第八十九話 俺式ハンバーグ
俺のこのすさんだ心を癒すのはうまい食事しかない。夕食は俺が作ろう。
夕餉は何にしようかなとコンビニゾーンで食材を眺める。なんだか豚ひき肉が輝いて見えた。「俺を食いな」と強請っているようだ。
「よし、君に決めた」
ひき肉といえばアレだ、全男子大好きハンバーグしかない。しかもビールに合う、大人ハンバーグをだ!
酒でも飲まなきゃやってられねーですよ。
あ、もちろん教会の子供たちも食べられるものをね。
今回は大人3人とギィちゃんが加わったからさらに量を作らねば。
「2ベッキーでは足りないな。あ、あの時ですら3ベッキーだったんだな。よし5ベッキー分の肉でハンバーグを作って、万が一余ったら教会の魔法鞄に入れてもらって、明日のお昼にでも食べてもらえばいいかな」
明日はね、イケオジヤクザのとこに出頭するんだ。さっきリーリさんに約束させられちゃった。たぶんブランデーについてアレコレの話だろうと予測はしてる。まぁ俺には魔力がなくて魔道具が動かせないからさ、宝の持ち腐れでついでにやさぐれちゃえってことさ。
考えててもしょうがない。ちょっと早いけど夕食の用意をしちゃうか。
まずはビールだキッチンドランカーだといきたいけど今は我慢。なんて自己問答をしていたら三和土が騒がしくなる。
「たっだいまー!」
まっさきに飛び込んできたのは、頭からずぶ濡れの甚平ベッキーさんだった。向こうで着替えたんだろうか。だげ、なぜずぶ濡れなのか。
「冷たかったー!」
「お池遊び楽しい!」
「びしょ濡れだ」
「ギィ、やりすぎだ」
「へっへーん、ィヤナースがとろいんだ!」
「なにをー!」
「はーい、みんなそのままお風呂に入ってくださいねー」
子供らが後からぞろぞろ入ってくる。そして狸獣人のロッカポポロさんが最後に入ってきた。彼女はワンピース姿だけどずぶ濡れだ。池で遊んでたのか遊ばれたのか。あそこは浅く作ったから溺れる心配は少ないけどさ。
「あ、ダイゴオジサン!」
「ィヤナース君、お風呂が先です!」
「う、わかりました」
「ダイゴさん、おかえりなさいませ。子供たちをお風呂に入れてきますね」
子供を逃がさないように後ろから押すロッカポポロさんが頭を下げつつ俺の前を通過していく。表情が緩くなってて、なんだか顔もふっくらしてる気がした。
「着替えは置いてありますからね。洗い物は置きっぱなしでいいですからね。デバサル君、頭はちゃんと洗うんですよ!」
廊下の奥から聞こえてくるのは、もうお母さんの声色だ。任せておけば安心できそう。
「おぉダイゴ殿。お疲れ様ですな」
先生が扉から出てきた。先生も頭が濡れてて髪がさみしいことになってる。
「先生もお疲れ様です。いろいろ頼んですみません」
「いえいえ、大人の手が増えて助かっておりますよ」
「そう言っていただけると助かります」
実際はそう思っていなくとも言わないといけない立場だからね、先生は。大変だ。
「いやぁ、子供たちが池で遊び始めてしまって。しでかしたのはベッキーなのですがね」
「ベッキーさんはわざわざ着替えてまで水遊びがしたかったのか……」
「あとで説教をしてやらねばなりません」
そう怒って見せる先生は、どこか嬉しそうでもあった。先生はベッキーさんに甘いからな。
「先生も体が冷える前に風呂に入ってください」
「はは、そうさせていただます」
先生を見送ると、サンライハゥンさんとレパパトトスさんも戻ってきた。
「おや、アンタはこっちにいたのか」
「えぇ、色々あってコルキュルに行く気力がなくなっちゃって」
「色々ねぇ……」
なんすかそのジト目は。本当に色々あったんですよ。
「あ、レパパトトスさん、食後にお話が!」
「……オレにか?」
「作ってほしいものがあるんです」
「……じっくり聞かせてもらおう」
レパパトトスさんの目がキラリーンて光った。造ることが好きなんだなって。
ちょっと話をしていたらィヤーナス君が速足で廊下から出てきた。まだ髪も尻尾も濡れたままだ。
「ダイゴオジサンさん、なにを作るの?」
「ビールにも合う肉々しい大人ハンバーグだけど」
「俺、手伝う」
