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第96話 「みんな! あたしに着いてきなっ!」

「はぁ……はぁ……はぁ……みんな無事……?」


「ごめんなさい……危険感知が立ち消えする直前に反応が出たのよ……」


「ううん。それは仕方ないよ」


 珍しく辛そうなラン。

 疲労を隠すこともできず、苦々しい表情を浮かべた彼女を、責めるような人がこの場にいるはずもなく。


「起きた事は気にすんなって話だ。で……問題はこいつか」


 あたし達はギルヴスに促されるように部屋の中央を見る。



 そこには見覚えのある台座が据えられていた。



「……戻ってきちゃったって事?」


「そだねー」


 テンション変わらず、台座をしげしげと見るリロ。


「とりあえず……さっきの転移の魔法みてぇに、変な幻視の術でもかかってねぇ限りはな」


「目印も……あるんだし……」


 プルパが、通った事のある部屋と分かるようにあたし達が付けてきたバツ印を指さして言う。


「参ったわね……安全だと思った部屋でも、やっぱり反応しないように巧妙に仕掛けを隠してある部屋もあるって事ね」


「……こいつぁ、いくつかは罠を解除して進む必要のある部屋があるって事じゃねェか?」


「ええ。でも……私のスキルはレンジャーのスキルまでだから、危険感知は出来ても、罠の種類までは分からないし、解除も難しい。それはシーフ系のスキルだもの」


 ふわっと、手のひらを広げて、消えかけのスキルを僅かに発動してみせるラン。


「うーん……何か、パッと見て分からないかな……」


 と、あたしは隣の罠のある部屋をのぞき込んで、頭を出し――


「イツカっ! ダメ! 顔を出すだけでも発動する罠は……!」


「くっ……!」


「うわっ!?」


 あたしはジルバに背中を抱きかかえられ、倒れ込みながら元の部屋に引きずり戻される。


 ……その最中。


「えっ……!?」


 ランの驚いたような声が一連のやり取りの中に、混じった。


「イツカ! 少々軽率だぞ!」


「ご、ごめんジルバ……」


「あなたにだけは言われたくないと思うわね。でも」


 あたしのほっぺたを、むにっと引っ張るラン。


「うーーーにーーーー! いひゃいいひゃい!」


「イツカ、何ともないのよね?」


「……うん、らんとろらいなんともない


「これは、多分」


 パッと手を放して、考えをめぐらすラン。

 頬っぺたひりひり。


「どうしたのー、ランー?」


「うん、ええと」


 ランが顔を上げると、その手を今あたしがのぞき込んだ部屋に向けてかざす。


「……やっぱり。今感知したこの部屋の危険シグナルが、消えてるのよ」


「あ?」


「え?」


 ……消え、てる?


「罠はあったんだよね?」


「ええ、それは間違いないわ。でも、『イツカが顔を出した瞬間』、消えた」


「……」


 あたしに、どうしようもなく、ろくでもない思い当たるフシが一つあった。


「……まさか、それはつまり」


「うん」


 ランが言い辛そうに口にしたのは。




「イツカの『究極フェアリーズ不器用・ディフェクション』が、罠を破壊してる」




「……えーーーーーーーっ!?」


 仰け反って声を上げるあたし。


「おかしいと思ったのよ。実はこの迷宮に入った時の、あの劇場の入り口みたいなドアにも罠が仕掛けられてたの」


「む……しかしイツカは、平然とその扉を開く事が出来た」


「えっと、あの」


「イツカがこの部屋をのぞき込んだら……その台座が現れたんだし……しかも壊れてたんだし……」


「い、いやそれはその……」


「ってぇ事は、その理由は全部」


「うーーーーそーーーーっ!!!?」


 案の定であっても、直視したくない事ってあるんですが。


「あ、あたし……今、隣の部屋のものには触ってないよ!?」


「ううん。センサーには触ったのよ」


「ぅぐ……」


 ……ぐぅの音も出ない。ぅぐは出たが。


「で、では、もしや、イツカを先頭に歩けば、この迷路はいずれ突破できるという事では……」


「すごーいっ! さすが勇者様!」


「勇者関係ない!」


「ヤバいな、太古の王家の墓荒らしとかやったら阻むものがねぇ」


「うれしくなーーーーいっ!!」


 あたしの切ない慟哭が迷宮に空しく木霊する。


「嬉しくないけど!」


 はぁ、と一つ溜息をついて気持ちを切り替えて。


「でも……あたしの力が、あたしの進む道を作るってんなら、躊躇ってなんかいらんないっ! みんな!」


 ぐっと親指を立ててみせる。


「あたしに着いてきなっ!」


 これを俗に『自棄ヤケ』と言う。


「さっすがイツカだね! 変なトコ前向き!」


「リロ! 言葉を選ぼう!」


 その後、少しの休憩を経てあたしを先頭に隊列を組んだパーティは、すいすいと部屋を渡り歩いていく。


「危険感知、クリア!」


「クリア!」


「この部屋も消えた、クリア!」


「あははははははは。非常に複雑な気持ちですが、よしとしよう……」


 しかし、この立方体の迷宮をクリアできることとは話が別だった。


 さっきの無限回廊みたいに1km近い広さがあるような感じはしないけど、それでもこの迷路は相当広く出来てる……!


「どこかの端に出口があるとも限らねぇからな……」


「全体の真ん中に階段があったりするのかしらね……」


 などと言いながら、罠のある部屋を横切っていた時……!


「待って!」


「え?」


「危険感知が消えてない……! みんな注意して! センサー型じゃないわ!」


 かちっ!


「ぬっ!!」


「そこの粗大ゴミ、今何踏んだ!?」


「うむ! 何かのスイッチを!」


「胸張って言うな!」


「あ、あたしがちゃんと踏んでなかったからかなー……」


「ジルバの間の悪いのは今に始まった事じゃないし……」


「いつもながらすまない……! 今、どくぞ!」


「ちょっ……それダメっ!!」


「全員警戒しろっ!!」


 果たしてジルバが足を上げた瞬間、周囲の景色がぐにゃりと歪み、そして……!




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