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第百九話 族都ホワイトベアー

 壁と思われる建造物の目の前に来た。青くて半透明で、多少の濁りはあるけど確かに氷だ。ちらほら魚らしき物体が中にあったりする。

 その中でも色が濃くて透けてない氷の部分がある。幅は4メートルほどでそれが壁の上まで通ってる。竜車ならすれ違えるかな。


「これが扉か門だと思うんだけどね」


 手袋越しだけどペタペタ触る。当たり前だけど固い。高さは4メートルほどで、ぶちこに乗っちゃえば全然余裕なんだけど空からこんにちははあまりよろしくないかな。


「取っ手もなにもないですわね」

「うーん、開けちゃう?」

「叩いてみましょうか」

「じゃあやっちゃうよ!」


 ベッキーさんが右腕をぐるぐる回し始めた。力業はお任せだ。


「ベッキーさん、加減してねー」


 釘を刺しておかないと壊しそうで。

 色の違う氷の前に立ったベッキーさんが手をグーにしてゴンゴンとたたいた。


「誰か、いるー?」

「中に入りたいのですがー」


 ふたりが声を張り上げた。そしてまたゴンゴンと叩く。


「だれかー」


 ベッキーさんが呼びかけるも応答はなし。さてどうしたものかと顔を見合わせたとき、「あなたは何方でここに何の御用かな」と氷の向こうから声が通ってきた。人はいる様子。


「アジレラからきたハンターのリャングランダリと申します」

「ベンジャルヒキリだよ!」

「あ、佐藤大悟といいます!」


 とりま3人で声を張り上げた。大きい声を出すってけっこう大変なんだよね。特に寒いところだと。


「水でお困りと聞きまして、水神の使徒様と訪れさせていただきました」


 リーリさんがさらっと変なことを言うので顔を向けたらテヘペロされた。


「ダイゴさんは、水神様の使徒には違いないですよ?」

「使徒として働けって言われてないんだけど?」

「同じようなものですわ」

「そうだよ!」


 ふたりに肯定されてしまうと多数決で俺の負けとなる。ぶちこはしらんぷりであくびをしてる。


「水の使徒だって!?」


 ちょっと驚いた声色の反応があって、すぐに色の違う氷の壁が軋んだ。ゴリゴリと氷同士が擦れる音がして、色違いの氷が引っ込んでいく。引っ込んだ氷がふたつに分かれると、その隙間には白熊がいた。 

 真っ白な毛に、ところどころ黄色いマダラを作った、二足歩行する白熊だ。その白熊は頭の上の耳の間に小さな山高帽を載せていた。


「く、くまぁぁぁ!」


 ちょっと待って、なんで白熊がいるの!?


「……そんなに驚かなくても、食いついたりはしないさ」


 白熊は穏やかに語り首を横に振った。


「ホワイトベアー族、ですね」

「うむ、そちらのお嬢さんは博識のようだ」

「伯母から話を聞いたことがあるだけですわ」

「その伯母さんも博識なんだね。おっと水神の使徒と言っていたけど」


 白熊が俺たちを見渡す。即座に「俺です」と手を挙げた。


「ふむ、見たことろ人族のようだね」

「まー人族ですね」


 指輪するの忘れてた。


「使徒であることを示せるのかな」


 あれ、割とあっさり話を聞いてくれる?


「……そうですね、これでよければ」


 魔法鞄から鱗を取り出して見せた。これくらいしか証拠品はないんだ。


「これは水神様の鱗で、井戸に投げ込むと水が湧いて出るものなんだけど」

「井戸は、この族都ホワイトベアーにはないんだ」

「ないというと、水はどうやって?」

「水とある村で作られて族都に供給されているんだ」


 そこまで話した白熊の体がふらついた。


「おっとすまないね。大きな声じゃ言えないけど、いま水がとても塩辛くなってしまっていてね、我慢して飲んでいるのだけど、どうも体に良くなくてね」


 と言ってるそばからこの白熊氏は眩暈みたいに傾いた。ちょっとやばそうだ。


「手当っと……どうですか?」


 白熊氏はぶるぶるっと頭を振るうと、「うん」と呟いた。白熊氏の毛から黄色が消えてまさに白熊となった。


「体が軽い」


 白熊氏は頭の上の小さな山高帽を取ると深々と頭を下げた。


「まるで奇跡のようなことができるのだね」


 白熊氏はほほ笑んだ、様な気がした。だって熊の表情なんてわからんもん。


「おっと僕はホワイトベアー族のメジロ・ヒ・ホワイトベアーだ。今日はここの門番の担当だったんだ」

 

