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第47話 「お気持ち、分かります」

「わかったマキュリ、任せておいて!」


「え? え? 何をですか?」


 あたし自身は、なかなか気持ちの切り替えが難しい性格なんだけど、物を壊してしまったことを許してもらって、しかもできることが目の前にあるのにくすぶってるなんてのは、なおの事できない性格なんだよね。


「今度は、あたしが必ず見つけてみせるから」


「……威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを、ですか!?」


「そだよ」


「だ、ダメです! ファバロはただ山頂まで登るだけなら緩やかですが、広い山のどこを飛んでいるか分からない威啓律ヴァーチュー・因子アーカイブスを探すためには、危険な所まで入り込む必要もあったりするんです! そんな所へ勇者様を行かせるなんて……!」


「壊したものを元に戻せる。それができるなら、あたしは必ずそれをするの」


「……勇者様?」


 あたしの少し神妙な声に、マキュリが耳を傾けてくれる。


「あたしはね、なんだろ……この世界でいうところの呪い、かな? そういうのを生まれつき背負ってるみたいなんだよね」


「呪いですか?」


「手に持ったものを壊しちゃう呪い」


「え? ぁ……そ、それが、さっきの……」


「多分、間違いなく出たと思うよ」


 出てないかもしんないけど、話の都合上、ぼやかして『出た』事にした方がいいと思われ。あたしにも分かんないし。


「それが出て物を壊しちゃうと、いっつも塞ぎ込んじゃうんだけど、それを解決するために一番いいのは、自分で壊したものの元の形を取り戻すことなんだ。『直す』とか、今回なら『見つける』とか。儀式と言ってもいいかもね」


「あ……」


 儀式って言葉に、マキュリは敏感に反応した。

 ファンタジー異世界の人たちならでは、って感じかな。


「だから、やらせてほしいの。あたしは自分の世界にいた時は馬に乗れなかったから、さっきは見事に無様だったけど、勇者として、ちょっとはやれるってとこ、見せないとね」


「……わかりました」


 少し釈然としない部分もあったとは思うけど、マキュリは頷いてくれた。


「お気持ち、分かります。自分でやっちゃった事だから、自分で何とかしなきゃって思う事は、いくらでもありますもんね」


「うん。……ごめんね、こんな勇者で。マキュリも、村の人たちも、一斉に幻滅させちゃったでしょ」


「村のみんなのことについては分かんないです。でも」


「でも?」


 と、マキュリはそこで、少し思い出すように視線を川の向こうの森の景色へと向けた。


「私……子供のころから、700年前の魔王に立ち向かった勇者様のお話を聞かされて、それにすごく憧れていたんです」


「あ、やっぱりそういうお話、残ってるんだ」


「はい! 人々の危機を救うために現れて、色んな困難に立ち向かって王国の礎を築いて人々に勇気を与えて、そして魔王討伐に向かう英雄たちのお話。私はそれに、いつも勇気をもらっていました。子供の頃は、勇者様のマネをして棒っ切れを振り回したりもしてましたよ」


「へぇ! ……そっか、マキュリって巫女って割に、なんだかアクティブだもんね」


「あはは、ちょっと恥ずかしいですけどね」


 やっぱり、700年前の勇者の話は物語としてこの世界に浸透してるんだ。

 まぁ、分かりやすいし、女王様の話を聞く限り、わくわくする部分もいっぱい出てくるとは思う。


 でも。


「でも、その……700年前の勇者達は……」


「はい、分かってます。魔王の討伐はできなかったと。……でも、この話はそういう終わり方じゃないんですよ」


「そうなの?」


「はい。かの勇者様たちは、王国の基礎を今に築き、いずれ必ず来るだろう新たな勇者の到来のために、人々の生きる営みの基盤を作り上げた。みんな、その遺志を受け止めて、決して諦めずに生きていこうって。そういうお話なんです」


「……もしかしてそれって、あたしにめっちゃ期待がかかってるって事では」


「あー、うーんと、えーと、えーと」


「あぁ、ごめん! 困らせるつもりはなかったんだけど」


 子供が憧れるお話からこんなんだもん。

 そりゃ来た瞬間、いやでもあたしの肩にこの世界の人々の期待がのしかかるってわけで。


「勇者様って、その……人の過度の期待に応えることは、やっぱりお好きじゃないんですよね?」


「うん」


「やっぱり、そういう方なんですよね」


 そう口にするマキュリは、もちろん蔑む風ではなく、逆になんだか満足したような笑顔を浮かべて、言葉を続けた。


「このお話の締めくくりを考えれば、私も、やっぱり勇者様が魔王を討伐してくださる。きっと私も勇者様という方はそうあられる方なんだと――それが当然だと思ってました」


「まー、そーなっちゃいますよね」


「ですね。でも、私は今は違うんですよ」


「ちがう?」




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