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第百十七話 初エンカウント

 翌朝。いよいよ魔道具探しだ。この拠点には風呂もあって、水神様の鱗を使えば水洗トイレも可能だ。かなり快適に夜を過ごせたので睡眠はばっちりだろう。

 腕白一番と合同で朝食を食べたのち、フル装備で表に集合した。ロッカポポロさんには両方の拠点のお掃除を頼んだ。腕が鳴ります、と目隠れメイドさんは嬉しそうだった。もちろん、建物含む周囲を戸締りで囲ってしまう。これでロッカポポロさんも安全だ。


「さて今日から大森林を探索するんだけど、どこから探せばいいのかなぁ」


 皆が俺を見るので仕方なく口火を切った。

 正直、見当もつかない。大森林という単語は知っているだけで、どんなところかも知らないからね。


「ふむ、じゃあ一番詳しそうなアタシから説明するかねぇ」


 オババさんが顎に手を当てそう言ってくれた。助かります。


「大森林てのは、危険度によっておおよそ区域(エリア)Ⅰ-Ⅳに分けられてるのさ。一番危険なのが区域Ⅳだねぇ」

「危険度が上がるにつれて魔獣も強くなるんだよね。そのぶん魔獣の素材も良いものになっていくんだよ」


 オババさんに続いてマッキンドール氏が説明の補強をする。なんだか講師みたいだ。さすがに命がけなので皆の目も真剣だ。例外はぶちこだけ。余裕なのかのんきにあくびをしてる。


「区域Ⅰは2級討伐対象までしかでない。区域Ⅱから1級討伐対象が混ざり始めて、区域Ⅳでは1級討伐対象しか出現しないんだ」

「今回はその区域Ⅳにある遺跡に向かうよ。アンタたち、覚悟おし」


 マッキンドール氏が淡々と説明した後、脅すようなオババさんの言葉にトルエが「うぇぇ」と呻いた。3級ハンターが大森林にいるってこと自体がありえないってのは昨晩聞かされた。ベッキーさんとリーリさんはやる気満々だったけど、なぜこうも違うのか。

 おまけな存在である俺はもちろん及び腰だ。俺は最弱。これは忘れちゃいけない。


「遺跡にはまだ持ち出されてない魔道具がたんまりあるはずさ。欲しい魔道具を探すなら、候補がたくさんないとだめだろう?」

「そうだけどじゃん」

「トルエはダイゴさんの近くにいれば安全ですし、そこから魔法を使えばいいのですわ」


 わたしはダイゴさんの後ろで警戒していますわ、とリーリさんは続ける。となるとベッキーさんは、突撃するんだろうか。大丈夫かなぁ。


「遺跡についたら僕らは別班で動くことにするよ。二手に分かれたほうが探し物も早く見つかるさ」


 マッキンドール氏の言葉が〆となって、話は終わった。行動は別々だが情報の共有はしたかったんだって。なるほど、情報は大事だ。

 とりあえず区域Ⅳに向かうんだけど、ここからだと30分程度で着くらしい。そもそもこの目の前の大森林が区域Ⅲで危険地帯なんだとか。昨晩食べたドレイクバードは2級討伐対象で、大森林だと雑魚なんだと。もっと早くその話をしてほしかった。のん気に食べてる場合じゃなかったよ。


 大森林。3文字でしかないけど、その威容を書き現すなら100倍くらいの文字数が欲しいところ。

 常緑樹っぽい大木がひしめき合ってて、その背丈は30メートル以上もある。枝も葉も上のほうにしかなく、俺たちがいる地表近くはぶっとい幹しかない。葉に遮られて日当たりが悪いせいか下草もなく、落ち葉が堆積して滑りやすくなってる。

 大木が多いので木々の隙間が広くて歩くのに支障はないがそれは大型の魔獣にとっても同じらしく、それに加えて木が目隠しになって奇襲されることも多いとか。スゲー怖いんですけど。

