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魔術都市ヴィーヴルを循環する電車に乗って、俺は目的へと向かっていた。
時刻はすでに放課後で、太陽の光は順調に沈み始めている。学生達にとっては部活動を始め、自由な時間へとシフトしていた。
電車の中には下校途中の生徒も数多くいる。俺達の姿も、別段違和感はないだろう。
肩越しに振り向けば、魔術都市の町並みが目に入る。
ビル群の目立つ、近代都市としては定型的な光景だった。地上には大勢の人々が闊歩している。
「ねえねえ先輩、あれ何?」
「ん?」
その中で、異様に目立つ要素が一つ。
空を飛んでいる箒だ。アニメに出てくる魔法少女よろしく、縦横無尽に空を飛び回っている。
もっとも、その外見は本来あるべき箒からかけ離れていた。
形状はバイクに近い。ハンドルがあって、シートがあって、足を乗せるフットレストがある。今は点いていないが、ヘッドライトも完備だ。
全体は金属で覆われ、なんだかSFっぽい印象がある。……正直、箒と呼ぶのには抵抗感が大きい。
「ありゃあ機殻箒だよ。近代魔術師の乗り物だな」
「ふうん……免許とかあるの?」
「いや、無いぞ。まあ動かすのにそこそこ魔力使うから、それが免許代わりだな」
「なんか事故とか怖そう……」
「ほとんど起こってないらしいけどな。ある程度の高度を取るのが最低限決まってるから、歩行者とか車にぶつかる心配もなし」
「へえ……」
俺も一度だけ乗ったことがあるが、そこまで好きではない。そもそも自分で飛べるし。
だが空を見ての通り、機殻箒は一定の需要がある。
主な購買層は確か、元貴族。車や普通のバイクを使うことに嫌悪感を示していた彼らは、自分達だけの移動手段として機殻箒を作ったそうだ。
我が家にあったのも、その繋がりだと聞いている。
「ってか、眠い……」
「んもう先輩、我慢しなって。あとちょっとで降りるんだからさ」
「到着したら起こしてくれ……」
「いやいや、そんな暇ないって」
俺の眠気を覚まそうと、紫音は必死に揺さ振ってくる。周囲の注目を集めているのが少し恥ずかしい。
「うふふ、仲の宜しいこと」
そんな二人を横目に見ながら笑うのは、保護者でもある湊だった。
仕事に直接関わっているわけではないが、案内役として同行している。今から向かう場所は厳重に封鎖されており、湊がいないと通してくれないそうだ。
「えっと、何を壊しに行くんだっけ?」
相変わらず俺を揺さぶりながら、紫音は湊へと尋ねていた。
「神霊石、っていう魔力を宿してる石よ。ヴィーヴルから外に流れ出すと困るから、発見し次第破壊してるの」
「魔力って、魔術の元になってるエネルギーだっけ? その結晶だったら、有益なんじゃないの? ここらへん、魔術の都市なんだし」
「それがそうでもないのよ。機甲都市の方に密輸してる連中がいるらしくてね」
「み、密輸?」




