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第八話:反逆

前回のあらすじ!!



先制攻撃、それ以外に無いだろう。

まずこのランカスター市を奪わないことにはどうしようもない。

まぁ、そこまでは向こうも想定しているだろうけれど。


――エリザベス=ランカスターの手記 1年ごろ

――紀元1年12月、ペルサキス市議会


 一年の終りを迎える冬。

 帝国の崩壊そして独立と、激動の一年を終えたペルサキス王国では、無事に年末を迎えた祭りが連日行われている。

 とはいえ、ランカスターの反乱を警戒し続ける支配層は全く浮かれた気分になれず。

 君主二人も議会に詰めて、気だるい雰囲気の漂う会場でぐったりしていた。


「はぁぁぁぁ……楽しそうだなぁ……」


 ニキアスは盛大にため息を付き、窓から見える民衆の騒ぎに目を細める。

 肩を落とす夫に、妻アレクシアはクスクスと笑った。


「まぁ民は呑気でなんぼですの。特に軍人たちは可哀想ですけれど」


「全くだよ。あいつらのせいでおちおち酒も飲めないとかさぁ」


 ここ三ヶ月ほど、殆どこの件にかかりきりになっているなと頭が痛い。

 いっその事さっさと殴り込んでこい、とすら思うニキアスのところに。


「陛下。デュシス共和国のセルジオス殿から伝令です」


 神妙な顔をして入ってきた、彼の側近。

 内容は聞くまでもないか。とばかりに即答した。


「ん。通せ。議員たちも呼んでおけ」


「はっ」


 そして、すぐに議会が招集され。

 詰めかける議員たちの前で、セルジオスからの伝令が情報を読み上げる。

 共和国の強硬派たちが、視察と称して中央大平野に向かったこと。

 ランカスター市と隣接する砦に、支援物資を送るように採決が取られたこと。

 いよいよか、と頭を抱える議員たちもいる中、ニキアスとアレクシアは何度か頷いた。


「……以上にございます」


「よろしい。向こうはやる気満々のようだが、開戦に異議のあるものは?」


 進んで取り仕切るニキアス。

 軍政に全ての責任を負い、勝利し続けた国王に、戦争において反対する者は誰もおらず。

 速やかに戦時体制の議論に移行し、予め用意されていた法案を可決した。

 そしてすぐにバタバタと走っていく議員や官僚たちを尻目に、横のアレクシアが質問する。


「奴らが最速で動けば、今頃ランカスターが落ちていても不思議ではないのですが。偵察はどうですの?」


「今日のは来てない。明日も来なきゃ落とされたってことだろうねぇ。エリザベスは翼竜大隊にも詳しいからな」


 発着場を奇襲されて、斥候が全滅している可能性がある。

 奴らに工事させるんじゃなかったかも。と眉尻を下げた国王は、小さく息をついて決心を固めた。


「アルバートがいようが、エリザベスが率いていようが。どうせウチより旧式の軍隊だ。さっさと終わらせて終戦祝いにしよう。今度こそ美味い酒が飲みたいしね」


「……そういうの、あんまり縁起が良くないですわよ?」


 若干引きつった顔で、アレクシアはため息をつく。

 そんな姿を見てか、ニキアスも少し苦笑いをした。


「まぁもちろん、向こうのが兵力がある可能性はあるよ。ただ、そのハンデを埋める兵器はいくらでもある」


 全員産まれながらの兵士であるようなランカスター人を相手取るとして、ペルサキスの正規軍だけでは確かに数は足りない。

 しかし、先の戦争が終わってからも量産し続けていた消術鎧や、皇帝の兵器工廠から押収した新型ドラグーン。

 その他にも多数の手札を抱えるペルサキス正規軍は、質の面でこの時代では群を抜いていた。


「……呪文爆弾も使用して構いませんわよ」


「あぁ、いいんだ。君のことだから使うなって言うかと思った」


「今回、ランカスター人を生かして残すつもりはないので。文字通り鏖殺するためですわね」


 その、ニキアスが挙げた手札の中に入っていない、非人道兵器がアレクシアの口から出る。

 前回は不死の軍団と戦うためであり、普通の人間に使うのは本当に渋々といった表情で。

 ただ彼は、若干嬉しそうな顔をした。


「皆殺しは得意分野だよ。任せといてくれ」


「物騒ですわねぇ……まぁ、困ったらアトラースも出して降らせますの」


 呆れた顔のアレクシアは、困ったら出す切り札として何個か新兵器を出す準備をしている。

 この時代より百年は後に再度産まれる、毒ガス兵器の原型。彼女の作った薬の成分を抽出した煙をばらまき、一時的に敵を行動不能にするものや、錯乱状態に陥らせるもの。

 実戦で使うのに気乗りはしないが、貴重な人体実験のデータを取る事ができるもの。

 それを降らせると言う彼女を、ニキアスは一旦止めた。


「君を前線に出す気は今のところはないよ。本当の決戦はランカスター市ではなく、中央大平野だし」


 ふむ。と顎に手を当てて、アレクシアが少し考える。


「まぁ見てなって。そこまでは押し返してやる。極力国内で、君の作ったろくでもない兵器達は使わない……それが僕の、国王の仕事だろう」


 自信満々に言い放つ彼にもまた、きちんとした準備と自信があった。



――中央大平野=ランカスター市街道



 かつて彼自身が、帝国宰相ソロンからランカスターを守るために立ちふさがった街道。

 そんな事を思い返しながら、アルバートは兵を率いて立っていた。


「さあ、勇猛なるランカスター人諸君。我々はこれより、我々自身の国を奪還する」


 彼の身体から滲み出る黒い瘴気が濃くなり、付き従う兵士達の顔から正気が消えてゆく。

 恐怖を麻痺させ、衝動を駆り立てる魔法の霧が理性を破壊し、欲望を増長する。


「ここでの防衛戦を覚えているものがいれば、安心して欲しい。市街への道はすべて、あの時とは違い完全に整備されている。我々はこの道を堂々と通行し、我が国へと帰るだけだ。ペルサキスの雑魚どもを蹴散らし、我らの誇りを踏みにじったことを後悔させるだけだ」


