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第九十九話 肉を求めるアマゾネスたち

「じゃ、いまからサラマンダーを狩ってくるね!」

「ではわたしも、食事前に軽く運動をしてきますわ」


 ガタンと立ち上がったベッキーさんが叫んだらリーリさんも席を立った。


「ほら、トルエもマヤも行きますわよ!」

「は? あたしらもじゃん?」

「当然ですわ。サラマンダーの肉は高く売れますわよ?」

「でも、あいつら(腕白バカ)がくるじゃん」

「来たらドーンとブッと飛ばしちゃうもーん!」

「わっふぅ!!」

「え、でも、あたしの杖も姉さんの短刀も壊れてる……じゃん?」


 トルエが手にした短い杖は、先端に青い石が付いてるだけのシンプルなもの。でも青い石はキラッキラに輝いて何ならオーラも見える。マヤの短刀も刃が「早く斬らせろ」と叫ぶようにギラついてる。


「なななんで直ってるじゃん!?」

「……キレイ」


 わかりやすく動揺してるトルエはともかくマヤは短刀をうっとり眺めてる。短刀よりもヤバいのはこちらだったか。


「ダイゴさんが直してくださってのですわ」

「すごーくつよーくなってるから大丈夫! さぁいくよ!」

「ちょ、ベッキー! 引き摺らなくても歩くじゃん!」

「濡レ、ヤバ」

「姉さん、濡れそうヤバイなんて言ってる場合じゃないじゃん!」

「マヤも、見とれてないで行きますわよ!」

「わっふぅ!」


 バーバリアン、いやアマゾネスか。肉を求める女子たちがいきやうやうと部屋を出て行った。

 さて俺はカレーを作らねば。ご飯はもちろんだけどパンも用意するかな。


「とその前に、サラマンダーの抜け殻が本当にカレー粉として使えるかを確かめないと。もし違ったら腹ペコ娘にどつかれてしまう」


 ベッキーさんが持ってきた抜け殻はデカすぎて部屋には入らないからしっぽの先だけ残してもらって、あとはりーりさんがどこかに隠した。もう「どこに?」とか聞かない。理解不能な現象も受け入れるしかないんだ。

 抜け殻の尻尾は濃い茶色で油でテカって見える。草食恐竜みたいに背びれがあってギザギザだ。その先っぽを少しかじってみる。

 かじった感触は、硬めのアイス最中だ。


「……んぐぁ、濃すぎるカレーの味だ」


 油っぽくてカレー粉の量を5倍マシで入れちゃった超特濃カレーみたいな味だった。


「でもおいしい。久しぶりにカレーを食べた」


 よし、やる気が倍増だ。

 カレーには白米だけどぶちこは食べにくいだろうからカレーパンも作ろう。ただの丸パンも大量につくっておけば、ベッキーさんがおなか一杯食べても大丈夫でしょ。たぶん。

 小麦粉米野菜は俺の魔法鞄に入ってる。作るのは定番の野菜カレーだ。

 ということで、俺の胴回りより太い寸胴鍋が出てきた。直径も深さも60センチメートルという大きさだ。

 テーブルの上だと重量でつぶれかねないので床に直置きにする。これでも加熱調理可能なでたらめスキルで申し訳ない。


「じゃがいもたまねぎにんじんをざっくり刻んで煮込みましょー」


 ひたすら野菜の皮をむいては刻んで鍋に放り込んでいく。鍋の半分くらいまでは野菜で埋めないと。

 肉はアマゾネス(肉を求める女子)たちが狩りをしている最中だし、それにカレーに辛い肉はどうかと思うから揚げ物にする予定。スパイシーチキンみたいになればいーなーって。

 

