第百十五話 再びのイケメン
ロックワーム虐殺の宴が終わり竜車での行軍も夕方には終わった。無事に大森林の入り口まで到達できた。
大森林は、北限と同じく荒野から突然始まっていた。荒地からいきなり密林になってて、その境目は地平線のかなたに消えて行ってる。距離にすると数百キロを超えるとのこと。想像もできない。
しかも樹木の高さは30メートル越えで、誇張ではなく緑の壁。荒れ地との境界が乾いた砂と湿った落ち葉で一直線に形成されてるとか意味不明。さすが物理法則先生が逃げ出す世界だ。
「ここが大森林……」
見上げてばかりで首が痛い。これが地平線のかなたまでずぅぅぅっと続いてるとか、ありえんて。
「大森林には初めてきましたが、本当に森なのですね」
「おっきすぎて、天辺が見えないよ!」
背伸びをしたリーリさんとベッキーさんが仰ぎ見てるけど、背をそりすぎて倒れてしまった。ベッキーさんはともかくリーリさんにしては珍しい。それほど驚異だったのかも。
「そそそれよりもそこから覗いてるあればなんじゃん」
震えてるトルエが指さした先には、木の隙間に鎮座して俺たちを見ている、でっかすぎるダチョウがいた。地面から脳天まで4メートルはありそうな、首の長い二足歩行の鳥だ。極彩色でよく目立ちそうな羽の色をしてる。ただ、くちばしだけは猛禽類のそれだ。俺なんか突き刺されるくらい大きくて鋭い。
「ドレイクバードさね。肉は絶品でねぇ」
「……確かに旨いな」
オババさんが腕で口元をぬぐい、サンライハゥンさんもうんうんと頷いてる。大森林経験者は味を知っているらしい。ふたりの目はすでにハンターだ。
「肉! 絶品!」
肉と聞きつけたベッキーさんが跳ね起きた。すぐさま巨大なハンマーを取り出し「ドコドコ?」と探し始める。さすが、ぶれない。
「おや、客かねぇ」
ふいにオババさんが荒れ地のほうに顔を向けた。その瞬間、光の線が飛んできて、俺たちの横を素通りして、ドレイクバードの首をはねた。それはそれは綺麗にスポーンと。その光の線はその勢いのまま大森林の木々をなぎ倒して、静かになった。
「敵ですか!?」
「ダイゴさんは、あたしの後ろに!」
リーリさんが俺の横に来て、ベッキーさんが俺の前に立ちはだかった。そして俺の後ろにいるぶちこは大きなあくびをした。
ぶちこがのんきにしてるなら危険はない?
光の線が飛んできた荒地からドドドっと地をか駆ける足音が聞こえてくる。サンライハクンさんは槍を手にロッカポポロさんの前に立った。狐娘ふたりはぶちこの後ろに隠れさせた。
「速足トカゲが5騎」
サンライハゥンさんが右手に持った槍をくるくる回し始めた。やってくるのは二足歩行のトカゲに乗った人影が5つ。頭がモヒカンヒャッハーだけど、ひとりだけ背が低くてノットモヒカンだ。煌めく剣を片手にしてる。
「あれは、腕白一番のマッキンドールですわ」
リーリさんが眉を顰めた。腕白一番にはいい印象がないからだろうね。
「あれ? ってことは俺たちが狙いではなくあのドレイクバード?」
「ま、そんなとこだろうねぇ。1級たるものあの距離で狙いを外すなんて失敗はしないさ」
オババさんはトコトコと首がなくなったドレイクバードに歩いていく。そうこうしているうちに腕白一番の彼が俺たちの目の前まで来た。背は低いけどイケメンの彼だ、間違いない。残りの4人はモヒカンで肩パットなヒャッハーさんたちで腕に白い布を巻いている。彼らもトカゲを降りた。
「やあやあ間に合ったようでよかったよ」
爽やかスマイルで歯をキラリと光らせたマッキンドール氏がトカゲから降りた。背は低いものの逆三角形のマッスルスタイルな彼がまっすぐに俺を見て向かってくるので仕方なく「俺が話しまーす」と宣言して前にでる。こんなところでバトルなんて御免だから俺が出るしかないでしょ。
