第百十三話 探索メンバー
暗いので教会経由で屋敷に戻ると先生らが風呂上がりでくつろいでいた。子供たちも同様で羊乳を飲んでる。風呂上がりに牛乳は全宇宙で共通なんだな、なんて。
「おやダイゴ殿、北に向かったと」
「北の問題を確認してきまして。で魔道具が必要だとわかりまして」
北限のことを簡単に説明した。俺がまたここを離れるし。
「それで大森林ですか……」
先生が不安げな表情になる。ベッキーさんも連れて行くからね。
「大丈夫さ、アタシがついていくんだフハハハ!」
安心させるためか、オババさんがいつもよりも声を大きく笑った。怪力のスキルに目覚めてハンターを志してるオーリヒェィちゃんの目が輝いたけど君はお留守番だ。さすがに女児は連れていけないって。
それでも不安なんだろう先生が口を開けようとしたとき「たっだいまー!」とベッキーさんが帰ってきた。リーリさんの姿もある。
「おっきなお家を買ってきたよ!」
にぱっと笑って第一声がこれである。軽々しく家を買うとかどうなってるの。
「手ごろな空き家があったので建物を持ち帰ってきました」
「家は持ち帰るもんじゃないと思うんだけどそれは俺の気のせい?」
「フハハハ! いいじゃないか、大森林に家があるなんて、暮らせちまうよ!」
「あそこで暮らそうと思うのはオババくらいですわ」
あきれるリーリさんだけど、俺と一緒に帰ってきた狐娘のふたりはもっとドン引きしてるぞ。自分たちは行かなくて済むとか甘い。俺が許しても水神様が強制的に行かされるように仕組んでいるかもしれないんだ。もしかしたらローザさんかもだけど。
「よーし、そこの狐娘はアタシと倉庫に行くよ。見合う武器を探すんだよ」
「ええ、どうしてじゃん!?」
「!!」
トルエとマヤはオババさんに引きずられて倉庫方面に消えた。あそこにあるのは俺じゃ使えないから必要なものは持って行ってくださいな。南無南無。
「腹が減ったからまずは食事だ。倉庫に行った3人が帰るまでには作り終わるでしょ」
肉を食べたいので男らしく肉肉しい料理にした。
そして翌朝。子供たちと先生はコルキュルに出かけて朝二番な時間。倉庫でよさげな短剣を持たされたスカウトのマヤが死んだ目で部屋から出てきた。尻尾も悲しげに揺れてような気がする。
「夢。水神様」
「夢に水神様が出てきた?」
泣きそうな顔のマヤがこくりと頷く。倉庫で見つけたのは水神の短剣とかいうやばいアーティファクトらしく、刃から水レーザーが出せるらしい。水バリアとか、霧隠れとか、色々機能満載のよう。
「……俺の気持ちがわかる?」
「拒否、希望……」
「もう遅いね」
テーブルの席に着いたマヤはがっくり項垂れてしまった。この世界じゃ神様に振り回されるんだよ。諦めが肝心だ。
「姉さん、いつまでもくよくよしないじゃん」
妹のトルエが肌着のみでやってきた。スレンダーなんだけど腰のくびれがすごいので彼女もモデル体型だ。うらやかけしからんね。
「そこの狐娘はせめて上着くらい羽織って来ようよ。お父さんは悲しいよ」
「誰がお父さんじゃん」
「いいから戻って戻って。じゃないと尻尾をモフるよ」
「それは嫌じゃん」
ちょっと脅すとトルエは部屋に戻っていった。獣人さんは尻尾が大事な部分なようで、触らせるのは親しい間柄だけとか。特に異性は。
ということで、トルエトマヤへの対処方法が確立されたのでご安心なのだ。
「ダイゴおじさん、外におっきな蜂さんがいる!」
朝の薬草採取で表に出ていたオーリヒェィちゃんが屋敷に飛び込んできた。よほどびっくりしたのか、顔が青い。
「おっきな蜂って見覚えしかない……」
たぶんそうだろうと思って三和土から外を見ると、やっぱり女王蜂さんだった。名前があったけど女王蜂さんのほうが言いやすい。
その女王蜂さんは2枚の葉っぱがついた1本の木の枝を持ってる。長さは俺の身長くらいはありそうで、修験者の杖にはよさげな感じ。すすーっと中に入ってきて、その枝を俺に押し付けてきた。
「これをくれるの?」
と聞けばコクコクと頷く蜂さん。
