第九十四話 南国式鎮守の森
本日も晴天なり、本日も晴天なり。
乾燥により曇ることも許されないここでは毎日が晴天だ。
今日はコルキュルに先生を訪ねに来てる。植えっぱなしで世話を教会の子供たちに任せっぱなしな野菜果物がどうなっているのか、心配と期待の半々ではあったんだけど。
ちなみにリーリさんは商会に用事があるとかで出かけている。
「植えた範囲外に木が増えてるような」
教会の周囲に果物の種をまいて木になったところまでは覚えてる。現状は、教会の周囲の木はすっかり成長してて、その子供たちだろう細い木が周囲に陣取っていた。神社の鎮守の森のように教会は木で覆われている。
しかも、植えた記憶のない果物の木まである。バナナなんて植えてないぞ、絶対に。
南国な鎮守の森とかどうなのよと思わずにはいられない。水神様が良ければなんでもいいけどさ。
「強い風が吹いた後に、見たことのない芽が出ていたりしましてな」
「先生それ、何かしらの意思が働いてませんか?」
「オジサン、アレたべられる?」
「オジサン、アレおいしいの?」
先生と話をしてるけど、女児ふたりは見たことのない果物が食べられるかどうかにご執心みたいで、しつこく聞いてくる。
「あー、たぶんね、全部食べられるし、たぶん全部美味しいよ」
「「やったぁー!」」
「のぼるぞ……のぼるんだ! たかいところなんて、こわくなんかないぞ! ない、ぞ」
「ギィちゃん、高いところは苦手なんだからやめなさーい」
同じく女児なギィちゃんは木に登ろうとしてるけど、ぶちこにやられたアレがトラウマになってる様子。ロッカポポロさんに注意されてるけど、そのあたりの教育をお願いしないといけないな。
「おぅ、頼まれてた物ができたぞ」
「できたぞ!」
テバサル君を連れたレパパトトスさんが歩いてきた。手にはコマの様な魔道具とそれに取り付けるハンドミキサーアタッチメントがある。どうやらテバサル君も手伝ったようで、ちょっと自慢げに胸をそらせてる。頑張ったじゃんと頭をなでて褒めておく。
渡されたそれを見ると、コマの円盤をがっちりつかむ形な腕が6つあって高速回転にも耐えられるようにしてくれた様子。実演もしてくれたけど、十分な感じだ。シュイーンって高音がちょっと物々しくもあるけど
「ありがとうございます。いい感じです!」
ぐっとサムアップを見せると、ふたりは揃って首を傾げた。これは通じないのか。
説明しようかどうしようかと迷っていたら教会の扉がバーンと開いてベッキーさんが投入してきた。
「あ、ダイゴさんここにいた!」
トテテテと走ってくるベッキーさんは大きな金属のボウルを抱えている。転ばなければいいなと心配したけど無事に俺のところまで来れた。
「いちごがね、たくさんとれたの!」
ニパっと笑顔で見せてきたボウルには、いちごがぎっしり入っている。スーパーで見かけるパックの何倍だろうって数だ。しかも赤みが強くて大きくて艶もすごくて、種を取った元のいちごよりも美味しそうに見える。
「凄く甘いの! これで美味しいお菓子、作れる?」
つまみ食い済みなベッキーさんがにじり寄ってくる。にかっと笑いながら圧をかけてくるのはホラー映画を思い出しちゃう。
「いちごにハンドミキサーがあるなら作るのはケーキ一択。人数も多いからでかいやつを作るかな」
お供えとお代わりを考えたら20個くらいほしいかも。あ、リーリさんのも取っておかないと。
「ケ、ケーキ!」
「甘い生クリームをたっぷり使って」
「甘い、ナマクリーム?」
「いちごもたっぷり使おう」
「いちごもたっぷり!」
「贅沢にチョコのトッピングもしちゃおう」
「チョコって、あの甘い板のお菓子!」
ベッキーさんがガガガーンって顔をして固まった。脳の容量オーバーかもしれない。ベッキーさんで遊びすぎた。
「ともかく作ります。今から作ればおやつに間に合いそうだし」
まだ昼を過ぎたばかり。色々準備もあるけど間に合うでしょ。
というわけで、俺が調理をするときは必ず来るィヤーナス君と、ィヤーナス君が調理をすると必ずそれを眺めてるギィちゃんが来た。狼と犬だけど兄妹に見えなくもない。
彼にはオーリヒェィちゃんという妹がいるけど、ここのところはサンライハゥンさんに特訓を受けてるらしく、彼女にべったりだそうな。そういえばトランダルちゃんはロッカポポロさんと一緒に家事を覚えてるんだとか。
同性の子供が誰かにくっついててギィちゃんがぼっちになってる可能性もあるのか。でもこのままィヤーナス君と一緒になるのが良いのか?
