第百二話 ギルド初体験
お正月も今日まで!
歪み始めた空気を見て「あ、またローザさんかも」なんて思ってたらやっぱりそうだった。水色のローブ姿のローザさんがちょっと焦った顔で現れた。
「ダイゴ様お久しぶりです。あの少々お手を拝借いたしたいことがありまして」
「ローザさんが出てくるときってそんな感じですよねー。あ、ちょっとハンターギルドに行かないといけないので、まずは話からでいいですか?」
「まことにすみません」
俺だけではなくトルエとマヤにも深々と頭を下げてくるローザさん。どうせ水神様絡みだろう。ローザさんも大変だ。
「実は、これと同じこと、というか、これの始まりを北限でやってしまいまして」
「やってしまったのは水神様だけじゃないでしょ?」
「一緒に北限に行った火の神と現地で合流した氷の神と共にです」
「……氷にも神様がいるんだ」
木にいるんだから、そうか。
「3神が現地でヒャッハーした勢いそのままこちらに来て、さらに南方のベルギス王国に行ってしまわれました」
「どんだけの勢いがあれば北から南に行っちゃうんですか……」
「神にとっては地上の距離などあってないようなものですので」
「そりゃそうか」
そもそもいつもはどこにいるのって話だよね。
うーむ、改めて神様のでたらめっぷりを思い知った感じだ。
「それで北限に行って欲しいと」
「お手数をおかけして大変申し訳なく思っておりますがこの通りでございます」
「まぁ、行くとして、北ってことは寒かったりします?」
氷の神様がいるくらいならよほど寒いんだろうと予想はつく。
「水を撒くと地面に着くまでに凍ってしまいます。もっとも地面も氷で覆われているので地面とは言わないかもしれませんが」
「わー、北極も真っ青レベルかー」
防寒着もかなりなものをそろえないと俺も凍りそうだけど、問題はこの常夏な気候の場所で防寒着などあるわけもなく。
「どこかで防寒着を作らないとだめだねこれ」
ダウンとはいわないけどせめて化学繊維ないしは羊毛があれば。アジレラのエルフの布屋さんで聞いてみるかな。ベッキーさんとリーリさんはそこらへんがぴんと来ていないようで、ちょっと首をひねってる。
「それほど寒いところなのですか?」
「わ、寒いところって行ったことない!」
「寒いのは慣れないだろうから俺とぶちこで行ってもいいけど」
ぶちこがいれば何とかなる、かな。現地にはぶちこに乗っていけばいいし、なんなら空も飛べるし。
「いえ、行きます!」
「もちろん行くよ!」
左手をベッキーさんに、右手をリーリさんにがっしり掴まれて宇宙人グレイな俺。いつものフォーメーションだ。
「あたしらはパスじゃん」
「生、整」
「生活基盤を整えるのが先じゃんって言ってるじゃん」
狐娘ふたりは御留守番だ、というかここのサラマンダーの抜け殻を回収してほしいかな。できれば肉もだね。北に行くなら体を温める辛いものは欲しい。
そこも含めてギルドに行かないとだ。
「とりあえずの話は分かったんで、ギルドに行って用事を済ませた後で詳しく聞きます」
「はい、では聖なる山でお待ちしております。よろしくお願いいたします」
ぺこりと頭を下げたままローザさんは霧と消えた。
「……気を利かせてしゃべらなかったけど、あれは何じゃん?」
「恐、逃」
「姉さんが怖がって逃げたいって言ってるじゃん」
「んー、ローザさんは水神様に一番近い人、なのかな。優しい人だけど」
「あたしらを見る目はゴミだめを見る目だったじゃん」
「それは、以前のことがあったからかも? 一応面倒を見るってことを話せば問題ないと思うけど」
「そうあってほしいじゃん」
狐娘ふたりはぷるぷる震えてた。
ギルドに行くために地下空間を出ると、見物している人は減ってはいたけど、燃え盛る棒みたいなのを振りかざす怪しい団体がいた。立ち上る炎の柱に向かって祈りをささげてるっぽい。
「あれは、火の神の信徒ですわ」
リーリさんが言うには、ちょっとおかしな集団に見えるけどあれはあれで敬虔な信徒なのだとか。火の神の軌跡に接して感情が爆発しちゃったんだろうって。いたずらかもしれないけど、神様の痕跡ではあるのか。宗教は難しいね。
そんなこんなでアジレラ西ギルドについた。おっかなびっくり中に入ると、外から見えてたカウンターにウサギ耳の女性が立ってた。前に見たのは男性だったから、もしかしたら奥さんかも?
