第百三話 イゴール村に行こう
羊毛を買いに行くならお世話になってるエルフのお店だ。俺単独のお出かけは許されないので今日はリーリさんと一緒だ。ベッキーさんは教会で先生のお手伝いとぶちこはコルキュルで走り回ってる。
デートと言うには色気がないけどリーリさんはいつものワンピースでご機嫌だ。頻繁に着てるからかちょっと色あせてきた気もするけどこれも修繕で直るんだろうか。ハンター装束も作ったほうがいいかな。
なんてことを考えながら活気があるアジレラの道を布屋さんに向かって歩く。
「最近は少し涼しくなってきましたね」
俺の右を歩くリーリさんがそんなことを言った。俺の体感では変わりないんだけど。常夏なのでわずかな気温の差もわかるのかな。
「お酒がおいしい季節ですね」
あ、それが言いたかったのね。日本酒があれば熱燗もとなるんだけど。麹菌もしくは魔道具プリーズ。
リーリさんと屋台で買い食いしたり雑貨屋さんを覗きながらのんびりと布屋まで歩く。砂クジラの他に砂羊の肉とかサラマンダーの肉の串焼きも見かけた。新しい味だからか屋台の前には行列ができてる。ちょっと出回るのが早すぎない?
「おじの商会の系列のお店ですわね」
「あぁ納得」
「お肉はわたしが売りました」
「犯人がここにいた」
情報は武器だよねーなんて再確認。
寄り道して遅くなったけど表に生地があふれているエルフの布屋さんについた。
「羊毛でなくとも保温効果のあるものがるといいんだけど」
「ともかく聞いてみましょう」
「ごめんくださーい」
挨拶しつつ中に入る。所狭しと生地が並んでいる合間の道を奥へと向かばエルフのおっちゃんがいた。
「お、いらっしゃい。今日は何かお探しかい?」
「えっと、砂羊の毛って扱ってます?」
「砂羊かー。最近入荷がなくってほとんど在庫がないんだよ」
エルフのおっちゃんは顎をさすりながら困り顔だ。入荷がないとはなんぞ。
「でも羊乳は不足していると聞かないですが」
「最大の産地であるイゴール村が日照りで大変なことになってるってのが原因さ」
「日照りで?」
「砂羊を飼育するには水気がないほうがいいんだけど、それだと俺たちがまいっちまう」
「あー、生きていけないですねー」
要は水不足で飼うほうがやばいってことなのか。防寒着がないととてもじゃないけど寒いところになんていられない。お店をぐるっと見てみるけど綿のようなものはない。常夏の国で防寒着に使う要は素材は置いてないよなー。
あ、防寒着だけじゃなくて寝具もいるじゃん!
ローザさんがらみの案件だから泊りがけだろうし。
「綿の代わりになる大森林さんのものってないですか?」
「うーん、涼しくなるものなら需要はあるけど暖かくなるものは誰も求めてないから」
「デスヨネー」
常夏の国をなめてた。そうだよね、温かい服なんて需要がないよねー。
さてどうするか。
「イゴール村にならあると思うけど、確証はないなぁ」
エルフのおっちゃんが提案してくれる。産地ならあるだろうと。水不足なら水神様のう鱗を投入すれば解決できそうだ。
「確証はないけど行くしかないので」
水神様のやらかしの後始末するためには防寒着を求めて行くしかないのですよ。義務ではないからあくまで俺の意思でだけど。
「イゴール村の場所は知ってるかい?」
当然ながら知りません。地図って売ってないもんかなぁ。
「芋の村から北上する感じですわ」
「あそこの北にあるんだ」
あの3人の女の子にあった村だ。無事にたどり着けたかなぁ。
「行ったことはありませんが、北部に行くには芋の村からの道しかないのですわ」
「結構切実な理由だった……」
そっか、道を作るのも大変だもんね。
「あ、新しく生地って入りました?」
「珍しく白いレースが入荷したな」
「あ、買います」
「また全部か?」
「また全部です」
「まいどありー」
ということでイゴール村に向かうことになった。いろいろ準備も必要だ。
俺単独は許されないっぽいのでベッキーさんとリーリさんにはついてきてもらう。移動手段はぶちこだ。いっそ空を駆けてもらえば早く着くかも。
というわけで、屋敷の世話をロッカポポロさんに丸投げして、トルエとマヤには屋敷の個室を宛がって、ついでにギルド経由でサラマンダーの肉と抜け殻の収集も依頼した。
屋敷を見てもらうロッカポポロさんには俺の記憶にあるメイド服を数着進呈した。ロッカポポロさんはワンピースしかないから汚れると替えとか大変そうだったし。
どこぞのファミレスのように胸は強調せず、黒と白で構成したクラシカルメイドな佇まいに努めた逸品だ。もちろんレースをあしらったエプロンは外せないしカチューシャは絶対だ。ケモミミにカチューシャの破壊力はすごかった。
なぜかトランダルちゃんにメイド服を要求されたので子供用も誂えた。クラシカルメイドがいるだけで屋敷がゴージャスになるのはいいことだ。
いつもは控えめなロッカポポロさんがスカートを裾をつまみながらふふっとほほ笑んでる。
サンライハゥンさんから冷ややかな目で見られたけど着てる本人たちが喜んでるんだからいいじゃないですか。差別はよくないので彼女にも進呈した。じっとり半目で見られちゃったけどなんだかんだで着てくれた。すらっとしたサンライハゥンさんに似合ってて、褒めたらまんざらでもなさそうに見えた。口は悪いけどいい人なのは確か。
もちろんベッキーさんとリーリさんのも作っておいた。どうせ要求されるんだし見てみたいし。
「おやつは1日1回だからね。これを守れないなら追い出すからね」
全員に、これだけは釘を刺しておく。皆の顔がこわばったのがよく分かった。
黙ってたらチョコばっかり食べて虫歯になりそうだし。虫歯の治療って簡単じゃないんだよ。大昔は抜くしかなかったから。腕白一番のあの人じゃないけど白い歯って大事。
「あと、池の向かいにある大樹とそこの地面にいる女王蜂はそれぞれ神様の使いで敵意はないから近くに来ても気にしないように」
サンライハゥンさんが「なんでそんなのがいるんだよ」って呟いてたけどそれは俺が言いたい。俺がいない間にも増えるかもしれないよって言ったら黙ってしまった。神様はフリーダムなんよ。
「食材よーし、食器もよーし、着替えもよーし」
指さし確認は大事。忘れると大変なものばっかりだしね。
「じゃあ留守番をお願いします!」
「はい、お任せください!」
「まっかせて!」
メイド服のロッカポポロさんとトランダルちゃんが元気よく返事をしてくれる。何かお土産を買わねば。
食材食器を魔法鞄に詰め込んで、ブチコに乗る。フォーメーションはいつもの通り前にベッキーさん後ろにリーリさんだ。
「ちょっといってきます!」
アジレラからではなく屋敷がある聖なる山から出発した。




