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第六話:負け戦

前回のあらすじ!



ミランという女に出会って一ヶ月ほどになる。

ミラクの女王の遠い親戚と名乗っていたが、随分胡散臭い女だ。

俺たちスコルピウスに協力を申し出てはいるが、彼女の目的がわからない。

帝国の打倒を考えているというわけでもなさそうで、何かと姿を消しては情報とともに帰ってくる。

西側諸侯の貴族も彼女の事は信用しているようだが、俺にはあまり……


――アルバートの日記 帝国暦99年5月30日

――帝国暦99年4月中旬、ペルサキス領、アレクシア大学

  ちょうど首都でアルバートとミランが出会った頃、実験室で狂気の笑いを浮かべる研究者が一人。


「ふひひ……飛石の斥力と電力消費の相関については完全にデータが取れましたわ……次は一単位あたりの有効範囲と……斥力限界を……」


 和泉国の使者との謁見以来二週間ほど引きこもって、アレクシアは不眠不休で実験に明け暮れていた。

 プテラノドンはあくまで風魔法を利用したグライダー、しかしこの飛石を使えば船ですら空を飛ばせる。斥力の有効範囲についても船底に大量に配備すれば……などと、おそらく自分の雷魔法を応用した飛行船が作成できると踏んだ彼女。

 どうせ仕事なら官僚でもできるでしょと報告書だけ送るように言いつけた為、実験室の外に山と積まれた郵便は後で見ればいいやと完全に放置していた。

 しかし突然、彼女の背後の扉……閂で厳重に封鎖された鋼鉄製の分厚い扉がぶち破られた。


「アレクシア!!! 何をしている!!! 城に戻るぞ!!!」


 ひぇっ! と心臓が飛び出るほど驚いたアレクシアの体が宙に浮く。

 気づいたときにはニキアスの肩の上。焦ったように走る彼の肩にぶら下がったアレクシアは、何が起きているのか訪ねた。


「皇帝にシェアトが捕まった。もう五日も前の話だ。知らせが届いたのは三日前。君が引きこもっていたのでね。あまりに出てこないから扉は壊させてもらったが」


 ニキアスは苛々とした口調で話す。

 アレクシアはそんな彼の様子よりも、シェアトが囚えられたということに驚いた。


「シェアトが? なぜ?」


「聖女とやらの部屋に侵入したそうだ。何をしていたかは知らんがね。ペルサキスは無関係と言って、信じてもらえるとは限らないな」


 ふうむ。とアレクシアは顎に手を当てて、頭を切り替えて考える。

 友人ではあるし、なるべく助けたい……

 調査を依頼したのは事実だが、大胆に侵入するとは。しかし流石に違法行為を働くのは自分たちの預かり知らぬところ。どうしたものか。と頭を悩ませる。


「ウチで助け舟は出せませんわね。悲しいことに。まぁでも連合国の中で解決してもらうことはできなくもない……ですわねぇ」


 ニキアスはそれを聞きながら馬に飛び乗る。

 またがった衝撃が肩にぶら下がるアレクシアの腹を直撃し、彼女は潰れたような鳴き声を上げた。


「向こうの内々でってことか。つまりこっちとしては行き帰りの手配はしてやれるわけだな」


「えぇ…っ…こちらの落ち度になるのは…っ…避けたい…っ…訳ですし…っ…降ろしてくださる……?」


 馬の振動に合わせて腹が痛む。

 ニキアスはやっと気づいた様子で彼女を前に抱きかかえ、会話を続けた。


「アルフェラッツ王も、首都に潜入していた『ミラクの女狼』とかいうのに依頼したとは言っていたが、そいつの支援をするってことでいいな?」


「あら、そこまで進んでいるんならいいと思いますわ。あれ、これわたくし出る必要ありますの?」


 大学に戻して欲しいなぁ……と上目使いでニキアスに問いかけると、彼は真剣そのものの表情で、叱るように言葉を放つ。


「いいかアレクシア、今僕らは皇帝に疑われてるんだよ。隻腕の聖女の暗殺を図ったってね」


「まぁ、そうなりますわよねぇ。シェアトはこちらからの使者という建前でしたし」


 結構怒ってますわねニキアス……と、ため息をついたアレクシアは、とりあえず賠償金でなんとかならないかと頭の中で計算してみる。少し考えて、驚いたような表情で彼の顔を見上げた。