難しいな。
「ケーキを作るって聞いた。手伝えることはある?」
「ィヤーナス君には生クリームのホイップを作ってもらおうかと。そのための魔道具もあるから」
「ナマクリーム? ホイップ?」
「うーん、甘くて柔らかいクリーム。ケーキに塗ったり盛り付けたりする、ケーキの必需品」
「必需品……わかった!」
ィヤーナス君が元気よく返事をしたので食材を一緒に用意する。砂糖小麦は買い置きがあるのでそれを使って、牛乳は存在しないので羊乳を使って、卵バターは用意がないからコンビニゾーンで調達。
「まずは卵の黄身と白みを分けてと。ィヤーナス君、この白身に砂糖を入れるからその魔道具でふっくらするまでかき混ぜて」
大きめのボウルに卵白を15個入れ、砂糖を調理スキルさんにお任せ分量を加えてィヤーナス君に渡す。ボウルは白身でたっぷんたっぷんだ。
「す、すごい量……」
「20人分くらい作るんだけど、食べきっちゃうと思うよ。美味しいから」
「ベッキーねーちゃんもいるしな」
「ひどーい、あたしそんなに食べないよ!」
ベッキーさんは口をとがらせてるけど、ィヤーナス君が強く頷いてる。そうだよなー。とは思うけど俺まで追従しちゃうとベッキーさんがしょげてしまう。
「まぁまぁ。俺は黄身を混ぜるから、さぁ作ろうか」
「あ、はい」
魔道具を片手に緊張気味のィヤーナス君。初めてだし、失敗したらって思っちゃうよな。
「失敗したっていいんだから、やってみよう」
「え、あ、うん」
失敗を怖がってたらその先には行けないんだ。あとは周りの人がそれを許容できるかだけ。俺のブラック設計屋ではそんな余裕はなかったけどね!
ィヤーナス君が恐る恐るボウルに魔道具の先を入れるとすぐにシュイーンと軽快な音がする。見てるとすごい勢いで白身が撹拌されていく。でも飛び散らないようにゆっくり回転を調整しながらで、顔は真剣だ。作業を見ているギィちゃんも拳を握って真剣な顔をしている。おっと俺もやらないと。
「調理スキルさん、お願いします」
他人にお任せだけど仕方ない。
黄身を入れておいたボウルに砂糖を投入すればグルルルと小さい渦がいくつも発生し撹拌されていく。白っぽくなってきたら完了だ。
「ダイゴオジサン、こんな感じでいい?」
イヤーナス君のボウルには、クリーム状になったメレンゲができていた。メレンゲがひょっこり立ちあがってていい感じ。
「上出来上出来。それじゃふたつを合わせてまた撹拌ね。その間にクリームを作ってるから」
ボウルをイヤーナス君に渡して俺はふたつのボウルを出して片方に羊乳を注ぐ。
「調理スキルさん、分離をお願い」
とお願いすればボウルの中の羊乳が鳴門の渦潮ばりに回転して、飛ばされた液体が別なボウルに溜まっていく。
「我ながら、何でもありだな」
あきれ顔のィヤーナス君には気が付かなかったことにして、分離されたクリームのほうを彼に渡す。魔法鞄から青い石を出してそれも渡す。
「青い石からは氷が出るからそれを大きめのボウルに入れて、その上にこのクリームのボウル冷やしながら撹拌して。あ、砂糖も入れなきゃね」
クリームのボウルに砂糖をごそっと投入。バニラエッセンスなんてないからスルーで。
先ほどから砂糖の消費量が半端ない。
「これをかき混ぜればいい?」
「しっかりめに固くなるまで、めげずにやって。少し時間がかかるからね。その間にこっちはケーキの台座を焼くから」
説明したら俺のターン。卵を撹拌したボウルに小麦粉をどそっと入ればは自動でかき混ぜが始まる。小麦粉玉ができないようにまんべんなくぐるぐるぐるっと。やってるのは俺じゃないんだけどね。
「混ざった生地を四角に整形して、それを3つと」
本当は入れ物を用意しないといけないけど調理スキルさんには不要なのだ。何でもない作業台の上に生地を広げたらすぐに加熱が始まる。
その間にいちごの処理だ。へたを取って中に入れるのは薄めにスライスしていく。いちごが厚いとバランスが崩れて倒れかねないし。
近所のケーキ屋さんのイチゴショートはそれに加えて生クリームが柔らかめだったから崩れる前に食べ切るというRTAでもあった。美味しかったよ?