 演説が淡々と、じわじわと染み渡ってゆく。

 狼の遠吠えのような雄叫びを上げる兵士たちに混じって、一人の少女が不気味に笑った。


「良いぞ、我が主! それでこそあの悪魔アストライアを斬り伏せた者だ!!」


「……エクスカリバー。お前また勝手に外に出てたのか」


 その身体は、どこにでもいるような少女。

 この剣と来たら、あの女神と会ってから随分自由になったもんだとため息をついて。


「あの、女神……? 誰のことだ? ここは? そもそも俺は何故?」


「どうした、我が主よ。ともに願いを叶えようと言ったではないか」


「そうだったか? エクスカリバー、何か俺はとんでもないことを……」


 ほんの僅かな瞬間、アルバートに纏わり付く瘴気が消えてゆく。

 目を瞑り、慌てたように記憶を取り戻そうとする彼に向かって、少女はおろおろと手を振った。


「おっと! 我が主よ。少し落ちつたほうがいいぞ?」


 少女の顔が大きく歪み、耳まで裂けた真っ赤な口が彼の耳元で囁く。

 優しく。穏やかに。甘い声がアルバートの脳に染み渡った。


「我らはあのアレクシアからランカスターを取り戻し、我が主の王国を作る。そう願ったではないか」


「俺の、願い……俺の……」


「そうだ。我が主の願い。そして我の願い。ともに同じ願いを持った者同士、どこまでもともに行こうぞ」


 そして少女の身体で、頭を抱えるアルバートを優しく抱きしめて。

 よしよしと頭を撫でると、拒絶しようとガクガクと震える彼を包んだ。


「なぁ、我が主。我はお主のことを愛しているのだ。だからこそ、我はお前の願いを叶えたいのだぞ?」


「エクスカリバー……お、俺は……」


 震えながら血を吐き、旧き願いのユースティティアの力から逃れようとする。

 そんな彼の不可解な様子を、一人の男が見つけた。


「お、おいアルバート、どうした? そのガキはどこから……?」


 数千人のランカスター人の狂気の中、ただ一人正気を残して。

 自らの願いとアルバートへの信頼のもとで、この戦に参加するジョンソン。

 彼は指導者がいきなり震えて倒れたことに。そして見たこともない少女が彼を抱きしめたことに気づき、慌てて駆け寄った。


「ジョ、ジョ、ジョンソンンンン」


「チッ……願いが弱いものが居たのか。それとも強すぎるから耐えられているのか。我が主と我の愛に口を出すでないぞ?」


 ガチガチと歯を鳴らしながら、アルバートが名前を呼ぶ。

 少女は舌打ちをして、ぐるんと首だけがジョンソンの方を向いた。


「……お前、何者なんだ?」


「ふはは! よく聞いてくれた! 我が名はエクスカリバー!! 王を選ぶ剣なり!!」


 恐怖を覚え、どさっと尻餅をついた彼に。

 少女は手にした剣を掲げ、高らかに名乗った。


「エクスカリバー? 何を言ってんだこのガキは」


 なんだ、こいつ? という感想が先に出た。

 理解できないジョンソンに、少女はくすくすと笑いながら告げる。


「くくっ、別に信用する必要はないぞ、ジョンソンとやら。既に貴様たちは我が主に命を投げ出し、財を捧げ、死して尚仕え続ける従者だからな! さあ、安心して死ぬがいい!!」


