ。うちの姪っ子の婿()殿()が作ったクランさね」

「へぇ、壊れた魔道具を買ったあの若いにいさんがねぇ」

「これはあんたが売った魔道具で作った酒さ。後で飲んでみるといい」

「おや、あれが使えたのかい!?」

「直したんだよ」

「はー、魔道具って、直せるんだねぇ」


 白湯を飲みながら、お婆ちゃんふたりが縁側で話でもしているかのようだ。デアというのはオババさんの愛称で、そう呼んでも許される人は極わずかなんだとか。マトトセさんはそのひとりで、付き合いは長いらしい。まぁ、孫のチトトセさんを商会に引き取るくらいだからね。

 さて、サンドイッチも20人前を用意した。足りないような予感がするので作り置きのスープを温めておく。あくまで軽食だ。がっつり飯は拠点に戻ってからだ。


「準備ができたよー」


 戸締りで安全地帯にしてるけど「椅子でのんびり」なんてできないのでテーブルに食事を置いて各自好きなように食べるスタイルだ。呼びかける前からテーブルにくぎ付けのベッキーさんは別として、解体も終えたのかサンライハゥンさんやらが歩いてくる。


「いい匂いで集中力がなくなった」

「腹減ったじゃん!」

「旨、匂」


 腹ペコらしい。腕白一番の皆も揃ったので手を洗ってから食べ始める。お腹下してもトイレはないんだよ。


「んー、大森林の中でこう温かいものが食べられるなんてね」

「絶品だぜひゃっはー!」

「労働のあとの飯は最高だぜぇ!」


 腕白一番の皆さんの口にもあったらしい。うちの腹ペコ娘たちはもちろんがっついてて会話もない。

 よく噛んでお食べ。

 軽食はあっという間に終わった。あくまで軽食なので追加は無しの方向だ。ぶー垂れても出しませーん。

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