「あ、いた! ぶちこちゃん先回りして!」

「わっふぅ!」

「そっちは任せました!」

「リーリ! 頭が吹き飛んじゃってるじゃん!」

「加減が利かないのですわ!」

「爆裂、草」

「姉さんも近づきすぎじゃん! あたしの魔法の巻き添えになるじゃん!」

「えーい!」

「ベッキー! サラマンダーが遠くにぶっ飛んじゃったじゃん!」

「食べられればいーんだもん!」

「いくよ! 魔法をぶちかますからどいてじゃん!」

「トルエ、やりすぎて水浸しですわ!」


 外からは狩りだろう声と何かが爆発したような轟音と部屋がグラグラ揺れる振動が伝わってくる。なんだかスプラッターなお肉が届きそうで怖い。

 野菜をひたすら煮込んで、唐揚げの用意も同時進行だ。米を炊いてパンも焼かないと。結構忙しい。

 米は1升炊いて、丸パンは30個作った。米が余ったらおにぎりにすればいいしパンが余れば教会に持って行くし。これで足りなきゃしょうがない。

 鍋の中で煮込んでるじゃがいもが崩れ始めてる。にんじんに箸を刺したらすっと入った。煮込みは十分だね。


「ぼちぼちカレー粉を入れるか。あれをカレー粉と言って良いのかは知らないけど」


 サラマンダーの抜け殻を手に取る。油でべっとりになるけどそれは洗えばいい。寸胴鍋の上に抜け殻を持っていき、調理スキルで粉末にしていく。

 鍋に落ちるとすっと溶けていくのが市販のカレー粉とは違う。とりあえず弱火で加熱しながらとろみが出るまで入れていこう。


「このでかい寸胴鍋だと何人分になるんだか」


 そんなことを考えながら大きな金属製しゃもじでかき回していく。腰を落として両手で回さないとうまくかき混ぜられない。

 結構な量のカレー粉を入れたらとろみが出てきた。


「ぼちぼち味見」


 カレーを小皿にぺろっとひとなめ。


「む、カレーだ。しかもベーシックで癖のないカレーだ。これをベースにカスタマイズができそうで、ちょっとサラマンダーの抜け殻が優秀すぎませんかね」


 ちょっと甘口かなって感じがとても食べやすく、マジうまい。肉が辛いってことだからこれは合いそうだ。


「これは抜け殻を大量に確保すべきだな」


 俺の勘がそう告げている、というか俺が食いたい。

 隠し味はどうしようかな。あれを入れちゃおうかな。薄まるから大丈夫でしょ!

 よし、カレーはできた。あとは肉とアマゾネスたちの到着を待つばかりとなったころ、部屋の扉があいた。


「たっだいまー! たくさんとれたよ!」

「わっふぅ!」

「ふぅ、いい運動でした」

「さっきよりサラマンダーが弱かったじゃん。数は正義なんじゃん!」

「快感、絶頂」


 アマゾネス部隊が帰還してきた。全員が目を輝かせていい笑顔なんだけど顔に返り血がついてたりして俺の膝がちょっと笑い始めてる。俺、ハンターじゃないし。

 怖いからさらっと清掃スキルで綺麗にしておこう。


「無事に帰ってきてよかった。でもお肉は?」


 全員が手ぶらだ。ぶちこはもぐもぐしてるからつまみ食いしたな。


「たくさん狩れましたが全部出すと多すぎます」

「えっとね、これ!」


 とベッキーさんが差し出してきたのは1メートルほどのぶっとい尻尾だった。何かで引きちぎったような切り口と止まってない赤い血。鱗もばっちりそのままですごく生々しい。

 ちょっと視界が白くなったけど何とか耐えた。


「イ、イキガヨサソウダネ」

「取りたて新鮮だよ!」

「ア、ハイ」


 受けとった感じずっしりで10キロくらいはありそう。もう調理スキルさんにぶん投げだ。


「いい感じのサイズにお願い!」


 適当に丸投げしたけど調理スキルさんはふた口サイズの肉片をたくさん作ってくれた。血抜きもばっちりで、もちろんボウルにインだ。


「辛い肉なら味付けなしの小麦粉で衣をつけるだけでいいかも」


 ボウルの中に小麦粉をどさっと入れて肉になじませ、大き目の鍋を出して油を注ぎ温める。


「わ、なんだかいい匂いがする!」

「すごい量のパンじゃん!」

「コメ?」

「おいしそうな匂いでお腹が耐えきれません」


 じりじりと4人がテーブルに寄って来る。


「肉を揚げたら調理が終わるから、ベッキーさんステイ! つまみ食いは飯抜きです!」


 手を伸ばしかけたベッキーさんを止めると残りの3人の動きも止まった。


「そんなー」

「こんだけいい匂いさせといてそれはないじゃん!」

「……今のうちにお酒の用意をするのですわ。マヤ、手伝ってください!」

「リョ」


 4人が2階に消えていった。5人が動くには狭いからね。ぶちこはおとなしく俺の足元でおとなしく座ってる。偉いなぶちこは。

 おっと今のうちに肉を揚げないと。いい感じに温めが終わってる油に肉を投入していく。ジュワワワっと油がはぜる音が俺のおなかも刺激してくる。


「ひたすら揚げないと肉がなくならないんですけどー」


 揚げては皿に乗せ揚げては皿に乗せの作業を繰り返した。10キロの肉はすごい量だと思い知った。頑張って揚げたよ。主に調理スキルさんだけど。

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