 そしてエクスカリバーの切っ先を向けると、真紅の刃が彼の首元に向かって伸びて。

 言葉も出ずに、必死に後ずさるジョンソンの前で。


「やめろ」


 アルバートが、その刃を握りしめた。


「やめろと言ったぞ、この駄剣が……!!」


 ぼたぼたと、血と瘴気を垂れ流しながら、彼は唸る。

 ジョンソンは慌てて立ち上がり、少女は引きつったように笑って。


「ふはは……すまん! だが、元に戻ってくれて嬉しいぞ! 我がごふっ!」


「ひっ……あ……アルバート、お前、どうしたんだ?」


 アルバートは少女を殴りつけ、華奢な身体が宙に舞う。

 そちらには一瞥もくれず、彼はジョンソンに言った。


「気にするな。持ち場に戻れ。進むぞ」


「お、おぅ……」


 そして彼に命令を下し、進軍を再開する。

 しばらくしてとてとてと、少女がアルバートに走り寄った。


「すまない、我が主。あの男が我が主の友だったとは」


「貴様は我慢を覚えろ。……ん? 壊れたか?」


 しゅんとした声の、少女の首がグラグラと揺れる。

 骨が折れたようで、人間だったら死んでいたなと。

 むしろ死んでくれたほうが大人しくて助かるのだが。と小さくため息をついた。


「あぁ、別にその辺で借りた身体だから気にするな! 新しいのが欲しいぞ!」


「別に帝国人のならいくら壊しても構わんが。大事に扱え」


「我が主が壊したのではないか!! まぁ今度はもう少し我が主好みの身体にしよう」


 グラグラと揺れる顔を、ぷんぷんと膨らませて。

 エクスカリバーは新たな身体を探す。



――ランカスター王城



「ペルサキス家とか……王国官僚の皆さん。何か言い遺すことは?」


 エリザベスと、今やランカスター独立運動組織に変わったスコルピウスの面々。

 彼女たちは王城の一室にペルサキス家の人間たちや官僚を監禁し、ドラグーンを突きつける。

 かつて一時的にこの地を治めていた、ニキアスの叔母ニケにも仕えていた官僚が震えた声を出した。


「エリザベス、こんな事をして何になる。ランカスターの独立などと、まだ夢を見ているのか?」


「その通りよ。王国の体制が固まったら何も出来ないし、チャンスでしょ?」


 ふふん。と鼻を鳴らして。

 エリザベスはあざ笑うように告げる。既に腹は決まっているからこうしたのに、なぜ説得をしようというのか。

 馬鹿馬鹿しいと思わず頬が緩んだ。


「馬鹿が! ニキアス陛下がどうするか分かっているだろうが!」


「分かってるわよ。あんたらを人質にしても、ニキアスはあんたらごと殺しに来るってことも」


「我らの命は見捨てるだろうさ、ニキアス陛下は。だがペルサキスの誇りのために……」


 折角、遺言くらいは聞いてやろうと思ったのに。

 そう、小さく呟いたエリザベスはおもむろに手を上げて。


「うるさいわね。特に何もないなら、さっさと殺しましょ」


 すっと手を下ろすと、ドラグーンの悲鳴が響き渡った。

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