第七十九話 エルフの少年
通算100話達成(*'ω'*)
本日も快晴なり。雲ひとつなくて、日影が欲しいくらいだ。
芋の村であの3人娘と別れ、ぶちこに乗ってアジレラ方面を行く。もちろん街道からは距離を取ってね。なんか騒がれてもイヤだし。
村を出てから2時間で、ぼちぼちお昼を考えないとってあたりで花火のような爆発音が聞こえた。方向的には街道だ。
「何か聞こえたけど」
「たぶん、魔法だね!」
「ファイヤーボール、でしょうか」
「えっとそれってドカーンて爆発するような魔法だよね?……街道の方から聞こえたけど、道のど真ん中でそんなのぶっ放す人がいるの?」
国道で爆弾を爆発させるようなもんじゃない?
ただのテロ犯だよそれ。
「ハンター同士のもめごとは基本的には禁止ですわ。サンドワームが出たとかでしょうか」
「それか、追いはぎ?」
そういえば昨日会った3人は追いはぎから逃げてきたって言ってたけど。まさかねぇ。
「街道に向かって確認した方がよさそうですわ」
「……危なくない?」
「追いはぎだった場合、襲われているのは比較的弱い立場の方々です。あの3人のように」
あの3人といわれ、俺の脳裏には疲れ切った彼女らの姿が浮かぶ。でも、俺には助けるための力とかはない。
「申し訳ないけど、ふたりにお願いできる?」
「当然!」
「おまかせくださいませ」
「……じゃぁ、ぶちこ、音のした方へGO!」
「わふぅ!」
ぐんっと体が後ろに引っ張られ、急加速する。ベッキーさんのお腹に回した腕に力をこめる。
大き目の岩を飛び越え荒地を走り、街道らしき平地にでた。オレンジと黒が溶け合った爆発が見える。ざっくり距離は200メートル先。
「あ、あれって魔法?」
すげぇ。砂クジラの時は遠かったけど、今度は目と鼻の先だから迫力が違う。ニチアサなんて目じゃない迫力と音だ。
おっと、近寄りすぎると危険だ。
「ぶちこストップ」
「わふぅ!」
煙が晴れた後には、金属らしき大きな黒い箱が残っていた。あの爆発にも耐えたっぽい。
「複数の気配がします、ベッキー!」
「わかってる、確保してくる!」
俺の前に座ってたベッキーさんがぶちこから飛び降りて街道に駆けていく。いつの間にか大きな木の盾を左手に持ってる。ドタドタと走っていて速く見えないけどどんどん遠ざかっていく。危ないって言う暇もなかった。
あっという間にベッキーさんが金属の箱にたどり着いた。箱を背に盾を構えてる。
「あ、何か出てきた!」
「あれは……追いはぎ、でしょうか?」
どこに隠れていたのか、5人の人影が箱を囲むように現れた。ひとりを除いて胸当てっぽい何かをつけて、弓を持っている。ひとりは杖を持っていて、あからさまに魔法使いな感じだ。さっきの爆発はコイツの魔法なんだろう。
「なんだお前は」
「死にたくなけりゃどけチビ」
うん、ガラの悪さが素性を現してるな。まっとうな人間じゃなさそう。俺たちには気がついてなさそう。
背後からシュシュシュと何かが放たれる音がして、3つの光るなにかが飛んで行った。
「ぐあっ」
「いてぇ!」
「ぎゃっ!」
光はこちらに背を向けていた3人の肩に刺さり、そのまま数メートル吹き飛ばした。杖を持った男はこちらを睨んできた。
「ち、護衛のハンターいるなんて情報にはなかったぞ。ずらかる!」
「逃がさない!」
ベッキーさんがダッシュでその男に近寄り、盾で殴りつけた。その勢いのまま残る一人をアッパーカットで10メートルほど殴り飛ばしてしまった。
「ウグワー」
「ウグワー」
ベッキーさんは、リーリさんに射られて地面に転がってる3人も盾でゴッツンして回った。ウグアーの三重奏の後で動くものがなくなるとベッキーさんがこちらに盾を振って合図をしてきた。制圧完了なんだろう。あっという間すぎて、ハンターってのはすごいんだなと再確認した。
ベッキーさんに躊躇がなかったのが怖かったけど、これがハンターのベッキーさんなんだなって知った。俺にとっては怖いけど、頼もしくもある。リーリさんもそうなんだろうなって。
「ダイゴさん、行きましょう」
「え、あ、そうだねぶちこ、行こうか」
「わふう!」
ぶちこ揺られて箱に着いた頃には、ベッキーさんによって不審な男たちは後ろ手に縛られていた。あまりにもその手際が良くて驚いた。いつもはほわほわしているベッキーさんだっけど、いざというときの動きがよどみなくて流れるようだ。というかその縄は何処にあったの?
