第百一話 見かけで判断、ダメ
明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
いつもよりたくさん回っておりまーす。
「わ、うれしいな!」
「ありがとうございます! 早速名前を決めなければ!」
肉を掲げながら喜ぶベッキーさんとカップを掲げて乾杯するリーリさん。普段では見ないテンションにドン引きな俺は酔いもさめた。
「あたしは庇護してもらえれば名前はなんでもいーじゃん」
「右、同」
「君らは入る前提……だよなぁ。君らのためでもあるからね」
「頑張るじゃん」
「禿、同」
酒が回ってるからかにっと笑うトルエと無表情で万歳するマヤがいる。こう見ると普通の女の子なんだよなぁ。ハンターをやってるとは思えない。
「ダイゴズがいいな!」
「あら、ダイゴとその妻たちでも」
「つ、つま!?」
「当然ですわ!」
酒が入ってるからか勝手に盛り上がるベッキーさんとリーリさん。ちょっと歯止めをしておかないと今後の俺がやばいかもしれない。
「ちょっとそれはどうかなって名前なのと妻ってナニ!? ふつうそこは仲間とかじゃないの?」
「ダイゴさんはそう仰いますが妻の座は譲れません!」
「リーリさん、論点がズレているのでまずは横に置きましょうそれは」
「拒否はなしですよ?」
「しないから、まずは落ち着こうね?」
リーリさんがグイグイ来る。頬がほんのり赤いので酔っぱらっていらっしゃる様子。俺が首にあるペンダントを指でつまんでフリフリすれば冷静になれたのか、「へぅ」と長い耳を赤くして椅子に座った。
よし、何とかしたぞ。
「もしかしてリーリとオジサンのはお揃いじゃん? あれ、ベッキーもじゃん? それってエルエッサのやつ?」
「二股、最低」
「そこの双子の狐っ娘さん、いきなりぶっこんで来ないで!」
「うわ、否定しないじゃん!」
「浮気」
「だからふたつ持ってるんじゃん」
「マネするなじゃん!」
「……トルエ、オジサンではなくダイゴさんだと」
「あ、こ、言葉のあやじゃん! だから顔面クローは許してじゃん」
「駄目ですわ」
「わっふぅ!」
カオスな状況を状況を打破したのは天井に届くまでに巨大化したぶちこだった。有り体に言えば、巨大化したぶちこに押しのけられた。
「わ、ふわふわだ!」
「やわらかいものに押しつぶされますわ」
「ちょ、気持ち良苦しいじゃん」
「快感、眠」
ブチコのおかげで鎮静化できたっぽい。モフモフは世界を救ったのだ。
仕切り直しなので全員に手当てをかけて酒を抜いた。酔いの勢い、ダメ。
「では、名前ですわ。ダイゴさんは何かいい名前をご存じです?」
「名前、ねぇ……」
俺に振られても。俺のネーミングセンスなんて腕白一番と変わらない気もする。
うーん、そもそも作る目的が救いというか保護というか、そんな感じだし。
救い、ねぇ。
「……お地蔵さまの手、かな」
助けるという意味なら、俺が思いつくのはこれくらいかな。日本でお地蔵様を知らない人はいないし。いたらモグリ判定でいいと思う。
正しくは地蔵菩薩。俺、幼稚園が寺系で、幼いながら手を合わせてた記憶が強くてさ。
「ダイゴさん、オジゾウサマって、なに?」
ベッキーさんが可愛く首を傾げた。そりゃ知らないよね。
「俺がいた国では多分一番有名で、生きとし生けるものを救済する神様」
「生きとし生けるものを救済、ですか」
リーリさんが珍しく目を開いて驚いてる。あまねく生き物を救うとか正気の沙汰じゃないしね。ここの神様たちの話を聞いてると、救う気はないし好きに生きてる?し。
お地蔵さまは、すごいんだよ。
「そんな神様がいるんだ。あと、子供の守り神でもあるね」
「あ、それがいい!」
「それで決まりでいーじゃん」
「糸冬、了」
と、異論もなくあっさりと決まった。決まったけど俺は何をすればいいんだろ?
