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毒蜘蛛夫人と呼ばれています

作者: ほしみ
掲載日:2023/01/03

タイトル通りの内容です。ハピエンです。

 自分の美しさが、怖い。


 鏡を見るたびに、映るのは。

 年齢不詳の美女だ。


 髪は、鴉の濡羽色。

 瞳は、紫がかった灰色。


 長いまつ毛が。

 翳りを与え。


 目元のホクロが。

 目力を加えている。


 笑みを浮かべれば。

 誰もが圧倒される。


 背は高く。

 くびれたウェスト。

 艶めいた素肌。


 男性の視線は。

 胸か腰か。


 もしくは全部に。

 釘付けになる。


 比類なき美貌。

 完璧なプロポーション。

 ……なのだが。

 

 どこから見ても。 

 妖女だわ。

 

 ミラーカは、ため息をついた。


 子供に出会うと。

 ギャン泣きされ。


 生き血の入った風呂に浸かり。

 若さと美貌を保っている。

 などと噂されている。


 外観年齢は、二十代後半。

 もしくは、美魔女(年齢上限なし)。


 そんなミラーカは。

 16歳。


 デビュタントのときは。

 パステルカラーの少女の群れの中。

 ボルドーカラーで悪目立ち。


 目立ちたかったわけではない。

 ダークカラーしか似合わないの!


 それなのに。

 なんでオバサンが混じってんの? 

 という視線の集中砲火を浴びた。


 ついたあだ名は。

「毒蜘蛛夫人」

 婚活は、全敗だ。


 幸いにして。

 家族仲は、すこぶる良い。


「お嫁になんか行かなくていいよ」

 と、父は言い。


「美人すぎるのも大変だな」

 兄は慰め。


「人を見る目を養う機会だと思いなさい」

 母は、叱咤激励した。 


 夜会に出席するたびに。

「誰もダンスに誘ってくれないの」と。


 しおれていく姿に。

 家族は、胸を痛めた。


「この国の男どもは、クソだな」

 吐き捨てるように。

 父はつぶやいた。


「根性、腐ってる」

 兄も、同意した。


 ミラーカには内緒だが。

 婚約の申込は、掃いて捨てるほどある。


 それらは、すべて。

 焼却処分されている。


 ダンスに誘う勇気もないくせに。

 他の男には、奪われたくなくて。


「毒蜘蛛夫人」だと。

 貶めて。

 

 近づくなよ、と。

 互いに牽制しあう。


 ミラーカの一族の紋章は。

 蜘蛛だ。


 最愛の家族を。

 毒蜘蛛呼ばわりする。


 そんな連中に。

 託せるわけがない。


「妹のところに、遊びに行かせましょう」

 母は提案した。


 母の妹、マリーカの叔母は。

 隣国で暮らしている。


「叔母様!」

「まあ、マリーカ。なんて美しいのかしら……」


「美しいと言ってくださるのは、家族と叔母様くらいのものですわ」

「なんですって?」

「わたくし『毒蜘蛛夫人』と呼ばれておりますのよ」


 叔母は、激怒した。

 そんな国に、マリーカを戻す気はない。

 このまま、永住してもらおう。


 歓迎パーティが開かれた。

「秘蔵の宝石をお見せします」と。

 叔母は、マリーカを紹介した。


「目も眩むほどの美しさですな」

「本当に……」

 

 出席者は、叔母が厳選したメンバーだ。

 良識のない小娘や、青二才は省いた。

 マリーカが、最年少だ。


 ここには、誰も。

 マリーカを無視する者はいない。

 目が合うと、微笑んでくれる。


 腰や胸に、粘っこい視線を向ける者も。

 これ見よがしに、ヒソヒソ話を始める者も。

 皆無だ。


 パーティで、苦痛を覚えないのは。

 初めてのことだ。

 ダンスの申し込みを受けるのも。


 マリーカは、ダンスの合間に。

 グレンと名乗ったパートナーを垣間見る。

 

 半白の髪。

 穏やかな雰囲気。

 見かけは、四十代のイケおじだ。


 それでいて。

 表情や肌は、若々しい。


 この人は、もしかして……

 お若い方なのではなくて?

 

 遠回しにたずねると。

「よくおわかりになりましたね。実は、21歳です」

 相手は、破顔した。


「友人達からは、『若年寄』と呼ばれています」

「わたくしは、毒蜘蛛夫人』と呼ばれておりますわ」


 ため息混じりに、告白する。

「デビュタントのときに、ついたあだ名ですの」


「幼稚な(やから)がいるものですね」

 相手の声に、怒りがこもる。


「私は『若年寄』で得したこともあります。

 父が体調を崩したので、後を継いだのですが。

『この若造め!』と言われたことは。

 一度もありません……

 挨拶回りに行ったときも。

 領民の大部分は。

 代替わりに、気づいてすらいない状態で……」


 黙っていると。

 落ち着いた方に見えるのに。


 お話しすると。

 明るくて、楽しい。


 苦労も、おありだろうに……

 そんな様子も見せずに。

 

 素晴らしい方だわ。

 マリーカの好感度は、爆上がりだ。


 一方のグレンは。

 絶世の美女に見つめられて。


 テンパって。

 話が止まらない状態だったのだが。


 結果オーライであった。


 仕事上は、役立つ半白頭だが。

 女性には、不評だった。


 ()()()()()と結婚するのは嫌だと。

 縁談を断られた話は。

 マリーカも、憤慨した。


「年相応に見られない」という共通点が。

 二人を結びつけた。


 叔母の采配が当たり。

 婚活は、終了した。


 笑顔を取り戻したマリーカに。

 家族は安堵し。


 女主人を待ちわびていたグレンの館は。

 吉報に沸いた。


 マリーカのいない夜会に。

 落胆する者もいたが。

 自業自得だ。


 新婚ほやほやであったが。

 長年連れ添った夫婦にしか見えない。


「年相応」に見られるまで。

 二十年ほどかかり。


「時を止めた夫妻」と噂されることを。

 二人は知らない。 

お読みくださり、ありがとうございました。

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