「その前に髪を乾かして。調理するときは清潔に」
衛生観念が薄そうなここだとそんなことは気にしないんだろうけど、今のうちに覚えてもらおう。ィヤーナス君はダッシュで戻ってダッシュで帰ってきた。全然乾いてないから。
そんなことを数回繰り返して、ロッカポポロさんによって頭にタオルを巻かれたィヤーナス君が俺の前に来た。背丈はもう俺が見上げるくらいになってる。子供の成長は早い。
「なにからやる?」
「まずはひき肉に塩とニンニクと胡椒を入れて混ぜるんだけど、ひき肉からか」
コンビニゾーンから持ってきちゃえばそれで済むんだけどィヤーナス君にはこっちの食材で作ってほしいからどうしようかな。
「砂羊の肉ならある」
「じゃあそれで」
羊だけど何とかなるでしょ。焼けばみんな旨いんだ。
ィヤーナス君がでっかいボウルを用意してその上に砂羊の肉塊を入れた。
俺はコンビニゾーンから豚肉を5キロを取り出してどこからか取り出した巨大ボウルどんどん入れる。
「細かく、切る」
ィヤーナス君がそうつぶやくと、ボウルの中の肉が細かく刻まれてどぞっと崩れた。
「おお、それが切るってスキルか。一気に切れちゃうの、すごいな!」
「……ダイゴオジサンの方が凄い」
「俺のはインチキだから比較しちゃダメな奴。ィヤーナス君のはすごいスキルだよ!」
「そうだぞそうだぞ!」
あれ、いつの間にかキッチンの対面にギィちゃんがいて、ィヤーナス君をニコニコ眺めてる。
「ィヤーナスはなー、お前にほめられたくって、たっくさん練習してたんだぞ!」
「ギィ、お前!」
「だっていつもまな板の前でブツブツいってるじゃーん」
「そ、それをいうなぁ!!」
ィヤーナス君はそれきり無言になっちゃったけど狼尻尾がふりふり振られてる。
「色々な料理を覚えちゃえばもう一人前だな」
ィヤーナス君の背中をポンと叩く。彼からは、知らないことだらけだ、と呟いた声だけが聞こえた。努力が実を結べるようにおじさんは頑張りますか。
「よっし、続きな。塩とニンニクと胡椒を入れて粘り気が出てくるまでよーくかき混ぜる」
「ねばりけ、か」
「10分くらいはかかるから、体力がないときついよ。特に俺みたいなおっさんには、だからスキルでずるをする」
巨大ボウルの中はもっちゃもっちゃとひき肉が躍ってる。ィヤーナス君は両手で握るように攪拌してる。10分ほどで白っぽくなって粘り気が出てきた。
「これくらいで混ぜるの終わり。これで種が完成」
「……これを焼く?」
「これを、手をグーにしたくらいの大きさの平べったい丸にするんだ。あ、なるべく空気を抜くのと真ん中は少しへこませて」
ィヤーナス君にお手本を見せる。調理スキルさんが俺の手を動かしてるんだけど、だからこそ間違いがないわけで。
ィヤーナス君が同じように作れたので「上出来上出来」と褒めておく。その後はふたりして無言でせっせとハンバーグを作っていく。俺が200個、ィヤーナス君が15個作った。すごい数だけど、これがなくなるんだろうなーって予想はしてる。
「あとはこれを焼くんだけど、先に焼くから見て覚えて」
でっかいフライパン出てこいと念じればドーンと現れる。一気に200個は焼ける大きさだ。さっと油をひいて中火で加熱。ハンバーグ種を200個一気に投入して表面に焼き色がつくまで熱し200個一気にひっくり返す。調理スキルさんだからこそできるズル調理。
「……すごい」
「まぁ、普通じゃできないからね」
納得がいかない表情をするも気を取り直したィヤーナス君はフライパンで焼き始めた。5個ずつではあるけど、それでも大変なはず。
「蓋をして5分くらい蒸し焼きね。蓋がなければ、はいこれで」
「……ありがとう」
蓋なんかないだろうから取っ手付きの木の蓋を出した。スキルで出したから、あとで作っておこう。パンも必要だから、空きスペースでちゃっちゃと作って焼いていく。オーブンがなくても焼けるのは本当にずるいと思う。
そろそろ5分ってあたりでふたを開け焼き具合の確認だ。肉汁の海で遊ぶ粗い焦げ目がついた肉の塊が「俺を食ってみろよ、飛ぶぜ」と囁いてくる。くっそぉ、ビールをください!




