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第九十一話 ウィスキー試飲

 連星の太陽が今日も輝いてて突き刺さるような日差しが照りつけてる。屋敷のある山の上の方が日差しが強いはずなんだけどアジレラの方がきつく感じるくらいだ。年中夏はキツイ。

 そんな夏真っ盛りな大通りをリーリさんと並んでキューチャ商会のアジレラ支店まで歩いてる。ふたり並ぶと俺の方が低いのがよくわかるからか遠慮のない視線を受けることが多い。長身美人に対して俺が釣り合ってないんだ。背が低いのは仕方がないじゃん。

 ちなみにベッキーさんは教会にお出かけだ。


「あたしは頭が悪くて商売のことはよくわからないからー」


 と朝食後に棒読みで宣言された。何やらリーリさんとの裏取引もあるような感じではあるがそこは触れぬ方がよかろう、うん。無事に帰れるかな俺。

 暑いさなかに背筋にひんやりとしたものを感じてたら目的地に着いた。コンクリート造りで開放的な店頭から入りそのまま奥へ案内される。階段を下りて地下道を通ってどこのマフィアの秘密事務所だよってルートを歩いてお高そうなソファセットがある応接室らしき部屋に入ったらイケオジヤクザ(組長)が葉巻を咥えてた。たぶん葉巻。


「お嬢ににいさん、久しぶりだな」


 葉巻を親指と人差し指でつまんだラゲツットケーニヒさんがニカっと笑顔を見せた。ちらっと俺とリーリさんのペンダントに視線をやったのは見逃さない。


「お世話になってます」


 現代風社会人的なゴアイサツな俺。名刺があれば差し出してる。ここらのしきたりなんて知らないもの。


「おじさま、デリアズビービュールズで会ったばかりですわ」


 呆れた風なリーリさんがソファにぽすっと座り、その左側をぽむっと叩いた。ここに座ってってことね。では遠慮なく。


「身分証、ありがとうございます。すごく助かりました」

「役に立ったんならよかったぜ。あんなんでもあると便利なんだ。商会が保証人としてバックにいるから何かもめごとがあれば俺のとこに来てくれ。おぅいチトトセ、アレ持ってきてくれ」

「はい父上ただいま!」


 ラゲツットケーニヒさんが野太い声で叫ぶと、聞き覚えのある声が返ってきた。てか、チトトセさん? 父上? その前にも保証人とか、突っ込みたいワードが色々あるんだけど。


「失礼します」


 扉が開き、お盆を両手で持った猫獣人のチトトセさんが部屋に入ってきた。両手がふさがってってどうやって扉を開けたんだろう。


「ダイゴ様、こちらでもよろしくお願いいたします」

「挨拶の前にアレ配れって」

「あ、すみません、金儲けのネタがいらっしゃるのでつい」


 チトトセさんがコップをテーブルに置きながら、にへへと笑っている。俺は金蔓か。いや種なのか。おっとそれよりもだ。


「えー、何点かお聞きしたいことがあるんですがよろしいです?」

「なんだいにいさん、てかこいつ(チトトセ)のことだろがな。チトトセは俺の娘ではあるが、養女な」

「はい、8年ほど前に引きとっていただきまして」

()()()()()()商会の娘だったんだ、チトトセは」

「商会がつぶれて借金のかたとして変態貴族に売られてしまいそうだった私を黙って買い取って頂いた恩はいずれお返しいたします」


 ビシっと直立したチトトセさんがラゲツットケーニヒさんの脇に立って一礼した。


「あと、配属が高級宿からアジレラ支店に移ったってわけだ」

「宿から商人の本業に移りましたので、アジレラ支店売上記録更新を目指します!」


 ぐぐっとこぶしを握るチトトセさん。なんか重い話をさらっと流されたような……。


「あとな、にいさんが買った【壊れた魔道具】を売ってたばあさんな、こいつの祖母だ」

「は? マジですか?」

「マジもマジだ。あそこで露店してたのは本当に偶然だがな」

「祖母のマトトセがすみません」


 チトトセさんが恥ずかしそうに頭を下げる。


「もともとこいつの生家はオヒガラ通商って商会で、まぁ大森林産の魔道具を取り扱ってたんだが、それを築いたのがマトトセでな。つぶれた商会を立て直すために露店からやり直すんだそうだ」