「こんにちはマッキンドールさん。あそこぶりですね」
「ご機嫌いかがかな、水の使徒殿。君たちが大森林で魔道具を探すと聞いてね。微力ながら手伝いができればと思って馳せ参じた次第さ」
マッキンドール氏はもう一度歯をキラリと光らせた。水の使徒って、なんで知ってるのよ。
「えっと、それはどんな思惑で?」
「思惑というほどのものはないさ。エーテルデ川でのお詫びが足りないと感じているから、かな」
マッキンドール氏はハハハと爽やかスマイルだ。ぐぅ、俺にはない陽キャなオーラがすごい。
リーリさんとベッキーさんが無言で俺の左右に来た。ステイ、ステイです。
「おっと、そんなに警戒しなくっても大丈夫さ。先日も述べたけど、僕らは君たちと敵対するつもりはないんだ」
彼は剣を鞘に戻し、両手を上にあげながら俺の両脇のふたりの顔を見て苦笑した。
「大丈夫さ。やる気ならわざわざ音を立ててこっちに来ない。もし狙ってたらあたしが跳ね返してさ」
ドレイクバードの首をつかみ引きずるオババさんが戻ってくる。あんなでかい鳥を引き摺って持ってこれちゃうんだ。
「オババ、それはそうですが」
「それよりもそろそろ腹が減ったねぇ。コイツを捌いておくれよ。絶品の肉さ!」
「……仕方ありませんね」
リーリさんは不満そうだけどオババさんには勝てないから渋々って顔をしてる。それを見てマッキンドールがほっと息を吐いた。
「うん、僕らも野営の準備だ」
「「「「うっす!」」」」
マッキンドール氏が振り返って仲間のヒャッハーさんたちに声をかければ体育会系の威勢のいい返事が。
そういえばリーリさんが拠点を買ったとか聞いたけど、どんなのを買ったんだか。
「拠点を出すので、ちょっとスペースを作ってください!」
リーリさんの掛け声に皆が少し離れた。ベッキーさんは俺の横にいて、ぶちこは小さくなって足元にいる。
「出しますわ」
ドーンと地面を揺らして建物が現れた。
どこから出たのか不明だけど、空きスペースに出てきたのは、コンクリート造3階建てのアパートだ。どう見てもコンクリート製なのでマンションと呼んでもいいかもしれない。
窓が全部で15か所はあって、たぶんあれの数だけ部屋があるんだろう。屋敷よりも部屋が多い?
「おっと、あちらはすごいね。僕たちも負けられない!」
マッキンドールさんのほうからもドスンと大きな音がして、やっぱり建物が出てきた。あっちはコンクリ造の2階建てで窓の数は8つ。やっぱりアパートみたいな感じだ。
集合住宅を持ちあるくとか、よくわからん。
「まぁ1級ともなれば色々あるもんさ」
オババさんは気にしないというか当然だって顔してる。
狐娘ふたりは「うえぇぇっ」って顔してて、サンライハゥンさんは呆れた顔を俺に向けてきて、ロッカポポロさんは口を大きく開けっ放しだ。俺も慣れたけど、ありえないよなぁ。
っと、ぼけけてる場合じゃないな。腕白さんの話も聞かないと。正直なところ、手伝ってくれるなら助かるんだ。
「あの、魔道具探しを手伝ってくれるならちょっと打ち合わせもしたいんで、夕食を一緒にどうです?」
リーリさんとベッキーさんが驚いた顔になったけど、俺としては時間を優先したいんだよね。
独断で決めちゃうけど、お飾りかもだけど俺がリーダーだし、いいよね?とマッキンドールさんに顔を向ける。
「ふむ、お言葉はうれしいけども――」
「フハハハ、人数が多いほうが食事は楽しいもんさ。そもそもドレイクバードを狩ったのは向こうさ」
「僕が手を出さなくても貴女が狩っていたでしょうけど」
「フハハハ、謙虚なイイ男じゃないか!」
おかしいのか大笑いなオババさん。リーリさんとベッキーさんは不満げだけど、俺のわがままだと思って!




