第百五話 ボス砂羊
走っていった彼は中年の獣人を連れてきた。その人が村長のらしい。まずは挨拶からだよね。
「初めまして、アジレラから参りましたダイゴと申します」
「ベンジャルヒキリだよ!」
「リャングランダリですわ」
「遠路はるばるご苦労様ですな。で、羊の毛が欲しいとのことでしたが」
「ちょっと北限での水の困りごとを何とかしてって頼まれてまして。そのための防寒着を作りたいので、材料に羊毛が欲しかったんです」
「ふむ。水の困りごとと言われれば協力もしたいのじゃが、丁度出荷した直後でほぼないのじゃ」
俺たちをあしらう感じではなく、きちんと考慮したうえでの返答の様だ。ここも水で困ってたのを解決されたから親身になってるってのはあるんだろう。ただ、ゲットできないとほかの手段を考えないとダメなんだけど。
「うーん、ここ以外で買えるような場所ってあります?」
「ここ以上の産地はないからのぅ……どうしても、というなら野生の砂羊を捕まえて毛を刈るという方法もあるが」
「野生の砂羊!?」
「ここから北に歩いて3日ほどの場所に砂羊のコロニーがある。そこの砂羊を捕まえて毛を刈るくらいしかないのぅ」
「それならば私とベッキーにお任せを」
「やるよ!」
リーリさんがどこぞから弓を取り出して、ベッキーさんが腕をぐるぐる回し始めた。気が早いって。ステイ、ステイです。
「捕まえてくれば毛を刈るくらいはやってもよいぞ」
「あ、それは助かります」
毛刈り器なんて持ってないもん。ナイフとかで切ったら羊を怪我させちゃいそうだし。ここはプロにお願いするのが得策だ。
「じゃあ捕まえてくる!」
「野生の砂羊。楽しみですわ」
すっかりハンターになっちゃって鼻息が荒いふたり。というわけで、またぶちこの背に乗って空を走り始めた。
北に行く道はまっすぐだけどすごい細くて見失いそうだ。ここから北に行く人は少ないんだろうな。
「今日は移動ばっかりだけどぶちこのおかげですごい助かってる」
「ぶちこちゃん、ありがとね!」
「ふふ、ぶちこちゃんが嬉しそうにしっぽをフリフリしてて可愛いですわ」
「ほめられたし走りたい放題だしね」
なんてとりとめのない会話をしているうちに30分ほど経過していた。砂羊のコロニーとやらは何処にあるんだか。
「徒歩で3日ということは、竜車で半日もかからない位置です。ぶちこちゃんならもうついていてもおかしくはないのですが」
視界は360度あるけど、砂羊らしき白い物体は見当たらない。村長さんが嘘をつくとも思えない。
ともかく探すしかないなと思った時、巨大な白いモフモフを見つけた。周りには小さなモフモフもいる。
「あ、なんかおっきな羊がいる!」
「……超大型ダンプくらいはあるぞアレ」
「ダンプとはなんでしょう?」
「えっと、荷車の超巨大版? 家も運べちゃう感じの」
「ずいぶん大きいのですね。砂羊の群れのボスでしょうか?」
「ボスにしてもちょっと大きすぎぃ」
砂羊の生態なんて知らないけどちょっとおかしくない? 周囲の砂羊の数十倍の大きさくらいあるんだけど。
アレの目の前で砂羊を連れていくのは危険な気がする。ボスなら阻止するだろうし。
今回は悪いのは俺たちなんだよねー。
『メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛』
巨大な砂羊が鳴いたら音と一緒に衝撃波も来た。腹の底に響くぅ!