 メジロといった白熊さんはそう言うと山高帽を耳の間に置いた。割と覚えやすい名前でよかったと思うけどホワイトベアーってそのまんまじゃん。


「うん、名前の意味はホワイトベアー生まれの男子メジロってことさ。わかりやすいだろ」


 ハハハと穏やかに笑う白熊。なんだろう、キャラは濃いけど性格が穏やかなのは初めてかもしれない。


「お尋ねしますけど、族長にお会いすることは可能でしょうか?」


 リーリさんが尋ねるとメジロさんは顎に手を当てた。ちなみに手は白熊そのもので爪が厳つくて怖い。


「予約なしでは無理かなぁ」


 やっぱそうだよねー。


「まぁともかく族都ホワイトベアーにようこそ。歓迎するよ」


 メジロさんは体をずらして通路を作ってくれた。その通路の先には、氷の世界が広がっていた。地面はもちろん建物もすべて半透明な氷だ。


「わ、これ全部、氷?」

「氷で建物が造られているのですね」


 ふたりも目をパチパチして驚いてる。

 そこかしこに歩いているのはみな白熊。ただ、必ず何かを持っていたり身に着けていたりする。


「あの熊?はブレスレットだし、あそこの熊は靴だし、あっちの熊は手袋だ」

「僕らホワイトベアー族は毛皮のおかげで寒くても問題ないんだけどみな同じだと区別がつかないから、好きなものを身に着けるようにしているんだよ」

「な、なるほど」


 すごい大昔のご先祖様がまだ裸族だった頃も、そうだったのかな。


「大したもてなしはできないけど、ゆっくり見るといいよ」


 といってメジロさんは開けた氷を元に戻した。こんな極寒の地でも魔物はいるらしく、開けっ放しはご法度とのこと。魔獣も逞しいな。


「見てみようよ!」

「僕がついていくよ。今は商人もいない時期だからホワイトベアー以外がいると目立つからね」

「わ、メジロさんありがとう!」


 メジロさんが付き添いしてくれるそうだ。ワクワクしてるベッキーさんに手を引かれ、族都ホワイトベアーを歩くことに。

 入口からまっすぐ通りが続いてて、両側には氷の二階建てが連なってる。でも店とかはなくて、みな扉がある住宅に見える。

 白熊はあちこちにいて、俺たちをチラチラと見てくるけど近くには来ない。警戒してる感じだ。メジロさんがいてくれて助かった。


「お店は、ないのかな?」


 ベッキーさんがきょろきょろしてるけど、看板もなければ商品も見当たらない。飲食店はおろか食べ物を売っていそうな屋台もない。まぁ、寒すぎて暖かい食事とかは望めないし、白熊だし。


「僕らが食べるのは凍った魚だけだからね。服も着ないし、商店はないんだよ」

「魚はどのようにして買うのですか?」


 リーリさんが聞くとメジロさんは小さく頷いた。


「魚は配給制なのさ。皆で稼いだ金で皆が食べる。そうしてホワイトベアー族は生きてきたんだ」


 メジロさんの言葉に俺たちは「なるほどねー」と唸るしかなかった。土地がら住んでいる民族柄だもんね。白熊のあの手じゃ細かい作業とか厳しそうだし、凍ってても魚を食べてるならそれでいーんだよなー。


「凍った魚って、美味しい?」

「うん、僕らにとってはごちそうさ」

「食べてみたい!」


 ベッキーさんはそっちに気もそぞろっポイ。ベッキーさんらしくてよろしい。


「歯が硬くて顎の力が強くないと食べるのは大変だよ」

「わー、あたしじゃ厳しいかなー。でも食べてみたいなー」

「ふふ、あとで1尾あげるよ。体調が悪いのを直してくれたお礼だ」

「ありがとう!」


 ベッキーさんはぽやぽやして嬉しそうだ。そんなことを話していたら広場の様なスケート場の様な空間に出た。広間の中央にはトロフィーみたいな金属製のものがあり水が噴き出してる。噴水みたいだ。


「あれが、この族都にひかれている水さ。塩辛くてまるで海水みたいになってしまっているけども」

「海水? ということは海が近い?」

「……この水はここから北に半日歩いたドシロ村から引いているんだ。あそこには水を作り出す炎の柱があってね」

「炎の柱!?」


 どこぞで見た記憶があるんだけどそれは。


「火の神と氷の神様が作ってくださったものさ。でも炎が強くなりすぎて水が作れなくなってしまってねぇ……緊急措置で海水を代わりに流しているんだけど、塩辛すぎて皆体調が悪くなってしまっているんだ」


 メジロさんはそう言いながら周囲の白熊を見た。彼らの体には黄色くなっている部分が目立つ。おそらく塩分の取りすぎなのかも。試しとばかりに噴水の水を舐めてみたけど、しょっぱいってもんじゃなくて辛すぎた。よくこれを飲めるもんだ。

 ローザさんが言ってたのはこれかなぁ。その水を作ってる村に行けばわかるのかな。

 リーリさんを見ればこくんと頷かれた。同じことを考えてたらしい。ここの族長さんには会えないんだし、その村に行ってみよう。

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