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養子に出た妹が誘惑してきて、妹だなんて忘れたい  作者: 軌跡
第三章 日常に牙は潜む
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 魔術都市ヴィーヴルを循環する電車に乗って、俺は目的へと向かっていた。

 時刻はすでに放課後で、太陽の光は順調に沈み始めている。学生達にとっては部活動を始め、自由な時間へとシフトしていた。

 電車の中には下校途中の生徒も数多くいる。俺達の姿も、別段違和感はないだろう。


 肩越しに振り向けば、魔術都市の町並みが目に入る。


 ビル群の目立つ、近代都市としては定型的な光景だった。地上には大勢の人々が闊歩かっぽしている。


「ねえねえ先輩、あれ何?」


「ん?」


 その中で、異様に目立つ要素が一つ。

 空を飛んでいる箒だ。アニメに出てくる魔法少女よろしく、縦横無尽に空を飛び回っている。


 もっとも、その外見は本来あるべき箒からかけ離れていた。

 形状はバイクに近い。ハンドルがあって、シートがあって、足を乗せるフットレストがある。今は点いていないが、ヘッドライトも完備だ。

 全体は金属で覆われ、なんだかSFっぽい印象がある。……正直、箒と呼ぶのには抵抗感が大きい。


「ありゃあ機殻箒ヴァルプギスだよ。近代魔術師の乗り物だな」


「ふうん……免許とかあるの?」


「いや、無いぞ。まあ動かすのにそこそこ魔力使うから、それが免許代わりだな」


「なんか事故とか怖そう……」


「ほとんど起こってないらしいけどな。ある程度の高度を取るのが最低限決まってるから、歩行者とか車にぶつかる心配もなし」


「へえ……」


 俺も一度だけ乗ったことがあるが、そこまで好きではない。そもそも自分で飛べるし。


 だが空を見ての通り、機殻箒は一定の需要がある。

 主な購買層は確か、元貴族。車や普通のバイクを使うことに嫌悪感を示していた彼らは、自分達だけの移動手段として機殻箒を作ったそうだ。

 我が家にあったのも、その繋がりだと聞いている。


「ってか、眠い……」


「んもう先輩、我慢しなって。あとちょっとで降りるんだからさ」


「到着したら起こしてくれ……」


「いやいや、そんな暇ないって」


 俺の眠気を覚まそうと、紫音は必死に揺さ振ってくる。周囲の注目を集めているのが少し恥ずかしい。


「うふふ、仲の宜しいこと」


 そんな二人を横目に見ながら笑うのは、保護者でもある湊だった。

 仕事に直接関わっているわけではないが、案内役として同行している。今から向かう場所は厳重に封鎖されており、湊がいないと通してくれないそうだ。


「えっと、何を壊しに行くんだっけ?」


 相変わらず俺を揺さぶりながら、紫音は湊へと尋ねていた。


「神霊石、っていう魔力を宿してる石よ。ヴィーヴルから外に流れ出すと困るから、発見し次第破壊してるの」


「魔力って、魔術の元になってるエネルギーだっけ? その結晶だったら、有益なんじゃないの? ここらへん、魔術の都市なんだし」


「それがそうでもないのよ。機甲都市の方に密輸してる連中がいるらしくてね」


「み、密輸?」

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