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第九十五話 ケーキは誰もが好き、って君もか!

 チーンという音でスポンジが焼きあがった。一辺が50センチのかなり巨大なスポンジケーキだ。いい感じできつね色になって、指で押すとふにゅふわ感が伝わってくる。このまま食べても美味しそうだ。


「端は切らないと垂直にならないからっと」


 調理スキルさんで余分な四方を切り取る。パンの耳のような切れ端が12本もでた。


「どれどれ、味見だ」


 一本を手に取ってパクリ。もぐもぐすると優しい甘さが広がって、思わずほぅとため息が出る。


「あたしもたべたーい!」


 ベッキーさんがカパッと口を開けるのでスポンジケーキの切れ端を入れればパクっと食いついた。もにゅもにゅしてる顔が幸せそうに蕩けてる。


「おっさんずるいー。ィヤーナス、オレにも!」

「……なんで俺なんだよ」

「いーじゃんか、オレにもくれよー」


 ギィちゃんに催促されたィヤーナスくんがぶーたれつつも、いい感じにできてきた生クリームを匙ですくってギィちゃんの口に差し込んだ。あむっと咥えたギィちゃんの目が大きく開かれる。


「アマッ! うますぎる! もっとくれ!」

「ダメに決まってるだろ」

「けちーって、いたぁー」


 更なるつまみ食いを要求するギィちゃんに、ィヤーナス君はチョップで返した。なんか、ふたりは馴染みすぎじゃない? ギィちゃんを連れてきてそんなに経ってないでしょ。古来伝搬の幼馴染感が凄いんだけど。

 まあいいや、仲良きことは美しきかな。


「生クリームもできたっぽいからスポンジケーキを積み上げていこうかね。スポンジケーキの上にいちごを載せていくから、イャーナス君は生クリームでいちごを隠すように塗って」

「わかった。間違えてたら教えて」


 そこからは流れ作業だ。俺がいちごを載せ終わればィヤーナス君が匙で生クリームを塗っていく。それを2回繰り返して3段目のスポンジケーキを載せる。

 残念ながら絞りようの器具はないんだ。口金もビニールがないからね。

 というわけで、スポンジケーキの表面を生クリームで分厚く塗りつぶし、いちご丸ごとを載せていく。

 10センチ角で切る予定だから、その間隔でいちご計25個だ。50センチ角のケーキは大迫力だ。ウエディングケーキ並みな大きさだこれ。


「すっごく美味しそうだし、綺麗!」


 ベッキーさんは今にも手を伸ばしてしまいそうだったからその手を俺が捕獲しておく。いつもと逆パターンだ。

 これで終わりじゃない。最後にチョコでデコレートするんだけど、また調理スキルさんの出番だ。

 板チョコを調理スキルさんに水神様の形を抜き取ってもらう。輪郭だけだし板チョコの凸凹があるわで、まぁご愛嬌なんだけも。

 水神様のチョコをいちごの隣に立てていく。水神様がイチゴを抱えているようにも見えるし、なにより白地に赤と黒のコントラストが素晴らしい。我大絶賛である。


「よし、いちごのケーキデカいバージョン完成! あとはィヤーナス君の切るスキルで等分にしてほしいんだ」


 着る場所と向きを説明して切ってもらう。ィヤーナスくんが「切る」と呟くと、4本の切れ目が2カ所に現れてケーキの上を交差していく。マーチングバンドみたいな動きで、かっこいいな。


