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第百六話 毛刈り

 バリボリと砂羊のお食事タイムは10分ほどで完了した。満腹なのか俺たちの周りでは普通サイズの砂羊たちがご機嫌な声で「メェェ」と鳴いている。俺が知ってる羊くらいの大きさでもふもふでかわいい。さわってもおとなしい。


「さて、どうやって村まで連れて帰ればいのやら」


 巨大なボス砂羊は目の前にドドーンと佇んでる。もふもふは、なんだか固そうに見えるけどそれは表面だけで中の毛はふっわふわで包まれると極楽に行けちゃうくらいだそうな。ちょっと怖くて触れないけど。


「イゴール村まで歩くにしても時間がかかりますわね」

「あたし、担ぐよ!」

「いやいやできるかもしれないけどさ、物理的な大きさ考えようよ!」

「わたしも手伝いますわ」

「ふたりして下敷きになっちゃったら俺が悲しむからやめてね?」


 そこまで言えばふたりもしおらしくかつおとなしくなった。あなた方がいないなら俺がこの世界で頑張る意味もないというもの。わかればよいのですよ。


「とはいえ、どうするかなぁ」

「わっふ!」


 ぶちこ(小)が前脚で俺のももをつんつんしてくる。何か策でもあるの?


「わっふわふふふ!」


 と言ってから俺の周りをぐるぐる走り始めた。


「まさか、走れと?」

「わっふ!」


 ぶちこが嬉しそうに飛び跳ねた。そしてボス砂羊を前脚で指す。


『メ゛エ゛』

「わふ」

『メ゛エ゛?』

「わふわっふわふぅ!」

『メ゛エ゛!』


 ボス砂羊がひときわ大きく鳴くと脚をまげてお腹を地面につけた。


「あら、座っちゃった」

「小さい砂羊が登っていくよ!」

「どんどん登っていきますわ」


 あれよあれよという間に小さな砂羊はすべてボスの上に登ってしまった。ボス砂羊が首を回して周囲を見た後にググっと立ち上がった。


「わっふ!」


 今度はぶちこは大きくなって地面にぺたとお腹をつけた。ボス砂羊と逆だ。


「乗れってことなのかな」

「わっふ!」

「当たりみたいだ」

「ダイゴさん、もしかしたら、ボス砂羊と一緒に走るのでは?」

「まさかの並走!?」


 そのまさからしい。ぶちこが軽く走り出すとボス砂羊もドドっと駆け出す。ぶちこが速度を上げるとボス砂羊もドドドっとついて来る。


「しかし、すごい音と地響きだ」


 ボスが一歩を踏むとズシンと地面が揺れる。ズシンズシンが連続で工事現場よりもひどい。


「つくころには村が大騒ぎかもしれません」

「ありうるなそれ」


 村についたら説明するしかないか。

 ぶちこはボス砂羊を考慮して速度を控えめにしてるっぽくて、俺的には割と余裕がある。前に座るベッキーさんのお腹に腕を回さなくても体が安定してる。

 そうすると心にも余裕が出て景色にも意識が行くわけで。


「んー、砂と岩と荒れ地しかない」

「砂羊はこのような土地を好むと聞いていますわ」

「人がいないほうが、土に魔力があるって聞いたことがあるよ!」

「それでこんな僻地で砂羊を飼ってるのか」


 いろいろ事情があらーね。こんな場所でも生きてる獣人含めた人間ってのは、生物の中でも変り者なんだろうなー。

 時折水を撒いてロックワームをおびき出してはリーリさんが殲滅してボス砂羊が食べる、を何度か繰りして夕刻に村の近くまで来た。残り200メートルってとこかな。

 村にはかがり火らしきものがたかれてて、人が集まっているのが見える。槍みたいな長いものを持っている人もちらほらいて、何かに警戒してるようだ。


「こんなデカイ砂羊がきたら、やっぱり警戒するよなー」

「地響きがすごいですし」

「びっくりしちゃうよね!」


 かなり遠くからでも聞こえたろうなぁ。


「ベッキーさんとリーリさんだったらあまり驚かないかもだけど」

「ダイゴさんといれば、慣れますわ」

「あたしは、慣れちゃった!」


 ふたりのいつもの反応にも慣れてしまった。これしきの事で驚いてたら、各神様の使いと会ったら気絶しちゃうよ。


「先行って説明してしますわ」


 リーリさんはそう言うとぶちこから飛び降りて荒れ地を走っていく。砂煙が上がってるのは気のせいか。


「走るのは速すぎない?」


 あっという間にリーリさんの姿が村に消えて、ややあって戻ってきた。


「説明してきました! ボスちゃんは村に入るの無理なので、手前で待つ感じで。そこで毛を刈るそうです」

「わっふわふわふ」

『メ゛エ゛エ゛』

「わふ」

『メ゛』


 なんか最後はツーカーな感じで会話を終えた様子。リーリさんはボス砂羊をボスちゃんと呼び始めたし。いい感じの緩さだ。

 ボスちゃんがひざを曲げて腹ばいになると背中に乗っていた砂羊たちがメーメー降りていく。その間に村の人らがかがり火を持って周囲を明るくしてる。ボスちゃんらは火を怖がってるようだったけどぶちこが「わふ」と言ったらおとなしくなった。

