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「彼は多分、魔力酔いが原因で体内に神霊石が出来てるの。これは当然、魔力を吸って成長するから、あんな風に身体へも影響を及ぼしてる」


「どうして兄貴は、重度の魔力酔いを? 神霊石に関わる仕事とか、してないッスよね?」


「うーん、これは私も日暮から聞いた話なんだけど……彼、始祖魔術を身につけるために大量の神霊石を確保してたらしいのよ。莫大な魔力を使えば、始祖魔術を自分でも使えるんじゃないかって」


「そ、そんなの、成功するわけ無いじゃないッスか」


 始祖魔術は儀式を通して移植するものだ。俺だって父が亡くなる直前、それを通して力を得ている。

 竜明の行動は、原理を部分的に実行しようとしたモノに過ぎない。


「――ともあれ、そこから魔力酔いを起こしたんでしょう。わずか数時間で身体に出てくるなんて、私の知る事例では始めてだけど」


「……そもそも、魔力ってなんなんスか? 人体に有害だとしか思えなくなってきたんですけど」


「そう? 普通の日常生活だって、栄養を取り過ぎれば太ったり、肥満になったりするでしょう? 魔力も同じようなものよ。魔術師における栄養っていうか」


「大気中に漂ってるんでしたっけ? 魔力」


「一般的にはそう言われてるわね。で、魔術師にはそれを取り込む特殊な器官があるとか何とか。……まあこっちの世界じゃ魔術の研究はほとんど止められてるから、確証は言えないんだけど」


 機甲都市ならねー、と腕を組みながら湊は零す。

 魔科学や過去の世界大戦から、魔術の研究は大々的に行われないのが通例だ。

 始導院家を始め、貴族系の魔術師に例外があるぐらいだろう。彼らの研究、実験は他の貴族より上に立とうとする動機があり、公表はまずもって行わないからだ。


「……このまま症状が進んだら、どうなるんスか?」


「そのまま神霊石になるわね。精神が残ることもないでしょう」


 つまりは、死。

 真っ先に沸いてくるのは、悲観という一般的な感情だった。憎い相手なのに、嫌っている敵なのに、助けてやりたいと思う自分がいる。


「言っておくけど誠人君、彼を助けるのは不可能に近いわよ?」


「? そりゃあ、治療法がないから当然じゃ……」


「じゃなくて。彼、町のど真ん中で事件を起こしたのよ? 以前からテロ組織との繋がりは指摘されてたし……魔術都市の上層部も、さすがに黙っちゃいないでしょうね」


「……」


 そこは納得しなくちゃいけない。俺が都市を納める立場でも、絶対に彼のことは逃さないだろう。

 今は感傷を抑えつけるのが、一番の薬になりそうだ。


「さ、帰りましょうか。車の中で紫音も待ってるし」


「そうッスね。学校だってありますから」


「……明日は創立記念日でお休みだけど? ホームルームで私は言ってこと、聞いてた?」


 汗が出る。その時間、俺は見事に居眠りしていたからだ。

 担任教師から突き刺さる、蔑みの目。

 少し日常の空気を感じながら、俺は紫音が待つ車へと向かい出した。

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