これが欲しいなぁとか言ってればいいのかな。
「名前が決まったならギルドに登録をしなければいけませんね」
「早いほうがいいね!」
「おなかも膨れたし、行くじゃん」
「宿、無」
「……宿に泊まる金はないんだっけ。じゃあ、屋敷で寝起きしてもらおうかな。確かまだ部屋は余ってたはず」
「屋敷って、前にあたしが吹き飛ばされたあそこじゃん?」
「そうあそこ。下着姿は勘弁してほしいけど」
「酔ったら楽な恰好になるじゃん?」
「酒盛りはいいけど男の目を気にするスキルも覚えて?」
「拒否」
「屋敷にいる男は俺だけじゃないからね?」
レパパトトスさんがいるし、先生もィヤナース君も来るし。俺がそういうと狐娘ふたりは無言で半目になった。でも貞操の危機とか思ってくれてたほうが安心だ。
食事も終わったしギルドに行く用事もあるしでひとまず帰ろうと表に出ると、そこには小柄だけどマッシブな獣人がいた。背は俺と同じくらいで低いけど、さらっさらな金髪にクマの丸い耳がチャーミングだ。でも顔がイケメンだ。なんとなくできる男オーラも見える。笑えば歯が光るタイプとみた。
イケメンは100難隠すから低身長でもかっこよく見える。身体は漫画みたいな逆三角形でウエストは俺よりも細そうだ。豪華そうな鎧を着こんでて、金持ちなのか有名人なのか。
ただ、彼の脇には俺たちに絡んできた腕白な男たちが神妙な顔をして並んでる。
イケメンの腕にも白い布が巻かれてて、この人も腕白小僧なのか。
「腕白1番のリーダーである1級ハンターのマッキンドール氏とお見受けいたしますが」
リーリさんが先手を打って尋ねると「いかにも」とイケボイスで返答があった。ぐぅ、神は何物も与えてしまったらしい。俺にはおすそわけもなかったのに。
1級ハンターっていうからオババさんみたく厳つくて背が高いのかと思っていたら案外小さいんだなって。おっと偏見だったか。イケメン以外は親近感がわく。
「腕白一番のリーダーが3級の雑魚である私たちに何の御用でしょうか?」
腹の底が凍るようなリーリさんの無機質ボイスが。優しく威嚇している感じだ。
彼は少し苦笑して、すぐに姿勢を正した。
「腕白一番のマッキンド-ルだ。うちのメンバーが大変失礼なことを言ってしまったようだ。謝罪する」
マッキーンドール氏が深々と頭を下げた。連れの男たちも「クソご迷惑をおかけしました!」と絶叫に近い謝罪と腰を直角にして頭を下げてくる。
リーリさんはベッキーさんたちに視線を投げてから俺を見てきた。
俺に対応しろと?
「えっと、ついさっきこの子たちと「地蔵の手」というクランを作った佐藤大吾です初めまして」
「サトウダイゴ氏か。僕も小さいからよく揶揄されていてね、される側のことがよくわかるんだ。いつも見かけや階級で判断するなと言っているのだけど浸透してなくってね。ほんとうに申し訳ない」
「あぁわかります、俺も小さいからよく言われるんですけど。見かけで舐められちゃうとイラっとはきますよね。実際に弱いから反論できないんですけどアハハハ」
小さい男同士な俺と彼はお互い苦笑いだ。イケてない俺はさらに扱いが雑だったけどね。
ただ彼も背か低いことで苦労したんだなってのは感じた。パワーイズパワーな界隈だとフィジカルが権力だもんね。
「ふむ、弱いとは興味深いね。そちらもお嬢さん方もなかなかの強者揃いと見受けるけど特に君とその小さな魔獣は見えている姿で判断してはいけないと、僕の1級ハンターとしての本能が叫んでいる。僕がちょっとでも怪しい行動をしたら喰いちぎらんばかりな殺気を放つそこのハーフドワーフとエルフの彼女も恐るべき存在だとは感じているけどね」
イケメンはぱちんとウィンクして見せた。なんだかんだんで余裕だなこのイケメンめ。
くそっ、男の俺が見惚れちまった。
「俺もぶちこも普通なんですけどね」
「ふふ、自分が普通じゃないと気が付いてないものは得てしてそう言うんだ。僕の目にはそうは映っていないよ。君がこの子たちを率いているんだろう? まぁ、それはそれとして。僕らとしては君たちと敵対するつもりはない。今日のところは見逃してくれると助かる」
彼はすっと右手を差し出してきた。握手ってことだよね。争うつもりがないなら事態を悪化させるつもりはない。
差し出された手をぎゅっと握る。
「うちは血の気が多くて個性的なやつが多くて、いろいろなところで爪弾きにされてしまったハンターが揃っていてね。でも、問題はあっても教育で何とかなると思って彼らを引き入れてるんだ。迷惑をかけてすまない。お詫びといっては何だけど、何かあったらギルド経由で僕まで知らせて欲しい。力になる」
ニコっと歯を光らせて、マッキンドール氏がさわやかに笑った。やっぱり歯が光るじゃないか!
「ではまたっ!」
さわやかイケメンが右手を挙げると腕白一番たちはぞろぞろと階段を上ってこの空間から出て行った。他のハンターはまだ少し残ってるけど、サラマンダーと戦っている人らはいない感じ。サラマンダーは何もしなければ襲ってこないようで、でひたすら炎を食べているみたいだ。
「あの人、強そうだったね!」
「マッキーンドール……わたしだと勝てるかわかりませんね」
俺の両サイドにベッキーさんとリーリさんが来た。ふたりともいつもの定位置だ。
「背が低くてもって、背丈も種族によるし、彼も獣人にしては背が低いからいろいろ言われてきてて、それを何とかしたいがために問題児を集めてるのかも」
「…共感できる部分もありますわ」
「リーリさんも?」
「わたしも昔はいろいろありました。でも今はもうそんなことはどうでも良くなりましたけど」
「あたしもね!」
屈託なく笑うふたりに、俺の手が取られた。これもいつものことだ。
「さて、ギルドに行って、結成のお祝いをしましょう!」
「やった! 飲むよー!」
「……ふたりとも泥酔して二日酔いの常習犯なんだから程々にお願いします」
イヤほんとに。俺じゃ非力で運べないのよ。
なんてことを考えてたら目の前の空気が歪み始めた。




