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「兄貴のことで、一つ聞きたいことがあるんだ」
「竜明の? 私はあの子に最近会っていませんが……」
「いや、現状の話じゃなくってさ。昔のことについて確認したい。……母さんが答えにくいことを聞くかもしんなけど」
「あらあら、気にする必要はありませんよ。さ、遠慮なく尋ねてください」
頼りにされているのが嬉しくて仕方ないようで、母は前傾姿勢になっている。
思えばこの人は、昔からそうだった。
明確な自分を持って、その役割が果たされることを喜んで。視点を変えると冷徹に見えるぐらいだが、そんな母を俺は好ましく感じていた。
まあ子ども扱いするレベルにまで達する場合もあるのは、さて置いて。
「俺と兄貴がよく遊んでた頃、あの人本当はどう思ったんだ? 俺のことをさ」
「……」
母の顔に明らかな影が差す。
この時点で回答は見えたようなものだが、俺は変わらず踏み込むことにした。
「頼む母さん、教えてくれ。俺と兄貴が喧嘩してるの、知ってるだろ?」
「……竜明は、貴方を抹殺するべき対象として認識していました」
聞いて、やっぱりか、と相槌を打つ。
心の中にあったつっかえも、少し取れたような気がした。
「あの子は生まれてすぐ、始祖魔術に高い適性を見せました。周囲はそれを持てはやし、彼も応えるために生きてきた。いえ、応えることしか考えなかった」
「それを、俺が?」
「いえ、そうではありません。始祖魔術による適性は、誠人の方が低かった。継承の儀式を行った時ですらそうでした」
「じゃ、じゃあ――」
「夫があの子を後継者に選ばなかったのは、単に人格の問題です。……誠人は知らないでしょうが、竜明は若いころから非行を繰り返していました。人の命を奪ったこともあるそうです」
「――」
「もっとも、発覚したのは魔術の継承者を決定する直前でした。もう少し早く分かっていれば、貴方達がいがみ合うこともなかったでしょうに……」
目を伏せながら告白する母は、遠い過去を見つめているようでもある。
俺の方はというと、同調する感情は湧いてこない。清々しくすらある気分で、白い天井を見上げている。
「さんきゅ、母さん」
「は?」
「兄貴は紛れもなく敵だって分かった。……俺の所為でああなったんじゃないかって思ってたけど、全然違ったんだな」
「気掛かりでしたか? 貴方が始祖魔術を継いで、竜明が変わったのではないか、と」
「そりゃあ少し。でも今ので心が晴れたよ。然るべき場所にきっちりぶち込んで、長々と反省してもらうさ」
「たとえ、殺すことになったとしても?」
「――ああ」
彼の在り方を許すことは、俺個人として難しい。
俺と兄貴は相容れない。なら最後まで敵として、憎悪を向け合う対象で構わない。
祈ることがあるとすれば、戦い甲斐があるかどうか。