 もちろん道なんてものはなく、大木の間をすり抜けるようにして進む。根っこがちょっとした障害になってて乗り越えるのも大変だ。

 大森林に足を踏み入れて1分。右手の木の陰から大きな熊の顔が複数見え隠れしてる。顔の位置が5メートルくらいの高さにあるので大きさは推して知るべしだ。


「さっそくお出ましだねぁ」


 オババさんが嬉しそうにバキボキと指を鳴らした。腕白一番のひゃっはーさんたちも武器を構えて臨戦態勢だ。


「2級討伐対象の森熊の群れだね。あいつ等は内臓に蜜をため込んでいるんだ。ハンターギルドよりも商業ギルドのほうが買い取り価格が高くってね」


 マッキンドール氏もすらりと剣を抜いた。その際に光らせるのを忘れないのは光の使徒だからか。


「蜜! 甘いの!」


 ベッキーさんが嬉しそうに巨大なハンマーを構えた。盾は背中にしょって、腕力に訴えるようだ。皆さん、狼狽えるとかないのかしら。


「ダイゴさんは結界で安全なところにいてください」

「あ、はい」


 リーリさんに言われるがまま戸締りスキルで俺を中心に半径5メートルを囲った。なんとなく色がついた半球に囲まれた。

 「安全地帯に行くじゃん」と魔法使いのトルエが逃げてきた。ヒャッハーさんの魔法使いふたりも一緒だ。


「まずは魔法だ。森は燃えるから火は避けな」


 オババさんの号令で魔法使い3人が風魔法を唱える。空気が歪んでブーメランみたいな空気の塊が森熊の顔に飛んでいく。鼻先に当たるとバンバンと派手な音を立てて、森熊がびっくりしたのか一斉に吠えた。森熊は木の陰から出てきた。全部で6頭もいる。見た目は茶色い毛並みな熊なんだけど、ともかくでかい。よだれを垂らして、血走った目で睨んでくる。


「わっふぅ!」

「抜け駆けかい!」


 大きくなったぶちこが突撃した。一番槍を取られちゃったオババさんが後に続く。


「肝臓に蜜をためてるから、できれば手足と頭を狙ってほしいね」


 マッキンドール氏が剣を振ると光の線が飛んでいき、奥にいる森熊の首をはねた。ぶちこは一番手前の森熊に体当たりして木々の陰に跳ね飛ばし、追撃で消えていった。オババさんは、森熊が腕を振って攻撃したのをかわして片足を掴み「ふん!」と力任せにぶん回した。


「ク、クマァァァ!」


 森熊が大木の幹に叩きつけられ、地面でバウンドした。起き上がろうとした森熊の頭にオババさんの飛び蹴りが決まり、森熊の頭が爆散した。


「ス、スプラッタすぎる」

「ダイゴさんは目隠ししたほうが良いかもしれません」


 と言ったリーリさんの手で視界を封じられた。


「蜜! 蜜!」

「ひゃっはぁぁ!」

「遅い、こっちだ!」

「クマァッァァ!」

「乱戦過ぎて魔法が撃てないじゃん!」

「ク、クマァァァ……」


 雄たけびやら断末魔やらが聞こえてくるけど、目を開く勇気がわかない。

 うん、俺は普通の人でいいや。

 VS森熊の戦いは数分で終わった。俺が目隠しから解放されたら、巨大な熊が転がってるのが見えた。揃いも揃って頭がない。うわぁと思ってたら口に黄色い蜜を咥えたぶちこが返ってきた。嬉しいのかしっぽが大車輪だ。口の周りが赤いので、森熊をどうしたのかは聞かないでおこう。


「肉を裁く時間がもったいないから、蜜だけにしな」


 オババさんの指示のもと、皆が黙々と森熊のお腹を切って内臓らしきものを取り出してる。うーん、俺にはきつい。役立たずですまん。

 森熊は毛皮とか肉とか素材として持ち帰る部位はあるんだけど今回はそのまま放置だ。トルエはもったいないと呻いてるけど、目的はそれじゃないからね。


「蜜がいっぱい!」


 ベッキーさんがバスケットボールほどの黄色い塊を持って走ってきた。飴みたいに固そうだ。


「ダイゴさん、甘いお菓子作って!」

「ベッキー、それは後ですわ」

「あ、そうだった!」


 アハハと照れ隠しで笑いながら、ベッキーさんは蜜をどこかにしまった。もう言及はしない。


「怪我してる人は、いないかな」


 俺が見渡し感じ、痛そうにしている人はいない。


「これくらいで怪我をしちゃ、大森林ではやっていけないからな」


 サンライハゥンさんがふんと鼻を鳴らす。森熊は2級だって言ってたから、これで苦戦するようじゃ大森林は無理ってことなのね。

 蜜も確保を終えたので区域Ⅳに向けて歩き始める。数分後に4本腕の猿の魔獣とエンカウントするもあっさり撃退。魔石を獲るだけでまた歩く。また数分で、今度はウッドゴーレムと呼ばれる木でできた巨人10体と遭遇。相手は多いけど動きが緩慢なので捕まらなければ良い上にこちらも数が多いので瞬殺だった。木だからそのものがお宝で、ウッドゴーレム丸ごとお持ち帰りになった。

 ベッキーさんもリーリさんも目つきがハンターになってて、ちょっと近寄りがたくなってるのは気のせいか。俺も慣れないとダメなんだろうなぁ。

 それから歩いては魔獣とエンカウントして叩きのめしてを3回繰り返してようやく区域Ⅳについた。

 着いたといっても森なので景色は変わらないけど、空気の温度は間違いなく下がった。

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