「ケーキが小さくなっちゃった!」


 ベッキーさんは全部食べるつもりだったのか。さすがに食べすぎでしょ。

 ケーキはできたから、まずは水神様にお供え用を確保。喜んでくれると良いんだけど。それとリーリさんの分を確保しておかなければ。ふたつあればいいかな。


「早く食べたい!」


 ベッキーさんの目がハンターになりつつあってステイが聞かなくなりそうな故、みんなを呼んで食べてしまおう。

 さて表に行くかと思ってたらすでにギィちゃんが走って呼びに行っていた。すぐに皆が集まってくる。

 教会内だと座る椅子が足りないから、いっそ外で食べるか。俺氏、テーブルマナーなんて知らない民族なので。

 各自がケーキが載った皿とフォークをもって教会の周囲の草むらにそのまま座る。風は穏やかで、草も生えてるから砂が舞うこともない。毎日が絶好のピクニック日和だ。

 先生と子供たち6人にサンライハゥンさんら大人3人とベッキーさんと俺、とぶちこ。


「白くてかわいい!」

「早く食べたい!」

「商会にいた頃に何度か見たことはありましたけど、それよりも綺麗です」

「ィヤーナスも手伝ったのですね。おいしそうです」


 感想からするに受けもよろしいようだ。作った甲斐がある。

 食べる合図をまってじーっとケーキを見つめる、獲物を前に待ちきれない猛獣が増えたから食べてしまおう。ちらっと先生に視線を送るとにこりと微笑まれた。


「ふふ、ではいただきましょう。水神様に感謝を」

「感謝を!」


 フォークで刺してぱくり。


「うま!」

「おいしい!」

「うわぁ、ふわふわでおいしいです!」

「甘い! が……ちょいと前に飲んだ強い酒精の、なんつったか、あれが欲しくなるな」


 酒飲みの欲望も聞こえるけど、そろって驚きの声が上がる。俺もフォークでケーキの端を崩してぱくり。

 生クリームの甘さとイチゴの甘酸っぱさが交互に襲ってきて、それをスポンジケーキがうまい具合にまとめていく。久しぶりのケーキに口の中がおいしいで満載だ。


「白いふわふわが甘くて、いちごがすこし酸っぱくて、チョコがほろ苦くって、おいしいが3つもあって幸せすぎる! でもすぐになくなっちゃった」


 大騒ぎしたのにすぐにしょげちゃうベッキーさんは喜怒哀楽がわかりやすい。そこがいいところなんだけど。

 でもね、10センチ角のケーキは、決して小さくないよ?


「わー、おなかいっぱい!」

「おいしいからとまらなくてたべちゃった!」

「こんなに甘くておいしいものをこれだけ食べたのは、記憶にないな」

「メイドをやっていた頃に食べたどのお菓子よりもおいしかったです!」


 子供はもちろん大人も満足な大きさで、俺も「げふっ」という感じだ。ケーキ屋で売ってるイチゴショートの5倍はあるからね。

 皆が余韻に浸る中、俺は残りのケーキを隠すためと池にお供えに行くため姿を消す。この集団の中だと俺はよそ者だから、いなくっても問題はないんだ。寂しいけどね。

 皆でケーキは12個食べて、水神様とリーリさんの確保を除けば11個ある。争奪戦になりそうだけど俺が遠慮すれば丸く収まる。とりあえず俺の魔法鞄で保管しておこう。隠しておくとベッキーさん達が探し出すに違いない。

 さてケーキをひとつ持って屋敷を出て家の畔まで歩く。赤い鳥居の下にはやっぱり小舟が浮かんでる。お待たせしてすみませんと心の中で謝っておく。

 池の畔でしゃがんで船に乗せるぞってところでは背後のブーンていう翅の音に気がついた。この音はもしや、と思って振り向いたら、赤子くらいの大きさの女王蜂さんがさわやか(?)に前腕を上げていた。


「えっと、何か御用です?」


 と尋ねれば前腕でケーキを指してくる。食べたいのかなってか蜂ってケーキは食べないでしょ。とは限らないんだろうな、ここだと。ぶちこがナイフをバリバリ食うぐらいだし、女王蜂さんだってケーキくらいは食べそうだ。


「でもこれは水神様のなので」


 と断ったらわかりやすく墜落した。女王蜂さんは地面の上でピクピク痙攣してる。芸達者な女王蜂さんだ。


「俺がお人好しだから怪我してる振りすればもらえるとか思ってるんでしょう」


 むっくり起き上がった女王蜂さんは頭をぶんぶんと縦に振った。正直者め。

 まぁ、ケーキはまた作ればいいし、今のケーキをふたつに分けても十分なくらいの大きさなんだよな。


「わかった、これなら食べていいよ」


 と魔法鞄からもうケーキを取り出す。ブブブンと女王蜂さんが浮かび上がって俺からケーキを受け取ると猛スピードで池の反対側の大樹に向かって飛んでしまった。


「ゲットしたら俺は用済みですか、ショボーン」


 3秒きっかり項垂れて、顔を上げて即立ち直る。これくらいできなきゃブラック設計屋はやってられない。

 改めて小舟にケーキを載せてちょいと押してやれば池の中央に進んで小舟は消えた。ミッションコンプリート。おいしく食べてもらえると嬉しいです。

 ふぅと立ち上がって腰をトントンしてたら女王蜂さんが猛スピードで戻ってきた。金色に輝く何かを抱えてるのが見える。

 俺の顔の前にホバリングしてそれを押しつけてきた。

 金色というか蜜色なそれは、女王蜂さんよりは小さくハンドボールくらいな大きさで、グミのようにくにゃっと柔らかそうだ。女王蜂さんの前腕に持たれてるのにくったりしてるもの。


「えっと、ケーキのお礼ということで、いいのかな?」


 俺が聞くとぶんぶんと頭をヘドバンで返答してくる。ユグドラさん抜きでもなんとか意思疎通ができそうだけど、これって俺が一方的に推測して確認してるだけだよな。会話というかは疑問だ。

 蜂蜜だろうけど、ありがたくいただこう。何かの効能があるかもしれないし。


「ありがとうね」


 と言えば女王蜂さんは片前腕を上げてさっそうと池の反対に飛んで行った。

 俺の手にある蜂蜜色の物体。あとでこっそりイケオジヤクザ(ラゲツットケーニヒ)に見てもらおう。

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