第62話 「どうして頼ってくれないんですか!」
背中に重い衝撃。
何かに覆いかぶさられたかと思ったら……。
「イツカっ! 見つけた、見つけましたっ!!」
「っ……!? マキュリ!」
振り返ってまっすぐに顔を見つめる。
「はいっ! マキュリ・ソーリアです!」
……うん、間違いなくマキュリだ。その可愛い顔と民族衣装みたいな服。何よりその返事が。
緊張の後に、見知った顔に出会えてあたしはひとまずホッとする。
でも、当のマキュリは、あたしを責めるような、悲しそうな目で、訴えるようにあたしに言葉を続ける。
「こんな事だろうと思いました! 一人で威啓律因子を探していたんでしょう!?」
「えっ!? ……う、うん」
「どうして頼ってくれないんですか! 私は聖謐巫女です、威啓律因子を勇者様にお届けするために、このお役目につきました! 子供の頃から、ずっとその瞬間を夢見て生きてきました! 私の死んだ母さんも、お婆様も! その更に前の、代々の巫女たちも!」
「っ……!」
「その役目を果たせなければ、私はこの役目にある意味がないんです! 歴代の聖謐巫女たちの魂が浮かばれないんです! そしてそれ以前に!」
と、マキュリは一層悲しそうな、不安そうな目になって、あたしから視線を外しながら。
「私はイツカを友達だと思ってたんですが、それはやっぱり、おこがましい事だったんでしょうか……」
「あ……」
あたしはそれを言われて、どきりとするしかなかった。
あたしは誰かの役に立とう、してしまった失敗はとりもどそうと、いつも必死になっていた。
それをすべて背負いこんで、何とかして――それが正しい事だと思ってきていた。
でも、もしも自分がそれを見る立場になったらどうなるだろう?
もしもその相手の取り戻そうとしている事が、自分の得意分野だったら。……手を貸してあげたくなるのは当然じゃないか。
そんな時、友達なら、友達同士で笑い合うために何をすべきなのか――あたしはこれまでの人生で見てこなかった。
もちろんそれはあたしにとって、いわば『浄化の儀式』ではあったかも知れない。
元の世界で、琴海たちもそう考えてくれていたようだった。
でもその儀式に人を入れてはいけないなんて、自分の勝手な思い込みだったんじゃないのか?
琴海たちも本当は手伝ってくれようとしてたんじゃないのか?
琴海はいつだって言っていた。
◆
「全部背負う事ないんだよ? あたしに出来る事があったら何でも言ってよね!」
◆
そして、この世界でだって、プルパやリロも言ってくれてた。
◆
「プルパも、リロも……多分ランもジルバも、『究極不器用』で起きた事は、ちゃんとどうにかしようって考えるんだし……」
「え……」
「うんうん! それが仲間だもん! ねー、プルパ!」
◆
あたしは、一体何を見て、何を受け止めて、自分の失敗を取り返そうとしていたんだろう。
大切なのは、壊したものを『一人で』元に戻すことじゃない。
あるべき形に、最善の手段で元に戻すことなんだ……。
「ゴメン……ゴメンね、マキュリ。あたし、自分の事ばっかりでマキュリの事、何にも考えてなかったよ……」
「ううん、いいんです。ただ、頼ってください。それでいいんです。迷惑なんて思わない、それが喜びの人だっているんです! 私はそういう役目の人間であり、そもそもそういう子なんです」
諭すように微笑んだ後、マキュリはまた、少し沈んだ表情になって。
「ごめんなさい……実は昨日いろいろお話してる中で、イツカが威啓律因子を探しに行くなら、一緒に行きましょうって言うつもりだったんですけど、ドタバタしてて、タイミング失っちゃって……」
「ううん、こっちこそ。人にものを頼むのが苦手だから、前の世界でも変な遠慮するなって、よく言われちゃってたんだ。……マキュリ、改めて、お願い。威啓律因子を探す時は一緒に来てくれる?」
「はい! もちろんですよ、勇者様!」
それで、マキュリはようやくいつもの笑顔を取り戻してくれた。
しかし、その時だった。




