第八十六話 追いはぎの末路
川の文字で寝るのは親子だと思っていたけど、大人の自分が挟まれる立場だったなんてだれが想像できようか。
今日も部屋で寝るわけだが、意識がある状態で寝るのは初めてだったりする。俺は初日二日目と疲労でダウンした、情けない男である。
こんなにぴったりくっつかなくてもベッドはこんなに広いのに、と詩でも綴りたくなるくらいに密着度が高い。鉱山でもらったペンダントの意味を勘ぐってしまうと余計に意識してしまう。
そんな悶々としつつも熟睡してしまった俺が起きたのは、部屋の扉ががどんどんと叩かれたからである。
「こんな朝っぱらから……朝?」
鎧戸からは陽が差し込んでいる。またも寝坊らしい。
起きてすぐ、しかも甚平姿のふたりを行かせることはできないので俺が対応するべく階段を下りた。ドンドンと叩かれ続ける扉の前に立ち、どなたですかと誰何すと、警邏のものだと返答がある。あれか、捕まえた追いはぎの件か。
「ちょっといま出られないんですけど」
「こちらはエルエッサ警邏隊だ。支度が出来たら警邏事務所に出頭願う」
と言葉を置かれた。思ったよりも早く処遇が決まったのかも。2階に戻り、寝ぼけ眼のふたりに声をかけ朝食の支度をする。おっとサィレン君も呼ばねば。
パンとスープとデザートというちょっと贅沢な朝食後、エルエッサ村入り口にある警邏事務所に来た。警察に出頭せよと言われているようで、ちょっと緊張する。
入り口から入って正面にカウンターがあり、キレイめな獣人のお姉さんが「ここは警邏事務所ですがお間違えないでしょうか」とゴアイサツしてくる。間違えてくる人が多いのかも。
カウンター奥は机があって人がいて、俺の知っている事務所に近い形だ。効率を求めると同じような形に収束するんだろうか。
「えっと、先日追いはぎを連れてきたものなんですが」
「あー、あのお尋ね者を捕まえてくださった方ですね。所長ーいらっしゃいましたよー」
受付のおねーさんはその場でくるっと後ろを向き、叫んだ。
「3番の個室に案内してくれ」
どこかから声がする。
「あ、その通路を奥に行くと部屋があって扉に3と書いてある部屋にお入りくださーい。3番入りまーす」
警察署的な緊張感を持ってたけど、おねーさんに打ち砕かれた。
言われるままに3番の部屋に入る。向かい合わせのソファがあり応接室めいた部屋だけど窓はない。閉塞感が警察っぽくて、やっぱり緊張する。
ソファの真ん中に俺、左にベッキーさん、右にリーリさん、プチ子は俺が抱っこといういつものフォーメーションだ。数分でノックがあり、初老の男性が入ってきた。背が低いのでドワーフだろうか。ベッキーさんを一瞥して、俺を見てきた。ちょっと嫌な目だ。睨み返してやれ。
「所長のギュトルだ。この度はお尋ね者のアーレーアッザムを捕まえてくれたことに感謝する。5年前か、奴が仲間殺しでハンターギルドを追放になって姿をくらませてからアジレラとデリアズビービュールズを結ぶ街道で追いはぎが頻発して、目撃情報もあったんだが捕まえようとすると姿をくらませやがったんだ」
所長のギュトルさんがどこからか小さな袋を取り出し、テーブルの上に置いた。
「賞金だが、元2級ハンターのアッザムが4万、残りの奴らで1万、計5万ペーネだ」
ふむ、円に直すと50万ってところか。賞金首なんてよく知らないから高いんだか安いんだかわからないな。
「一般的な3級ハンターが1回の依頼で得ることができるのが2千ペーネほどです」
リーリさんが耳打ちしてきた。1回ってのは日給ではないんだよな。泊りがけでも1回だし。
ということは、賞金は高額ではあるのか。
金の入った袋はリーリさんが中身を確認してる。俺が気になるのは。
「捕まえた彼らは、どうなるんです?」
「あいつらか? 3年ほど鉱山で強制労働だな。それでまっとうに生きる気になりゃ開放するがそれでもだめならまた3年の強制労働だ」
「……処刑とかではないんですね」
「貴重な労働力を消しちまうこたぁねーだろ」
「そりゃそうですね」
よかった、死刑とかじゃないんだな。
あの時は頭に血が上っちゃってやりすぎたけど、俺にかかわった悪党でも死刑はちょっとな。もちろん、被害を受けた人や殺されてしまった人から見れば、生きていることが許せないって気持ちもあるだろうし、それを止める気もないけど。
「まぁ、やけに逃げるのがうまいからどっかに協力者がいるんだろう。それ聞き出すまでは牢屋にぶち込んでおくがな」
ギュトルさんの目が光った気がする。
特に文句も話すこともないので、これで警邏事務所を辞することに。まだお昼前。時間が中途半端なので、エルエッサ村を見て回ることにした。
鉱山の村だからか鍛冶屋が多く、装飾品の店もある。武器ばかりではなく竜車の部品やら樽やら金属加工品全般を扱っているらしい。
「昨日は、金属製の樽をたくさん買いました」
リーリさんがにこっとした顔でしれっと言い放つ。それはブランデー用なのでしょうか?
