第百十四話 試し打ちと俺式ロシアンミルクレープ。
色々用意もあって二日後の朝。コルキュルの教会前に、俺、ベッキーさん&リーリさん、狐娘ふたり、サンライハゥンさん、オババさん、ロッカポポロさんが集まった。大森林へ探索に出掛けるわけだけど結構な所帯なのでぶちこに乗っていくわけにもいかず、イケオジさんに用立てしてもらった竜車で行こうとなったわけで。
竜車といっても大型の箱で、俺が住んでたワンルームよりも広い。
「大森林はデリーリアとベルギスとの国境を兼ねている、東西に長い森だ。その大森林は大きく4つの区域に別けられる。その中でも廃墟と思われる建物群が林立するⅣ区から魔道具が出てくる」
コルキュルの教会前の地面に棒でざっくりした絵をかきながら説明を受けてる俺たち。今回のメンバーで一番大森林に詳しいオババさんからのレクチャーだ。聖なる山の北東にデリーリアがあって、南東にベルギスがある。その中間に大森林が東西に延びてる。そこに行くわけだ。
ちなみにコルキュルの境界付近はすっかり農園になってて、特に教会周辺は果実園さながらで、いまだとりんご狩りができる。イケオジの商会経由だけど果物を販売してて、実は結構な売り上げになってるらしい。子供たちに必要な勉強道具も買えた上にアジレラのスラムにいる子供らへの炊き出しもできて、先生の顔も穏やかだ。
「アジレラからだと南に2日ほどかかるけどコルキュルからだと1日でつく。だからここから行くわけさね」
「片道の日程が半分となればその分多く探索に時間を割けますわ」
「魔道具をたくさん探しちゃうよ!」
「フハハハ、その意気さね」
慣れてるオババさんに緊張感がないのはわかるけどリーリさんとベッキーさんにも感じられないんだよね。会ったばっかりの時はもっとこう慎重だった記憶があるんだけど。
「……大森林を舐めるんじゃないぞ。あたしが左腕を失ったのは大森林なんだ」
サンライハゥンさんが眉をひそめて窘める。なんか彼女の顔が若くなってる感じがするんだ。歳は俺と変わらないはずなんだけど、リーリさんと並んでてもさほどの差は感じられない。
「あたしの顔に何かついてるかい?」
「あ、いやべつに」
じっと見てたからか、睨まれてしまった。女性の顔をじっと見るのはマナー違反だな。はいそこのリーリさん、不機嫌にならないでくださいねー。
「ほんとにあたしらも行くじゃん?」
怖気図いてるのかトルエが狐しっぽを抱えながらブツブツうるさい。マヤはハイライトのない目で遠くを見つめたまんまだ。
大丈夫なのかなふたりは。
「大丈夫!」
にぱっと笑顔で言い切るベッキーさん。ぶんぶんと頭を振る狐娘。来てしまったんだからもう遅い。
まぁ何とかなるでしょ。顔が引きつってるロッカポポロさんはスルーしよう。拠点からでなければ大丈夫。たぶん。
コルキュルを出た竜車は道なき荒野をガタゴト進んでいく。石が多くて跳ねるので速度は遅いけど仕方ないね。今日は大森林の手前まで行ければいいんだから。
「なんとも贅沢だけど、暇だねぇ」
ぶちこが引く竜車の一番後ろで寝そべってるオババさんがあくびをする。振動がダイレクトに来るから床全面にクッションの効いた敷物を数枚重ねにしてるから快適なんだけど、オババさんにとっては退屈なんだろう。ロッカポポロさんはアワアワしてるけど。
「では、マヤとトルエの武器を試すのに、ロックワームでも出しますか?」
リーリさんが俺を見てくる。狐娘ふたりは「ふえ?」としっぽを立てた。
「確かに、武器の勝手も知らないで大森林は無謀だ」
サンライハゥンさんが賛同する。ちなみに彼女の武器は木の槍だけど、あれはベッキーさんの盾と同じ材質みたいで鉄よりも硬いんだとか。それプラスなにかだと聞いたけど詳細は知らない。
「ではダイゴさん、よろしくお願いします」
