第百話 歯車の仕組み
今年最後はピッタリ100!
サラマンダーの肉と格闘すること20分。10キロのから揚げ山が出来上がった。見た感じは鶏のから揚げと同じで、スパイシーな香りとまだ熱々で油がピチピチしててよだれが止まらないんだけど。絶対にうまいぞこれ!
でも、しばらくはから揚げは見なくていいかなって。
「もう、もう食べてもいい?」
待ちきれないベッキーさんが席について両手にフォークを持っている臨戦態勢に入ってる。リーリさんは金属製のタンクを取り出して酒飲みスタンバイOKで、トルエとマヤは物珍しそうな顔でカレーを見つめてる。狐のふわふわ尻尾がひょこひょこ揺れててなんともかわいい感じ。
テーブルに中央には唐揚げの山と丸パンの山があり、各人用にスープとしてカレーの盛った皿がある。ご飯は好き嫌いがあるだろうから俺だけとしてる。俺のはカレーライスだけども。
カレーの鍋は俺の隣だ。テーブルの上に置きがないし、そもそもこのテーブルは4人用だ。
「おっとまずは水神様にだ」
神棚にカレーライス小とサラマンダーの唐揚げをお供えすればぴかっと光ってどこかに消える。おいしいと感じてもらえれば上々だ。
「……消えたじゃん?」
「謎、現象」
狐娘ふたりが何か言いたそうに俺を見てきたけど黙してスルー。ベッキーさんが我慢しまくりで歯をギシギシ言わせてるからね。ぶちこ用にカレーパンを作って、 肉も取り分けて、と姿勢を正してみなに向く。
「えっと知らない料理だから説明すると。茶色いスープはカレーといって俺の国では国民食と言われるくらいにはポピュラーな料理でバリエーションもいろいろあるんだけど今回はベーシックなカレーにした。パンと食べてもよしご飯にかけてもよし。食べ方は自由。サラマンダーの肉はから揚げにしたもので、多く作っちゃったから頑張って食べて!」
「神様の恵みに感謝!」
「いただきます!」
「わっふぅ!」
「神、感謝」
食事に捧げる言葉は違えどここにいるのは腹ペコばかり。感謝の心は一緒、だと思いたい。
さて俺も食うぞ。まずは肉からだ。正直なとこ味見もしてないのが心配で。揚げてる時のに匂いは香辛料が薫ってきてすごいスパイシーでスパイシーでスパイシーだったから絶対においしいとは思うんだ。
迷ってもしょうがない。賽は投げられてしまったのだ。思い切ってかじりつく。
「んっ、辛ッ! でも最初だけで後からは噛むほどにちょい辛肉汁がドバドバでむぐむぐむぐ」
衣に辛さがなくて肉にあるからか唇がピリピリすることもない。肉質は鳥の胸肉で、カリカリの衣と適度な油身が混ざり合ってマジうめぇ。箸が止まんない。あとビールゥ!
「お肉おいしい!! いくらでも食べられちゃう!」
ベッキーさんの両手フォークが火を噴いてて常にフォークに肉が刺さってる。腕の動きが早すぎて輪郭がぶれてるまでる。花まる笑顔が咲き誇ってて非常に良いです。
「サラマンダーの肉にはブランデーではなく炭酸で割ったウィスキーですわ! ダイゴさんもぜひ!」
「リーリ、それあたしと姉さんにも欲しいじゃん!」
「トルエもマヤもどうぞ!」
リーリさんはお酒に余念がないし俺にまで作ってくれるししかもハイボールがまたサラマンダーのチョイ辛から揚げによく合う。脂っこいつまみにはやっぱ炭酸の刺激よ!
肉も酒も止まらない。
やべえ、飲みすぎるなこれ。
「わふわふわっふわふぅ!」
ぶちこの皿も空になっちゃって催促が来た。ほいほいほいと肉とカレーパンをお皿に盛って行けば瞬く間になくなる。
「このカレーとかいうスープはほんのり辛くて、でもこってり濃くておいしいじゃん!」
「旨、死」
「姉さん、うますぎて死ぬことはないじゃん!」
「昇天」
狐娘ふたりはカレーに取りつかれたようで、食べつくしてはパンで皿を綺麗にしては悶えて、そしてお代わりを繰り返してる。
「わ、カレーもおいしい。パンと食べるともっとおいしい!」
「お米と合わせてもいけますわ!」
肉の熱が落ち着いた腹ペコ娘はカレーに目を付けたようだ。ふふふ、カレー沼に落ちるがよい。上がってこれぬ底なし沼ぞにゅははは!