「……その大森林産の魔道具はどうやって仕入れてるんです?」

「まー、大森林に潜って拾ってきてるんだろうぜ。アイツ(マトトセ)はすばしっこいからな」


 ラゲツットケーニヒさんがガハハと笑う。チトトセさんはアハハと乾いた声を出すばかり。お年寄りが大森林に行くとか、危険すぎませんか。あ、オババさんは例外だから。


「チトトセさん、ダイゴさんを利用するなどのお考えであればそれ相応の覚悟はいただきますが?」


 リーリさんから歯軋りが聞こえそうな声がした。おっと、さわやかな笑顔だけど背後に般若が見える。俺には見える。


「売り上げのためならばお嫁にでも墓の下にでも参ります! ダイゴ様、いかがでしょうか!」


 チトトセさんがぐいっと顔を寄せてきた。チトトセさん近いですステイステーイ!


「お生憎と嫁は間にあってますんで。あと墓の下にも入らなくていいです、しょげなくってもいいです」

「そんなー。私、いまならお買い得大特価ですよ? いずれはデリーリア最強の商人ですよ? 今がチャンスです!」

「向こうから来るお買い得は危険だってばっちゃが言ってたんで」

「くー、ばっちゃさんのひとことが悔しい!」


 あ、否定はしないのね。


「ガハハッ! まぁその辺にしておこうぜ。お嬢が来た用事ってのは、これだろ?」


 パンパンと手を叩いたラゲツットケーニヒさんが顎でテーブルの上の金属カップを示した。その中の液体は、泡がシュワシュワしている。


「あ、これ炭酸水?」

「あの石をおじさまに渡して作ってもらったものですわ」

「へー、じゃあいただきます」


 ごくりと一口飲みこむ。炭酸の刺激がやや薄いように感じる。ちょっと気抜け気味だ。


「いかがでした?」


 俺の隣に座ろうとしてイケオジヤクザ(義父親)に首根っこ掴まれたチトトセさんが聞いてくる。


「炭酸が薄いかもですね」

「ふむ、これでも薄いか。エールよりも刺激は強くはしたんだが。あまり強いと咽ちまいそうでな」

「あー、慣れの問題かもですね」


 確かにここのエールは炭酸っけは薄いんだ。あとから炭酸を足してるわけじゃないから仕方ないんだけども。

あ、缶ビールとかって製造工程で炭酸を足してるんだよ。普通に作ってたら発酵だけじゃあそこまで発泡しない。


「確かにな。すっきりする飲み口だから売れるとは思うぜ」


 ラゲツットケーニヒさんがごくごく飲んでる。でも炭酸だけだとあまり売れないとは思う。味がついてないし、ちょっと苦く感じるんだ。


「おじさま、本当は、これに入れて飲むものなのですわ」


 リーリさんが魔法鞄から金属製のタンクを取り出して床に置いた。ざっと20リットルほどだろう。炭酸で割るなら中身はウィスキーだな。


「お、こりゃなんだ?」

「魔道具を使って作った酒ですわ」


 リーリさんがフラスコ型の魔道具を見せた。


「あー、俺が鑑定したアレか。ほぅ、酒が作れる魔道具なのか?」


 興味津々のラゲツットケーニヒさんが前傾姿勢でタンクを見定めている。リーリさんがタンクを開け、カップで中身を取り出した。


「まずはこの状態で飲んでくださいませ」


 リーリさんがラゲツットケーニヒさんにカップを渡す。


「色は、付いてねぇ。匂いからすると酒精はかなり強いそうだな」

「かなり強いですよ」


 原酒だと60度くらいはあるからね。気合で飲まないと盛大に(むせ)る。製品として売るときには水で薄めるって聞いたことがある。ブラック設計会社の取引先に酒造メーカーもあったからいろいろ聞けたんだ。

