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君という名のギフト(改訂版)  作者: 睦月 葵
サード・ステージ
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この物語を読んでくださった『君』に

 多くの人が、一度は考えたことがあると思う。


 毎日、様々なものが自分の手から(こぼ)れ落ちて行く。

 形あるものは壊れる。

 生命あるものは失われる。

 家族も、友人も、愛しい人も、いつかの日には居なくなってしまう。

 欠けて、失っていくばかりの人生ならば、何故生まれて来たりするのだろう?───何故、生きて行かなければならないのだろう?


 そんなふうに語る、文言も作品も多いことと思う。


 失うばかり───繰り返し失ってしまうばかり。

 その度に、心も魂も()り切れてしまうのに、何故生きなければならないのだろう?


 わたしもまた、そう考えていた頃があった。

 作中で語った子供の頃もそうだ。作品に関係しないので語らなかった部分のトラウマで、わたしは女性としても欠陥品で、結婚も出産もしなかった。何も生み出さず、失ってしまうばかりの人生ならば、何故?───と、どのくらい考えたかしれない。

 それでも何とか生きて来たのは、幼いわたしを護ってくれた人との約束があったからに過ぎない。『自殺だけはしない』とそう約束したのだ。

 その約束に(すが)るようにして、何とか生きて来た。


 けれど、或る日突然、ふと思い至ったのである。

 確かに、失うばかりの人生かもしれない。けれどわたしは───我々は、そんなにも失うものばかりを持って、最初から生まれて来たのだろうか?


 それは───ない。

 どんな生まれだったとしても、そんなにも多くを抱えて生まれて来た筈はないのだ。


 自分が気付かなかったどこかで、与えられていたものがある。

 家族に、友人に、見知らぬ他人に、別れてしまった恋人に、ニアミスをした他の生き物に、伴に暮らした小さく・温かな生き物たちに、与えられたものがあった筈なのだ。

 だからこそ、失い続けても尽きない何かがあるのだと、わたしは思っている。それこそが、我々に与えられた贈り物なのだろう。

 個人的見解なので、聞き流してもらっても構わない。でも、出来る事なら、少しでも心に留めておいていただけたらと願う。


 長い時間の中で降り積もって来た沢山の事柄に関して、わたしはグレちゃんから明快な回答をもらった。そして今は、グレちゃんから───他の沢山の人々からもらったものを、少しでも多く返したいと願い、可能な限りそのように行動している。


 この世は苦界───それでも、生きるに値する世界なのだと。

 世界のどこかに居る『君』に、幸せになって欲しいのだと。


 いつか、この作品を読んでくださった方々に出会う日があることを、心の底から望んでいます。

 そして、出会うことがなかったのだとしても、『君』の幸せを心から願っています。


 どうか───どうか、幸せになってください。


 作中のグレちゃんが亡くなってから準備を始め、昨年の夏頃から本格的に書き始めたこの物語も、今回で三度目の校正、そしてこれ以上の改稿はないと思います。

 改めて、全文を読み返し、何かもっと語りたいことがあったような、もうこれ以上語ることはないような、何だか不思議な気持ちでいます。

 すべてがノンフィクション故に、読み手の皆さまが知りたくないエピソードもあるかと思いますが、どうかご容赦ください。良い事も悪い事も合わせてのこの物語なのです。そして、拙作を読んでいただき、何かを感じていただけたら幸いです。

 最後までお付き合いいただいて、本当にありがとうございます。

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