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第十一話 野菜を栽培してみよう

 満足した様子でぶちこが帰ってきた時には数時間ほど経過していた。その間俺が何をしていたかというと、工作だ。

 倉庫にあった木材をまたまた拝借してテーブルを作ってた。一枚板を贅沢に使用した、2メートル四方のテーブルだ。ここで食事ができるように大きめに作ったつもり。

 めっちゃ固い木材で俺が飛び乗ってもたわみもしなかった。俺がちびで軽いってのもあるかもだけど。

 椅子は、都度家から持ち込みかな。クッションがない木の椅子だとお尻が痛くなる。

 あと、簡素だけど神棚も作った。これは水神様向け。札もなければご神体もないけど。

 壁に取り付けはできないからまたも木台を作って、そこに乗せることにした。場所は、家につながる鉄扉の脇に置こうかな。本来の入り口から見て一番奥に位置するし。祀るご神体って一番奥に鎮座するもんでしょ?

 ぶちこも満足したので家に帰ることに、昼も過ぎてお腹がすいたよ。この教会にも戸締をかけておく。誰か来るとは思えないけど一応ね。


 廃墟の教会を復旧させてから2日。俺も少し外に出てみることにした。運動不足でお腹が重くなってきた気がするんだ。食べ過ぎてしまう美味しいご飯が悪いんだ。


 教会の外観は黒の壁に青い屋根だった。新築同然の外見で綺麗だしまさに教会って感じだ。

 裏の井戸はいつの間にか水があふれそうなくらいたまっていたし、なんなら周囲に雑草も生えてきていた。雑草君はたくましい。

 教会に続く道は意外に広くて、建物の残骸が規則的に並んでいる。ここは結構発展した街だったんだなってわかった。なぜ廃墟にってのが気にはなる。


 朝食を食べたら家の目の畑の拡張をして、昼食後に廃墟に行ってぶちこの散歩をするパターンで過ごしてる。俺の仕事は家で生活することなのでこれであってるんだが、ぶちこの食費が増えた分をどうしたらいいか悩み中だ。考えても解決策が浮かばない。


「だって、いまの俺ぼっちだもん」


 畑で栽培中の薬草は売れるんだろうけど売る伝手がない。


「あそこが廃墟じゃなければ、可能性はあったんだろうけど」


 ただ、俺自身が交渉に向いてないというか、所詮ブラック設計屋で基本内勤だったってのがね。それにここが物理法則がない世界で俺の常識が通用しないってのもあって余計に。

 そんな悩みを抱えながら今日も廃墟に来た。ぶちこはすぐに駆けて行ってもう姿も見えない。運動しているからか食べる量が倍近く増えててお金がやばいんだ。ちょっと憂だ。

 落ち込んで地面を見てたら、木の枝のような苗のような、そんなものを見つけた。


「草、ではないなぁ。木の赤ちゃんとか、そんなのかな」


 そういや昨日、ここでりんごを食べてた気がする。種は、土に還るからと適当にポイした記憶が。


「これ、りんごの木?」


 ちょっと待って、いくら何でも早すぎでしょ。これが種から生えたとして、ここまで育つわけないでしょ。

 なんて思って周囲を見たら、同じようなものを多数見つけた。具体的には20本くらい。

 ちょうど教会の周囲に沿うように生え始めてる。

 おかしい、俺がりんごの種を捨てたのは井戸の近くだけだったはず。じゃあ違うのか。


「それはそれとしていい垣根になりそうね、って違うし」


 もし万が一青天の霹靂でそうだとしたら恐ろしい育成速度だ。そしてなぜか広がっている。

 常識が通用しないからありっちゃありなんだろうけど。

 あれ、もしかしたらさ、じゃがいもを植えればそれが種芋になって、ジャンジャン増えたりする?

 そうしたら、少なくともじゃがいもをあそこで買う必要がなくなる?