 ラゲツットケーニヒさんがくっとひと口飲み、目を瞑る。


「……かなり強い酒だが雑味がないな。でもまろやかな味だ。旨いとしか言えねえ。何でできてんだこれ?」


 ラゲツットケーニヒさんが俺を見てくる。俺が作ったわけではないんですけどねー。


「もとはエールなんですよ。作る過程で2割ほどに減ってしまいますが」

「エールだぁ? 何をどうしたらエールがこれになるんだって、そうか、そのための魔道具だったのか」

「厳密にいえば酒を造るものではなく、ある作業のための魔道具ですかね」


 高濃度アルコールとか香水とかも作れるはず。詳しくはないからこれ以上は知らないけど。チトトセさんにアイディアを話せば勝手に作っちゃう気がする。


「それに氷を入れて飲むとか炭酸水で割るという飲み方があります」

「ほぅ、氷か」


 リーリさんに氷が出るペンダントを渡す。俺には魔力がないから出ないのよね。

 リーリさんがペンダントをなでると氷が出てカップに入っていく。カコンと軽い音が清涼感があってとてもいい。


「これもあの時のペンダントか?」

「えぇ、水やらお湯やら出るペンダントが一緒だったので、たぶんお酒を呑む用の魔道具セットだったんじゃないですかね」


 ウイスキーをお湯で割る人はいないと思うけど、焼酎が作れたならお湯割りはありだ。別に日本酒から出なくても焼酎は作れるし、むしろ日本酒を作る工程は不要だから発酵させたら蒸留して焼酎を作ってた記憶がある。


「冷やすとまた飲み口が変わるな。ちょっと柔らかくなった気がする」

「溶けた氷の水分で酒精が少しだけ落ちるし、その分飲みやすくなってるのかな。たぶん」

「で、最後に泡のやつか」

「これは結構薄めているので、呑みやすいはずです」


 ラゲツットケーニヒさんごくごくと一気に飲み干した。カツンとコップをテーブルに置き、げふーと息を吐く。


「酒精はまだ強いがかなりさっぱりさしてるな。口の中が洗われる感じがするから濃い料理に合うんじゃないか? 個人的にはこれが一番うまかった。いや比べられるものじゃねえな、どれもうまかった。これは売れる」

「わ、私も飲みたいです!」

「あ、どーぞどーぞ」


 ストレート、ロック、ハイボールの3種を作ってテーブルに置いた。チトトセさんは飲んでふんふんと頷いては何かをメモっている。金のにおいには敏感だから何か悪だくみでも考えてるのかも。


「おじさま、このほかにもブランデーというワインから魔道具で作ったもっと美味しいお酒があるのです」


 リーリさんがまた別な金属のタンクを出してきた。タンクには何やら文字が書かれてあるけど俺には読めない。


「なんだ、まだあるのか? なになに、無断飲酒厳禁?」

「おじさま、そこは読まなくても! ダイゴさん、これは違うのですわ」


 リーリさんがあわあわとタンクに書いてある文字を隠そうとしてる。リーリさんは意外にお酒好きだもんね。


「別にリーリさんがブランデーを好きなのは知ってるし、呑みすぎなければいいだけでしょ」

「そそそそうですがお酒が大好きと思われても」

「え、今更でしょ。酔っぱらって肌着のまま歩いてたり助けた女の子たちと一緒に酔いつぶれてたり酔ってると幼い感じが出てたりと――」

「そそそこまでですわ!」

もががががが(かわいいところ)


 口を手でふさがれた。

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