「ベッキー、お疲れさまですわ」
リーリさんはぶちこから降りるとベッキーさんを労って縛り上げた男たちの顔を見ている。
俺もぶちこから降りて、箱を見た。何かはわからないけど黒光りする金属だ。爆発で壊れた様子もなく、かなり固い金属なんだってのがわかる。
「魔法使い1と弓が4で、遠距離から襲ってくるパターンだね!」
「襲うことに慣れているような編成ですね」
ふたりによる実況見分が始まる脇で俺は箱に触ってる。箱の金属は切れ目も継ぎ足しも見られず滑らかなシームレスで、俺が現役ブラック設計だったころでもこれほどの逸品にはお目にかかったことはない。正直この世界には不釣り合いな印象だ。
「オーパーツか……」
俺が思わずつぶやいた瞬間、箱の一面に切れ目が走った。縦に走った後に二つに分かれた切れ目は四角く走り、元の位置まで戻った。四角が隣り合った、まるで扉に見える。
ギギギと金属がこすれる音がして、切れ目が開き始め、そこから光が漏れてくる。
「ダイゴさん!」
走ってきたリーリさんに横から引っ張られ、彼女の腕の中に確保された。そんな俺の前には盾と巨大なハンマーを構えたベッキーさんがいる。ぶちこは俺の横でマテの姿勢だ。
扉のように見えたものは横にスライドしていき、ガシャンと開ききった。中は明るく、そこには小さな人影があった。
「はぁ、助かりました。あ、僕に敵意はありませんので、その物騒なハンマーで殴らないでもらえると嬉しいです」
箱から出てきたのは、耳がとんがった茶髪の少年だった。美形だけどまだあどけなさが残る顔に髪は綺麗に刈り上げられてすっきり整ってて、見かけはまっとうな人物だと判断できる。エルフっぽいから正直年齢はわからないけど、彼は両手を上げ、頬を引きつらせている。
「僕はサィレンといいます。行商で各地を回ってるしがない旅商人です。命ばかりはお助けください」
彼は手を挙げたまま地面に膝をついてそのまま座ってしまった。
「なんか俺たちが悪者のように見えるのは気のせい?」
「えっと、わたしたちはあなたを助けたつもりだったのですが?」
「あ、それは重々承知しております。ただ、あなた方からは明らかな桁違いの力を感知しておりまして、こう恭順の意を表しているだけです」
桁違いの力? 少なくとも俺ではない。
リーリさんかベッキーさんかぶちこか。
「あたし達は3級ハンターでしかないよ?」
「3級!? 嘘でしょ!? パワー測定水晶が真っ黒で測定不可ってなっているのに!?」
ベッキーさんの答えに彼が声を裏替えて驚いている。俺としてはそのパワー測定水晶ってブツが気になるけど。
「わたしたちはアジレラのハンターです。あなたを襲うなどはしません。それはお約束いたします」
「その言葉を信じますよ……」
彼が両手を降ろして、ふへーと大きく息を吐いた。
「こいつらどうしよう?」
ベッキーさんが転がっている男たちを指さした。気を失ったままの5人が目刺し形態で並べられている。頭巾をかぶって頭を隠してるけど、頭から耳が生えてるのがわかる形だ。
「捕縛できたので街まで連れて行って警邏に引き渡したいのですが」
「うーん5人を連れて歩くのは、厳しいかな。いっそ、引きずっちゃう?」
「ベッキー、それは最終手段としましょう」
すっかりハンターになってるふたりはえげつないことも平気で言う。犯罪者は処すとか言い出さないあたりは優しいのかもしれないけど。
「檻でもあれば、ぶちこちゃんに運んでもらえそうなのですが」
リーリさんが謎の箱を見ながらそうつぶやいた。ぶちこなら運べそうだけど5人がはいる様な檻なんてあるわけもなし。
「檻があれば運べるんですか?」
エルフの少年サィレン君が口を挟んできた。




