第八十五話 エルエッサ鉱山(3)
あ、という顔のふたりだけど、残念そうではない。ほんとですか、と近寄るサィレン君。
「わぁ、綺麗にスパッとふたつに割れてますね……よろしければペンダントに加工しますよ」
ニッコリ笑顔のサィレン君が手のひらに割れた宝石を載せている。まんまるだった宝石が縦に切られたように割れているのがわかる。
「え、そんなことできるの!?」
「できるなら、ぜひお願いしたいです。もちろんお代はお支払いいたしますわ」
「あたしも!」
ベッキーさんとリーリさんは顔を輝かせてサィレン君に頼んでる。割れちゃったんだけど、悲しそうではない。まぁペンダントにすればいいっちゃいいんだろうけど。
サィレン君がどこからか銀色の金属板を取り出して手でちぎって加工し始めた。割れた面に銀色の板を張り付けて、落ちないように少し包み込むように折り曲げてる。指先でつまんで突起をつくり、そこに棒で穴をあけた。これを計4つ作った。
そして革ひものようなものを通してペンダントのできあがりだ。
「最後に宝石に魔力を流してください。そうすると銀が固まって宝石をがっちり掴みます」
サィレン君に渡されたベッキーさんとリーリさんは手に握ってぎゅっと力を入れた。
ふたりが手を開くと、銀の部分が滑らかになり光沢が増してプラチナみたいに見える。
「わ、すごいキレイ!」
「すごい……もしやこれ、銀ではなく魔銀ですか?」
「あははは、よくわかりましたね。たまたま手持ちがあったので使ってみました。なにせ縁起物ですからね!」
「ありがとうございます、お支払いは後程で……」
「あたしも後でね!」
「ええ、結構ですよ」
ふたりとサィレン君はにっこりだ。いまいち俺がついていけてないけど、縁起物ってのは聞こえた。割れた宝石が縁起物?
「ダイゴさん、これ、受け取って!」
「片方はダイゴさんに持っていただきたいのですが」
いつの間にかふたりが目の前にいて、造りたてのペンダントを差し出してきた。俺だけが宝石を見つけられなかったからかな。
にっこりと微笑と、きらっと光る赤と深緑の宝石。
断るなんてできない。
「えっと、両方とももらっていいのかな?」
俺がベッキーさんとリーリさんの顔を順に見やると、ふたりは同時に目をぱちくりして、お互いを見合った。
「もっちろん!」
「もちろんですわ!」
ふたりはびっくりするくらいの笑顔で、ちょっとほっぺが赤く染まってる。
でもペンダントがふたつかー。同時に首にかけると、ちょっとな。
「よろしければ、ひとつにまとめてしまいましょうか?」
サィレン君が商人の笑みで寄ってきた。
「え、あー俺は構わないけど、ふたりは?」
確認したが、ニッと笑みで答えが返ってくる。いいらしい。ということでサィレン君に渡してまとめてもらうことに。ちゃちゃっと直して、トップがふたつのペンダントになった。
ベッキーさんとリーリさんはすでにつけている。どれどれと俺も首にかけてみる。下を向いて確認。赤と深緑が煌めいてる。思った以上に綺麗な石だ。
うん、おじさんだけど、いいよね。
「いやー、良いものを見せていただきました」
サィレン君がパチパチと拍手をしている。ベッキーさんもリーリさんもえへへと照れ笑いだ。一体なんぞ?
「わっふぅ!」
「あ、ぶちこを忘れてた」
どうやらひたすら穴を掘っていたようで、ぶちこは土まみれになってる。ぶちこ的には存分に穴が掘れて満足なんだろう。尻尾の振り方がすごい。
流石に土まみれすぎるので清掃スキルでキレイキレイにした。
「さて片付けも終えていますし、上に戻りましょうか」
「戻ってお昼!」
えーるえっさーえるえっさー、という鉱山節を聞きながらぶちこの案内で通路を歩く。迷わずに螺旋階段のある空間に出た。無事に帰れる安心感に元気をもらいつつ階段を上へ向かう。
「おやまぁ、お兄さんは鉄ばかりだねぇ」
受付のドワーフおねーさんにはそう言われてしまった。
鉱山では出るときに掘ったものを申告して、売った場合の金額の1割を税金として納める仕組みらしい。
俺は鉄ばかりだから全部合わせても100ペーネだった。鉄、安すぎ。
ベッキーさんとリーリさんは銀の球を出してた。宝石の他に銀もか。宝石の申告はしてない。だってこれ、売るつもりはないし。
サィレン君は紫の宝石のみだ。ただ一番高いので2万ペーネを支払ってた。あの宝石を研磨して形を整えると50倍にはなるようで、儲けはすごいらしい。
ちなみにシルバーギガースは鉱物ではないで隠したままだ。脱税ではないぞ。
さらに言うと、部屋に戻ったぶちこが口からぺって宝石を吐き出したことも内緒だ。ざっと20個はあったな。本当に、坊主は俺だけだったんだよ。クッソー。
鉱山を出て昼も食べて暇になった。ベッキーさんとリーリさんは店巡りに出かけた。予想以上に俺が疲弊してて出歩く可能性がなくなったからだ。
俺氏脆弱すぎで泣けてくる。
することもないし、サィレン君と部屋にいるのだけど、せっかくだから彼の売り物を見せてもらうことに。
「これなんかは上等な酒なんですが昨晩のブランデーを飲んでしまうと上等?ってなってしまいました。ブランデー、いくらか売ってもらえませんか?」
「先ほどの鉄もよろしければ買い取りますが」
「え、ダイゴさんて魔力がないんですか? では、僕の手持ちはほとんど使えませんね……」
それでもサィレン君は木の皿セットを持ってたり、なんと箸を持っていた。マーマイトのある部族は箸を使うらしい。乾燥地帯なので麦飯が主食だそうな。
「是非とも行ってみたい」
箸文化があるなんて、いくしかないでしょ。
大量に買い付けた木の皿と箸を魔法鞄にしまっていると、サィレン君が「いやー、今日という日は忘れられない日になりますね。伝承をこの目で見られるなんて」と言い出した。
「伝承って、なにが?」
そんなに心に残るイベントあったっけ?
鉱山で宝石は出たけど、そこまで喜んでなかったでしょ。
「あー、エルエッサ鉱山節を知らないなら、わからないですよね」
サィレン君は苦笑いだ。
「鉱山節って、出るものは運次第って歌でしょ?」
「あれは5番まであるんですけど、その中の3番はこんな歌詞なんですよ」
とサィレン君が手拍子を添えて歌い出した。
えーるえっさーえるえっさー宝石出たよーえるえっさー。
宝石ふたつに割れたとさ。
片方あの子にあげたとさ。
ふたりは結ばれ終まで一緒。
えーるえっさえるえっさ!
「むかーしむかし、そんなことがあったらしいです。なので、エルエッサの宝石をふたつに割って恋人同士でお揃いの装飾品にするのが憧れなんです。なのでエルエッサの宝石は種類大きさ問わず、大人気なんですよ! でも今日は、割ったわけではなく割れたんです! まさに歌の通り! もう驚きしかないですよ!」
サィレン君が、それはそれは楽しそうな笑みを浮かべたとさ。




