第十二話 廃墟で畑
廃墟に実験農場を作った翌日。駆けだす前のぶちこを捕まえて土をほじくり返してもらう。
「ここからあそこまでの土をぜーんぶ掘っちゃってほしいんだ」
「わふっ!」
範囲としては教会から街の外壁跡までの空間だ。ざっと30メートルの距離。そこに幅30メートルほどで畑を作る予定だ。俺ひとりで種をまいていく限界近い大きさだと思う。
種をまくときには中腰になるんだけど、かなり腰にくるんだこれがさ。
ほとんどはじゃがいもになるだろうけど、スライスして油で揚げればポテチになる。油で揚げない調理法だとぶちこも食べられる。作らない選択肢はない。
昨日実験的に植えた大根とにんじんだけど、見事に花が咲いた。噓でしょって叫んだよ。
うまくいけば種が獲れる、と期待する。農業ど素人の俺じゃこれくらいまでしかできないけど。
恥ずかしながら水神様パワー頼みさ。
「ぶちこ、ゴー!」
「わっふわっふわっふっふー!」
ぶちこがへっへっと舌を出しながらボボボボとすごい勢いで土をかいていくと、どわわわっと土煙が立ち上った。もちろん俺はその射線からは退避している。さすがに二度は食らわない。
作業開始から1分でぶちこは外壁跡まで到達した。幅は2メートルくらいが掘り起こされてる。
「すげぇ、15分くらいで終わりそうだ。これは、ぶちこにはご褒美が必要だな……」
頑張ったら当然ボーナスが欲しい。俺ならそうだから、ぶちこもそうだろう。
やはり肉か。和牛とかはお金が稼げるようになったらでお願いしたい。今回は豚さんで我慢してもらおう。
味付けも薄い方が良いんじゃ、調理するよりはきちんと焼いてあげた方が喜ぶかも。凝ったものよりは素材の味を生かす方向の調理法がぶちこには良いんだろうなぁ。
健康は大事だよ、うん。俺みたいに徹夜を繰り返してたら体を壊しちゃうしさ。
「よし、俺はきっちり休むぞ!」
やりたいことをやって、だけどさ。
なーんて考え事をしてたらぶちこが目の前に来てた。見上げると、舌を出しながら俺の言葉を待っているようだった。すでに任務完了のようだ。
「ありがとうぶちこ! 頼りになるな!」
俺の手の届く首下あたりをわしゃわしゃ撫でると、わふふふと目を細めた。可愛いなぁ。
「ぶちこが耕してくれたし、じゃがいもを植えていこう」
「わふっ!」
柔らかくなった土を手で深さ15センチくらいに掘る。このへん適当。俺式偽物農業。
種芋にするじゃがいもを、1メートル間隔で埋めていく。そのあとをぶちこが土をかぶせる。
この距離はなんとなくだ。農業をしてたら知識としてあるんだろうけど俺はブラック設計屋なので。
持ってきたじゃがいも15個を植えた。
「いっぱい取れたらポテチにして食ってやる」
まぁ、これがみんな収穫できても俺じゃ食いきれないな。じゃがいもは冷暗所だと結構もつものだってのは知ってるから、倉庫の隅にでも保管してけばいいかなって。とらぬ狸のなんとやらだ。
「あとは水をたくさんかけて終わりかな」
たくさん芽が出ますようにとお祈りをしておく。農業は天気に左右されるし、結構神頼みに近い。農家さんの大変さがわかってきた感じ。
今日の農作業はこれでおしまい。そろそろお昼だし、ぶちこのお肉を用意するために家に帰った。
さて翌日。今日も雲ひとつない空にお日様がふたつ並んでる。
「本日も快晴なり。雨の気配、なし」
農作業日和だ。朝食もたっぷり食べて、重労働もバッチこコイだ。
すくすくと育っている池の周りの薬草畑はそっとしておいて、廃墟へ向かう。
こちらも快晴だ。いい天気過ぎて焼けちゃいそう。長袖ジーパンだから変に焼けることはないけど。
「ぶちこは好きに走ってきていいよー」
「わっふぅ!」
俺が首の下あたりをなでて許可を出すと、影を置いていかんばかりの勢いでいなくなった。走り回る元気がうらやましい。
「俺は農作業に勤しむとするか」
まずは教会入り口の栗とブドウを植えた場所を見たけど、芽らしきはなくてよくわからない。まぁだめならだめであきらめればいい。俺としてはいちごのほうが優先だ。
いちごはどうかなと植えたあたりを探す。うん、こっちもわからない。芽みたいのは見えるけど雑草のかもしれないし。まぁ、気長に待とう。果報は待つものだ。
さてりんごの木の具合だ。昨日は俺の背丈くらいまで育っていたけど、今日はどうかな。
「うん、俺の背丈の倍はあるな。ざっと4メートルってとこか」
枝も横に伸びてて、まさに木って感じだ。偶然にも教会を囲むように植わってるから垣根みたいで童話チックな印象になった。遠くに目をやると廃墟が広がってるんだけどね。
異常な成育具合だってのは重々承知してる。りんごの木が教会の周りに生えたのも偶然にしてはできすぎだし。でも、順調に育っているのは嬉しいかな。
ぐるっと教会を回って裏手の実験農場に来た。うん、ジャガイモの芽は出てない。うまくいくかどうかはわからない感じ。まぁ、すぐに芽が出るわけはないので経過観察だ。
大根は、茎がにょきっと伸びて小さな白い花が咲いてた。売ってる大根しか知らなかったから、すごい新鮮だ。
にんじんも茎が伸びて白っぽい花が咲いてるけど、結構背が高くなるもんなんだな。カリフラワーというかハチの巣というか、独特な形の花だ。
「花が咲いたから、枯れるまで待ちだなー。いちおう成功と言っていいの、かな?」
腰をとんとんする。たいしたことはしてないんだけどさ。オッサンに片足突っ込んでるからとか言わない。
目立った変化もないから、いったん家に戻る。
昨日からじゃがいもばっかり見てたからポテチが食べたくなった。
「材料はここにあるわけだし、やらない手はない。ぶちこが食べられるように油を使わない調理法でやればいいだけだ」
実は手作りポテチのやり方は知ってる。油で揚げる代わりにオーブンで焼くんだ。結構硬くなって美味しいんだって、ネットで見かけたことがあって興味はあったんだ。時間と気力がなかっただけで。
「時間が唸るほどある今こそ、そんなのをやるべきだよね」