「こちらの方がクランを立ち上げるので、その手続きに参りました」
「あ、俺です」
「あたしも入るんだ!」
「あら、そうなんですねー」
うさぎ獣人さんは目の下にクマが目立つけど、にこやかに対応してる。カウンターの下から一枚の紙を取り出して書くものとまとめて俺に渡してきた。
「立ち上げるクランの名称とその責任者と所属するハンターの名前の記入をお願いします。その後に保証金をお願いします」
「わかりました」
わかったと返事はしたけど俺にこっちの文字は書けない。読めもしないけどさ。
「代筆しますわ」
「お手数をおかけします」
リーリさんが挙手してくれたので丸投げだ。いつもありがとう。
「おい、あいつ、文字もかけないんだって」
「お前もかけないだろうが」
「俺はいーんだよ」
「よくねーよ、依頼書読めねーだろお前」
「うっせー」
ギルド内にいるハンターだろうか、こちらを見てしゃべってる。内容から察するに、文字が読めない人もそれなりにいそうだ。識字率はさほど高くないのかもしれない。
協会の子らに算数とか教えれば働き口も広がるかも。でも、それぞれ目標があるっぽいし、余計なことになっちゃうかな。
「はい、終わりましたわ」
「ありがとう」
リーリさんに渡されたけど、何が書かれてるかさっぱりだ。確認のしようもないし、リーリさんだし変なことは書かないでしょ。
ということでうさぎ獣人さんに返却する。
「内容の確認です、が……」
彼女がフリーズしちゃった。何を書いたのよとリーリさんを見ればスンというすまし顔。
「ええっと、ここいにる4人はわかりますが、その、ヴェーデナヌリア様もですか?」
「えぇ、オババは機会あれば名前を使ってよいと言ってましたので」
「ご本人の了承と署名がないと……その、規則でして」
「むぅ」
どうやらオババさんの名前も書いてしまったらしく、受付のうさぎ獣人さんと少々もめてる。了承してるとはいえ勝手に名前を使うのはどうかなとは思う。さてどうしたもんか。
「おや、あんたがここにいるなんて、明日には雨でも降るんじないかい?」
聞き覚えのあるじゃがれ声。声の主に振り向けば、やはりオババさんが立っていた。黒っぽい胸当てと腕と足にプロテクターをつけたハンター仕様のオババさんだ。
「義弟にあんた達がエーテルデ川に向かったって聞いて行ったけど、どうやらすれ違いだったみたいだねぇ」
オババさんが歩いてくるとギルドの中は静かになってしまった。
「お久しぶりですオババさん」
「姪っ子ともども元気そうで何よりさ。なにやら旨そうな匂いをくっつけて、何を食ったんだい?」
オババさんはわざと大げさに匂いをかぐ仕草をする。
「おい、あいつ鎧通しと対等に話してるぞ」
「あんなに弱そうなのに」
どこからか声がした。悪いね、弱そうなやつで。実際に弱いんだけど。
「ダイゴさんが新しい料理を作ってくれたのですわ」
「おいしかったよ!」
「ほぅ、そりゃアタシも食いたかったねぇ」
オババさんにギロリと視線を向けられた。悪いことはしてないですよと両手を挙げた。
「今なら入団特権で新しい料理が食べられますわ。その食材集めが主依頼になりますし」
「ふぅん、4級あたりでもこなせる手ごろは依頼があればいいねぇ」
「4級だと厳しいかもしれませんが、隙をついてとって来るだけなので可能かもしれません」
「それをそこの狐っ娘にやらせようって腹かい?」
「私もやりますわよ?」
「あたしもー!」
「へぇ、じゃあたしも入れてもらおうかねぇ」
オババさんがにやりと笑った。悪役婆って感じで非常に怖い。外見だけね。
「いいんですか?」
「なんだい、アタシじゃ不足かい?」
「おいおい、あいつ死んだわ」
「まじかよ、自分から死にに行ったぞ」
外野が騒がしい。
「オババさんが属するメリットがない気がするんですけど」
「なんだい、アタシの怪我を治した礼をまだしてないじゃないのさ」
「いや、十分してもらってますけど? これ以上はもらいすぎですよ」
「ハン、アタシが苦しんだ百年はそんなに安くはないのさ」
オババさんがバチコンとウィンクしてきた。なんか顔に衝撃波を感じたけど気のせいか。
「おば様、ご自分の御歳をお考え下さいまし?」
「おっと、姪っ子の機嫌が悪くなっちまった。ハハハ、アタシは退散するとしよう。受付のお嬢ちゃん、その紙にアタシ名前も追加しといておくれ」
オババさんはガハハと悪役笑いで颯爽とギルドを出ていく。ギルドにいるハンターらは身じろぎもできてない。魔王か。
「あっと、ご本人から確認が取れましたので書類は受理いたしますね」
受付のうさぎ情人さんが引きつり笑顔で書類をさっと隠した。
「まじかよ」
「あの鎧どおしがあんなひ弱そうなやつに?」
ギルド内がざわついてきた。原因は主に俺っぽいけど。
であれば、退散である。
「用事も終わりましたので、戻りましょう」
うまい具合にりーりさんがリードしてくれたので、そのままギルドを後にする。うん、怖すぎるからもう来たくないデス。