あれ、酒が回ってきたかもしれない。リーリさん、もしかしたら濃いめの作ってる?
ちょっと頭がポヤポヤしてきたけどこれくらいなら問題なし。
「ダイゴさん、あたしもお米で食べたい!」
「おっけーおっけー、がっつり山盛りにしちゃうよー。火口にカレーが入るようにへこませちゃうよー サラマンダーが寄ってきちゃうねアハハハ」
「わ、たくさん食べられ嬉しいけど、なんだかダイゴさんが怪しいよ!?」
「にょほほほ、なんか頭がグワンとするけど、俺は酔ってないぞー。カレーはおいしいぞー」
「ダイゴさんが酔っていらっしゃる? これはチャンスですわ」
「酔オジ、草」
大丈夫、そこまでは酔ってないはず。
はぁ、から揚げおいしい。
「サラマンダーの肉はおいしいし抜け殻はカレー粉だしで、たくさん確保しておきたいにゃぁ」
肉は保存を考えないといけないけどカレー粉はそれなりにもつでしょ。チャーハンに入れてヨシ、肉にまぶしてもヨシ、使う料理はたくさんあるし。なんなら売れるし売れすぎちゃうよ。
にしても定期的に欲しいものをゲットできるそんなうまい話はにゃいよなぁ。
「では、ダイゴさんもハンターのクランを作ってそこに依頼をかければ良いのですわ!」
「わ、そうしたらあたしも入る!」
「えええぇ俺が!? だって俺はハンターじゃないしすごくひ弱だしザーコザーコって呼ばれる側にょ?」
「クランを率いるのはハンターでなくても可能ですわ。商会がハンターを募って専属にするのはよくあることです。それにダイゴさんは雑魚ではありませんしもし雑魚と呼ぶ輩がいればわたしが処すので問題ありませんわ!」
「……ちょっとリーリさん、どす黒いものが隠しきれてないよ……でも、社長が技術者でなくとも製造業は事業として継続してるんだから、可能なのか?」
うん? どうなんだろ?
経営者と技術者は必ずしもイコールではないんだけども。小さい会社はイコールだったりもするけど、まぁケースバイケースか。
「ダイゴさんが水神様に呼ばれて不在でもハンターたちが集めてくださいますわ」
リーリさんがにこっりとほほ笑む。あ、この笑みは何か隠してるなー。
「それに、ダイゴさんがハンターに依頼をすることで、助かるハンターもいるのです。例えばトルエやマヤのように、女性故にどこにも所属できないハンターにとっては」
リーリさんの言葉に思わず狐娘ふたりを見た。満腹になってご機嫌だった顔に影が差してるように感じる。
女性ということで男に囲まれる危険性が高いからハンターのクランには属せないってこと?
ハンター同士の喧嘩はご法度で、我慢するしかないとすると……
「だから稼ぐのが大変であぁぁぁぁコルキュルがあーなっちゃたから……」
俺が叫んだからではないだろうけど、トルエが俯いてしまった。
「……正直、今日の宿の金もなかったじゃん……」
「金、不足」
「武器もだけどふたりの防具も痛んでたもんなぁ……」
だからこそ直したんだけど。
どこかが満足すると、その分どこかがマイナスになるんだ。あぁぁぁぁぁ俺がそうだったのになんでぇぇぇぇ。
会社では、誰かが上手くやってたのは俺がタダ働きみたいにしてたからってのもあるんだ。誰かが得をすると誰かが損をする。俺が得したことでこの子たちが割を食ったのかもしれない。
「……俺のせいかぁ……」
背もたれに寄り掛かる。椅子がギシギシ、俺の心もギシギシだ。
そうだよなー、俺が引き寄せた運は誰かの運だったんだよな。なんでそこに思い至らなかったおれぇぇ!
んがぁぁぁぁー。
「よし、引き受けた。詳しいことはわかんないけど、引き受けた」
乗りかかった船だし。
年内はこれが最後です。
良いお年を!