「デカいと声もすげぇ」
「体が揺れたよ!」
「砂に模様ができてますわ」
リーリさんの言葉に地上を見てみれば、砂漠みたいな波模様がボス砂羊を中心にして出来上がってた。あれ、音波でできたんだろうか。
「羊さんにお願いしてみる!」
ベッキーさんがぶちこからぴょーんと飛び出しちゃった。
「もう、またベッキーは! 風よクッションになって」
リーリさんが言葉を放つともやっとした空気がベッキーさんを追いかけて飛んで行った。ベッキーさんが地面に着くタイミングでさっと足元に入り込んでくにょんと歪むのが見えた。ベッキーさんは何事もなく砂地に立ってる。と、こっちに向かって手を振ってる。そのままボス羊に突進して行った。
「何か考えでもあるのかなぁ」
「そんなものはありませんわ」
リーリさんに即答された。ベッキーさんを追いかけて俺たちも地上に降りた。
「でっっっっかぁぁぁぁい!」
『メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛』
ボス砂羊の前でベッキーさんが叫んでる。度胸があるというか何も考えてないというか。まぁベッキーさんだし。
近くで見ると迫力満点だ。背後には普通サイズの砂羊の群れがいる。
見た感じは羊なんだけどぐるぐる巻いてる角がちょっと禍々しいくらいであとはサイズ感がバグってるだけ。
『メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛』
「うるさっ!」
耳をふさいでもうるささが体全体に来る。
「ダイゴさん、おっきな砂羊! 羊毛が沢山とれるね!」
「問題はどうやって毛を刈るかだけど」
「おとなしく刈られるつもりはなさそうですわ」
巨大すぎるボス砂羊はそのつぶらな瞳で俺たちを見ているけど、前足が荒地をドスンドスンと叩いてるからご機嫌は麗しゅうない感じ。
『メ゛エ゛エ゛エ゛エ゛エ゛』
「わっふわふわふわっふわふ!」
『メ゛メ゛メ゛メ゛メ゛?』
「わっふわっふわふふわふ」
ぶちこがボス砂羊と向き合ってなにか会話らしきコンタクトを取ってる。大きさは砂羊の方がだいぶデカいけど。
「ぶちこちゃんは、話ができているのでしょうか?」
「わ、すごいね、ぶちこちゃん!」
「マジで会話してるの?」
ぶちこはお尻を地面につけて前足を手のごとく身振り手振りで何かを説明しているように見える。自分の毛を引っ張ってるから毛が欲しいって伝えてる可能性も?
「わっふわふ!」
『メ゛エ゛』
何かの合意に達したのだろうか、お互いに小さく吠えた。
「ぶちこ、どうなったのって……あれ?」
ぶちこが近づいてきて、俺の腰につけてるの水袋を前足でつんつんしてそのあと地面を叩いた。
「水をまけってこと?」
「水を撒いたらロックワームが出てしまいますけど」
「出てきたら、ドカーンってやっちゃうよ!」
ベッキーさんが勇ましく、どこからか取り出した巨大なハンマーを振り回した。
「わっふ」
「うーん、ぶちこがそう言うならやってみるか」
腰の水袋を外して、足元にダバダバ水を垂らしてみる。
「ピギャァァァ!」
「ピギャァァァ!」
「ピギャァァァ!」
ビルみたいなロックワームがそこかしこから飛び出してきた。ドドドンとビルの林がそそり立つのは、ちょっと壮観。
『メ゛エ゛エ゛』
近くで飛び出してきたロックワームにボス砂羊が突撃していく。両者の高さはほぼ同じなんだけど体格が違いすぎて、ロックワームははねられて砕け散った。
『メ゛エ゛エ゛メ゛エ゛エ゛』
ボス砂羊はその砕け散ったロックワームをガリゴリ食べ始めた。
「わ、ロックワームを食べちゃうんだね!」
「ベッキー、やりますわよ!」
「いっくぞー!」
ベッキーさんがハンマーを振り回しながらそこかしこにいるロックワームを殴っていき、リーリさんが光る矢でスナイプしていく。ぶちこは俺の隣にペタッと伏せて「わふわふ」と眺めてる。
「あ、普通の砂羊もロックワームを食べ始めた」
普通サイズの砂羊がわらわらと歩いて行ってロックワームの破片をついばみ始めた。いたるところでボリボリとせんべいをかじるような音が聞こえる。
「えーっと、砂羊って砂の中の魔力を食べるって聞いてたんだけど、あんなのも食べるんだ」
ロックワームにも魔力があってそれを食べてるとか?
「えーい!」
「これで最後ですわ!」
ものの数分でたくさん沸いたロックワームは全て退治されてしまった。俺を守るためにかずっとそばにいて活躍できなかったからかしょんぼり君のぶちこを撫でて褒めておく。えらいえらい。今回のMVPはぶちこだもの。