 こわくないよーとボスちゃんを撫でておく。


「これは、コロニーのボス、グレート砂羊ですな。また見事な体躯ですじゃ」


 村長さんは少し遠くからボスちゃんを眺めている。かがり火に照らされてオレンジ色になってて、コレはこれで綺麗だ。ちなみに、小さい砂羊たちは離れた場所でメエメエ砂を食べてる。ひたすら食ってるなこいつらは。


「気性が荒く、人を近づけぬのじゃが」

「あー、それはこの子のおかげです」


 秘密を知りたそうな村長さんにぶちこを紹介した。人の言葉を理解しててかつ魔物とも話せるぶちこがいないと不可能だけどね。ちなみに今は大きなぶちこだ。


「そ、そうなのか。この大きな魔獣が……」

「賢いワンちゃんですよ?」


 ぶちこは魔獣じゃない。


「おさー、そろそろやるべかー」


 ボスちゃんの上によじ登ってる村人が村長さんに叫んでる。村長さんは「慎重にな」と返答した。


「毛刈りは【切る】スキル持ちがやるのじゃよ。砂羊の肌を気付つけぬように毛を切るには3年くらいの修行せねばできん。傷をつければ砂羊が暴れ大けがをするでな」

「ボスちゃんが暴れると怪我じゃ済まないな」


 そんなことを話していると、毛刈りが始まった。スキルでバッサリ切った毛の塊がぼとぼと地面に落ちていく。ちょっと近くに行って拾ってみる。


「毛の先の方は固いけど、その他は羽毛な感じだし、これならダウンのコートも作れそうだ」

『メ゛エ゛エ゛』

「ボスちゃんのおかげで北限に行けそうだよ。ありがとう」

『メ゛』


 何となく会話した風だけどたぶん通じてない。

 順調に毛を刈れてるけど、凄まじい量になってる。羊毛の山は俺の背丈なんて簡単に越してた。それでもボスちゃんの刈り具合はまだ半ばだ。村人が10人ほどで一心不乱に刈っててこれだもの。だけど。


「うーん、こんなにはいらないけど、中途半端に刈り残しもできないし。いっそ羽毛布団とかも作っちゃうか」

「たくさん作れそうだね!」

「なにを作るのか、楽しみですわ」


 ふたりの期待が大きすぎやしませんかね。ダウンの衣類を作りたいだけなんだけど。

 北限の用事が日帰り可能とは思えない。泊まるのはリーリさんのあの小屋としても暖房器具がないから寝られないと思うんだ。ダウンのコートを着たまま寝ればいいって考えもあるんだけども。


「ダウンの寝袋でもいいのか。でも材料が大量にあるからあれもこれも作っておこう。なんかデリーリア以外にもあっちこっち飛ばされそうだし」


 ブラック設計屋時代にも出張はあった。単独で行かされて、でもクソな上司がいないからそれはそれで気楽だった。でも今はふたりと1匹がいて、楽しい旅だ。俺が知らないものが沢山売ってそうな商業国家とか行ってみたいよね。

 考え事をしてたらボスちゃんの毛刈りが終わったようで、ついでとばかりに普通の砂羊の毛刈りも始まってた。もう夜なんですけど。


「ほっほ、毛があれば刈るのが我らの仕事じゃからのう」


 ご機嫌な村長さん。


「……村長さん、ただで羊毛をゲットできたとか思ってますよね?」

「そ、そんなことはないぞ」

「欲をかくとボスちゃんが暴れますよ?」


 ボスちゃんは夜だからか地面にコテンと横になって寝てしまった。小さい砂羊も寝てしまって刈られたい放題になってる。


「砂羊も定期的に毛を減らさないと暑いのじゃ」

「よくできた言い訳にも聞こえますがまぁそうなんでしょう」


 こんなに暑いのに毛があるのが不思議だけど。


「砂羊の毛には魔力が籠るのですわ」

「それで身を守ってるんだって! 先生が教えてくれたんだ!」

「食べた魔力を体に纏ってるのかー」


 この世界はわからないことだらけだ。

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