 野菜とか大根とにんじんとかネギとか植えなおしたら花が咲いて種が取れてそれを撒いたらウハウハとか、そんな都合のいいことがある?


「肉はどうしようもないかもだけど、ちょっと光明が見えてきたかな」


 畑にするのはぶちこに土をひっくり返してもらって、そこに種をまけば何とかなるでしょ。

 善は急げだ急がば回れ。出かけてったぶちこの帰りを待つしかないけど、その前にあのガラスの冷蔵庫の中から可能性のあるものをもってこよう。まずは種が獲れる果物かな。


「というわけで、いったん戻って来たけど、うん、果物はあるね」


 りんご、いちご、ぶどう、栗。一部果物じゃないけど、種が取れそうなものはこれくらいだ。あとは大根とにんじんとじゃがいもを持っていこう。

 為せば成る為さねば成らぬ何事も。

 種をまくくらいなら俺でも耕せる、はず。念のため鍬は持ってきた。

 教会の裏手にある井戸の近くに向かう。水も近いし、お試しはここでやろう。


「どっせーぃ!」


 鍬を持ち上げてドスンと地面に打ち込む。石もなくすんなり土に差し込まれた。もしかして、耕しやすい土地なのかも。


「ひっくり返して、よっと!」


 てこの原理を使って土を掘り起こす。湿り気のある黒い土が見えた。乾いているようには見えないし、手で触ってみると指にまとわりつく。


「お、いけるんじゃね?」


 素人判断だけどさ。

 えっさほいさと土を耕してじゃがいも2つに大根にんじん各3本を埋めた。持ってきたカップで井戸の水を汲んでジャバジャバかける。たっぷりとね。


「育ってちょうだいお願い」


 手を合わせて拝んでおく。

 お試しはここでいいけど、本格的な畑にするには教会から少し離した方が良いな。


「りんごはたくさんあるから、いちごだな。いちごは食べたい。ケーキには必須でしょ」


 まずそのケーキを作るのが難しいとか言わない。いちごを撒くのは教会の近くの方が良い。木にはならないしね。

 鍬で地面をざっくり耕していく。

 いちごは周りの粒粒が種っぽいので、それをちぎってはまいていく。アバウトだけど、まぁ、実験みたいなものだし、楽しいよね。


「あとは、そのものが種な栗と食べれば種が出てくるぶどうだ」

 

 薄緑のブドウで品種は不明。でも甘くて美味しいから問題なし!


「教会の正面に栗とぶどうを植えよう。忘れないようにタグが欲しいな。あとで倉庫の板を切って作っておこう」


 初日はこんなもんだ。一週間くらい経過観察しよう。楽しみにして、昼寝に入った。


「昼寝から起きたらこうなるなんて、誰も思わないって」


 散歩ついでに教会裏の実験農場(俺命名)を覗いてみたら、まいた種のところから芽が出てた。じゃがいもを埋めたところからも芽が出てた。植えた大根とにんじんの葉がにょきにょき伸びてた。りんごの木が俺の身長を超えてた。


「土か? 水か?」


 何がこの現象を引き起こしてるんだ?

 助かるけど、不気味だなぁ。


――恐らく、水神様のお力でしょう。


 おっと調理スキルさんこんにちは。

 水神様の力ですか。そんなのありなんだ。


――水に神気が含まれていますので、それを栄養にして育ったと思われます。


 え、この水にそんな力が?

 というか神気って。


――神気は、魔力とは別名なもので、物に宿った神の力をそう言われます。


 神気の他に魔力もあるんだ。俺にはよくわからないけど。


――魔力は様々なものに、例えば土にも含まれますし、その土に含まれる魔力を食べる動物もおります。


 おおおなんだそれ。食糧ではなく魔力を食べるの?

 水に含まれる魔力を養分として育つなら、物理法則先生が白旗を挙げてるここじゃ、それもあり得るのかー。

 とんでもなくスゲーところだな、ここ。

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