「鉄で補強した竈があったから、買ったんだ! あとね、これとこれこれ!」
ベッキーさんが教会の土産に買ったものは、それも土産じゃないって品ばかりだった。
「俺は……特に欲しいものがないんだよなー」
昨日サィレン君から買ったものがあるし、装飾品には興味がわかないし、ぶちこに首輪でもと思ったけど大きさが変わりすぎてどうしようもないし。
「特に見たい店はないかなぁ。飲食店も飲み屋ばかりだし」
「では、次の村まで行ってしまいますか? アジレラまでの途中にはあとひとつ村があるだけですわ」
リーリさんが地図を見ながら案をくれる。
「次は、麦の村だね! サルベジャはね、エールがね、おいしいんだ!」
「サルベジャは小麦、大麦、ともかく麦を作ることに特化した村ですわ」
「パンもおいしいよ!」
ベッキーさんによる解説があるならばおいしいんだろう。うーん、そこで止まるべきか一気にアジレラまで行ってしまうか。
ぶちこの速度なら今日中にアジレラにつくことも可能らしい。
うーん、迷う。正直エールよりも缶ビールのほうが断然うまいし麦もそう。屋敷とコルキュルの様子も気になるし、先生にお任せしたサンラハゥンさんらも気になる。。
とはいえ村の中の井戸に水神様の鱗は入れたい。
「村には1時間だけ滞在してアジレラに向かおう」
「わかりましたわ」
「わかった!」
野営広場に戻りサィレン君にそのことを伝えると「僕はここでもう少し商品の仕入れをしていきます」と返事があった。俺が買ったことで資金に余裕ができたらしく、どこでも売れる装飾品を仕入れるつもりのよう。
サィレン君は商人なんだし、彼は彼で生きてるからね。
「俺はアジレラの水の教会にいると思うから」
「ブランデーの件でお尋ねしますよ、必ず」
「あら、それならばおじの商会とも話をしてほしいのですが」
「え、そんな大手商会と競ったら負けちゃうじゃないですか」
「……なぜ大手だと?」
「デリーリア、エルフ 一族のキーワードがあればすぐですよ。キューチャ商会ですよね?」
「なんでもいいけど仲良くね!」
商売のことはよくわからないから俺はタッチしない方向で。
エルエッサ村を出てぶちこにのって走る。小一時間で次のサルベジャ村についた。麦の村というだけあって村の大分手前から麦畑が続いてて、村についても麦畑だった。門も壁もなく、ただ麦畑が広がる、特異な景色が広がってた。
「エーテルデ川から水路を引いているらしいですわ」
「灌漑設備も完備かー」
「アジレラで売られて各地の食料になっていますので、大事な産業です」
「エールもだよ!」
「そうですわ、エールも大事ですわね」
サルベジャ村では小麦を買った。安く大量に在庫があるから、大人買いしても迷惑にならないしね。
さて用事もないし、さっさとアジレラに向かおう。
ぶちこに乗って街道をゆっくり走る。ゆっくりと言ってもトカゲよりは断然速く、街道を行く人らに迷惑にならないよう、道は外してる。
道行く人たちに唖然とした顔をさせつつ、アジレラの門まで来た。まだ夕方前だから、さほど混んではいない。ぶちこに小さくなってもらい、行列に並ぶ。
「今回は、すんなり入れそうだ」
「身分証もありますので」
「その身分証は、俺には持たせてもらえないの?」
「ダイゴさんに持たせると何処かに行ってしまいそうで」
「えー、行かないって。単独行動は怖いもん」
信用がないなぁ、俺。