枝には1枚の紙が貼ってあった。何か書いてあるけど残念ながら俺には読めない。ここにいるのは会話が苦手なマヤとまだ文字が読めないオーリヒェィちゃんだ。
「トルエが着替えてくるのを待つかな」
待つこと数分。しっかり魔法使いらしくなったトルエが戻ってきたので紙を見せる。
「女王蜂さんが持ってきたんだけど読める?」
「えっと読むじゃん。この杖で大森林に行くといい。葉っぱが空気から吸収した魔力を杖を持つものに供給する。無限に魔法が使えるぞ」
「なにその永久機関」
「……ーゆーことじゃん?」
トルエがジト目を向けてくる。それを俺に言われましても。持ってきた女王蜂さんにい視線やったけど首を傾げられた。
苦情は神様にって振りたいけどこれも俺のお仕事なんだろうなぁ。
「マヤがヤベー短剣を持たされたからトルエにも同じようにヤベー物を持ってきたんじゃん?」
「マネするなじゃん」
「いいじゃん、トルエは魔法使いなんだから、魔法をバンバン撃てていーじゃん」
「マネするなじゃ――」
トルエの言葉を遮るように女王蜂さんが間に入って杖を押し付けた。ヴヴヴってホバリングしながらむぎゅって押し付けてる。
「なななんじゃん、このでかい蜂!!」
「その蜂さんは女王蜂さんで、蟲の神の使いだから雑に扱うと神様からナニカが直接来るよ」
「なんでそんなもんがいるんじゃん!」
「神様はフリーダムだからね、シカタナイネ諦めよう。マヤもそう思うでしょ?」
マヤに水を向ければ、大きく頷いてる。死んだ目だった彼女の瞳が復活していた。妹を道連れにできたからだろうか。アーメン。
「妹、観念」
マヤの言葉に女王蜂さんが空中でくるくる回転してる。前脚をまげて力こぶを作る仕草までした。虫にそこまでの筋肉はないから変化はなしだけどどこまでも人間臭い。中の人がいるでしょこれ。
絶対に引かない様子の女王蜂に観念したのかトルエが杖を手にした。
「これでトルエも大森林で活躍できますわね」
「一緒にがんばろ!」
リーリさんとベッキーさんが起きてきた。深酒をしない日は朝イチでもお化粧までばっちりだ。オババさんは自宅の扉から入ってきた。
謀ったかのようなタイミング。談合しましたね?
「大森林には誰を連れて行くんだい?」
テーブルにつきながらオババさんが先手を取ってきた。もちろん矛先は俺だ。おっと食事の準備もしないと。大量の丸パンとサラダにベーコンエッグにしよう。
「サンライハゥンさんにも頼もうかなーって」
「ふむ、7人と1匹ってことになるのかい? 結構な所帯だから世話係が欲しいねぇ」
「俺がそのつもりだったんだけど?」
「アンタはアタシらと一緒に探しに行くんだよ」
「……マジすか」
「あぁ、おおマジさぁ」
パンを齧るオババさんが獰猛な目で俺を見てくる。俺は獲物じゃないですよ。
「うーん……そんなことができるのは」
と視線を泳がせれば部屋の隅っこで小さくなってるロッカポポロさんを見つけてしまった。メイド服のエプロンをぎゅっと握って一生懸命壁に擬態してるけど、ごめんよ。
「ロッカポポロさんしかいないなぁ」
「わわわわたしは」
「大丈夫、安全は確保できるから」
「で、ですが、わたしがいってしまうと子供たちのお世話が」
「うーん、それがあるかー」
先生も高齢だし子供たちもやれることが増えてきたけどまだ任せちゃうのはどうかなぁ。
「トランダルがやれひゃうひょ!」
ベーコン片手にベッキーさんが主張する。メイド服をもらってから甲斐甲斐しく家事をしてて、本人もやる気に満ちてるらしい。
「トランダルちゃんはしっかりしている子なので、できるとは思いますけど」
目隠れメイドさんは心配そうだ。
「今までだってみんなでやってたんだから、大丈夫!」
「そそそうですか」
ここ出身で子供たちを誰よりもしてるベッキーさんが太鼓判を押す。ロッカポポロさんもベッキーさんにそう言われると言葉を返せない。
「なら決まりさね」
最後はオババさんが締めくくった。あとは俺が何とか善処するしかないかな。
あれ、俺って割と胃が痛くなることしてる?