リーリさんが俺に振ってくるので仕方なく竜車の後ろで水袋から水をぶちまけた。ドドド--ンと地鳴りと共にビルのような形のロックワームが地面から飛びあがった。その数10ほど。遠くにはそれ以上のビルの姿が見える。かなり壮観だけどそれだけ危険な状況ともいえる。
「ああんなにいるじゃん!」
「危機、杉」
「だーいじょうぶ!」
ベッキーさんは怖気ずくふたりを竜車の外に放り投げてしまった。みぎゃーと叫びながら地面を転がるふたり。ぶちこに止まるように合図すれば竜車は急停止。
「スパルタ過ぎない?」
「大丈夫だって、ふたりはハンターだもん!」
そう言いつつベッキーさんはふたりを指さす。ちょうどふたりが立ち上がるところだ。
「もうこうなったらやってやるじゃん!」
「禿、同」
開き直ったふたりに、ビルと見紛うロックワームが押し寄せる。
「どっか行けじゃんファイヤボール!」
マヤの唱えた魔法の火の玉は一番近くまで迫ってたロックワームにあたって大爆発した。まさにドカーンて轟音と共に周囲のロックワームごと姿が消えた。
「あれ……効きすぎたじゃん?」
惚けるトルエの横でマヤが水の短剣を構え「水、出」と囁くと短剣の先から青い極細の何かが発射されてそれがロックワームを貫通し、そのまま後方のロックワームまで突き刺し続けて空の彼方に消えていく。ガラガラ崩れていくロックワームの破片の音だけが荒野に響いた。
「……本当に3級なのか?」
サンライハゥンさんがジト目で俺を見てくる。
「なぜ俺に?」
「お前がそもそもの元凶だからだろ」
「失敬な。そもそもは水神様だ」
うん、俺は巻き込まれただけ。悪くない。はず。
自棄になったのかトルエとマヤはロックワームを蹴散らし続けてる。雨降って地固まるって言うじゃん。これこそだよ。
ちょうどいいタイミングだからこのまま休憩にしてしまおう。頑張った?ふたりにはなにか好きものを作ってあげよう。
ということで、竜車の脇にテーブルと椅子をだして興奮冷め止まぬトルエとマヤをベッキーさんが引きずって帰ってくればティータイムだ。
「おいしいものが欲しいじゃん!」
「禿、同」
と言われたので暇な時間で作り置きをしておいたケーキを出す。いちごがないからクレープと生クリームと適当にスライスした果物を積層にした俺式ミルクレープだ。りんごとか柿とか桃とかバナナとか魔法鞄に保管してあった果物をランダムで入れたからどれが当たるかは食べてのお楽しみ。
大人数用で作ったからまたも一辺が50センチほどの巨大ケーキになってるけど気にしない。美味しいのが正義さ。
切って皿にのせたミルクレープをロッカポポロさんに渡す。配膳はロッカポポロさんに任せた。俺は調理係だし、彼女にも仕事をやってもらわないとね。
というわけで、豪華な、でもないけどティータイムだ。ちなみにお茶はないのでホット羊乳だけど。
「甘くて柔らかくって果物まで入ってうますぎじゃん!」
「旨、喜」
しっぽをぴんと立てて狐娘ががっついてるので報酬としては合格の様子。ロッカポポロさんもニコニコしながら食べてる。
フォークを差すとスライスした果物にあたる。それを突き通して、クレープと生クリームごと食う。果物ロシアンルーレットだけど外れはないのがいいところ。どれを食べてもおいしい。
そういえば俺以外は女性しかいないな。それでもハーレムではなく、どちらかというと身の危険の方が高いんだよねぇ。
「おかわり!」
「この甘さにはきっとブランデーが合いますわ」
「甘さがあっさりしてていくらでも食えそうだな」
「ほうほう、アンタが作るのはどれも珍しくて旨いから食べ過ぎちまうね。体重が増えちまいそうさ」
オババさんが呟いたとき、俺含め皆が自分のお腹の肉を摘まんだ。うむ、やばいかもしれん。
「……大森林で暴れればいいだけだ」
「食った分だけ動けばいーじゃん」
「摘……」
「わたしはまだ、まだ大丈夫ですわ!」
「あたしも、頑張っちゃうよ!」
満場一致で魔道具探しを頑張るということになった。