「……破産しますわ?」


「だよね。トビイシとか言うのを献上するか?」


「あれはまずいですわ。こちらの切り札ですの。本当に、冗談抜きで。向こうに使い方が知れたら大惨事ですわ」


 困ったな。とニキアスは舌打ちをして、目線を前に戻す。

 ただアレクシアはふと思いついたことがあった。


「ゼノンの身柄を引き渡す、というのは」


「ない。皇帝も処刑については賛成だそうだ」


 ぐぬぬ。と歯ぎしりをするアレクシア。

 弟を切り捨てたか。確かにあの罪状では抱え込めるものでもないなと納得した。


「では、他になんとか……する手段は……」


 アレクシアの頭にひらめいた唯一の解決策。

 既に帝国全土を網羅するリブラ商会の縄張りを、中央貴族の持つ商人に明け渡すこと。

 それを行えば、彼らの説得で皇帝はペルサキスに対する疑いを退けざるを得ない。


「中央以西からのリブラ商会の撤退。実におファックですわ。これしか無い気がしますの」


「……なるほどな。ただ、それをしたら帝国軍の兵站をウチで操作できなくなるぞ」


「いずれ締め出されるとは思いますの。時期が早すぎて泣けますわね」


 仕方ないな。とニキアスは呟いて、アレクシアの提案に賛成する。

 皇帝に恭順しているふりはしなければならない。ただ、それと同時に連合国でこの恩義を利用して、より深くリブラ商会を侵入させることができるはずだと、彼も考えた。



――ペルサキス城、執務室

 


 ニキアスが馬を疾走させて、ペルサキス城に戻った二人はテーブルを挟んで向き合う。

 呼びつけたアルフェラッツ王もすぐに駆けつけ、三者による会議が開かれた。


「娘の不始末は詫びる」


「……まぁ、彼女の協力と天秤にかけまして、こちらからはあまり怒りたくないですわね」


「僕もアレクシアに賛成する。ただ、こちらは相当痛い目を見るわけで、それはそちらにも見てもらいたい」


 アルフェラッツ王は苦々しい顔で同意して、連合国から差し出せるものとして何点か挙げた。


「こちらは皇帝に身代金を支払うから、金はない。代わりに火山で滅んだ……アディル全域を譲る。また、リブラ商会への関税撤廃といったところだ」


「アディルを? 押し付けましたわねぇ」


「……あそこは元来鉱山だ。金の埋蔵量はかなり多い」


「掘れないじゃねーですのよ。いつ人が住めるかもわかりませんし」


 まぁ自分が長生きしてたらそのうち温泉街にでもするかな。くらいしか利用法が思い浮かばず、アレクシアは頭を抱える。

 アルフェラッツ王は彼女の正論に言い返すこともできず、押し黙った。


「……仕方ありませんわね。アルフェラッツ王、金がなければ血で納めろというわけで」


「兵を出せと。皇帝に対してか」


「まぁそうなりますわ。本来であれば我々と不可侵を結んで貰う予定でしたが、いずれガッツリ戦って貰いますのよ」


 彼は舌打ちをして、アレクシアの提案について考えた。

 ペルサキスに歯向かったところで、アレクシアの神の力がこちらに向く。

 ハイマ大河という城壁を渡らなければならない自分たちが、それをかいくぐりながら戦争をすることは不可能だと理解していて、彼は仕方なく首を縦に振った。


「ところで、シェアトの身代金を払うと言っていましたが、救出のために人をよこしたのでは?」


 あれ? と首をかしげてアレクシアが尋ねる。

 アルフェラッツ王は渋い顔をして、それに答えた。


「無論失敗したときに身代金は払うことになるし、救出はミラクに頼む羽目になったからな。一番良い間者の『ミラクの女狼』は随分高値だったよ」


 ミラク、というフレーズを口に出すたびに顔をしかめる。

 アレクシアの知っている限りでは不毛の地にある傭兵国家。様々な国に間者を送り、そこから得た情報や自国内で鍛え上げた兵士を売っている……国家というよりは民間軍事会社のようなものだと理解していた。


「なるほど。どちらにせよふっかけられたということで」


「俺たちの足元を見るのにはいい機会だからな。奴らに支払いと、それと救出した上で皇帝に払ってやる分もある」


 まぁ確かに、救出して自分たちの力を見せた上で多少の賠償金を叩きつけるというのも、皇帝のメンツを叩き折る手段としてありか。とアレクシアはちょっとだけ感心して納得した。


「まぁ、それに関しては頑張ってくださいませ。商会の船を貸すくらいはしてあげますの。連合国の船では怪しまれるでしょうに」


「助かる。では……迷惑を掛ける。すべて終わったらシェアトには謝罪に向かわせよう」


「シェアトの無事に関しては、こちらからも祈っておりますの」


 そう言って二人は握手を交わし、アルフェラッツ王は帰路につく。

 残ったアレクシアとニキアスは今度はヘルマンを呼びつけると、帝国中央以西からのリブラ商会の完全撤退を告げた。


「……事情は理解しましたが、職員はどうしますか」


「一度全員ペルサキスへ戻るよう伝えなさい。現地採用の職員は本人の意志で、居抜きされてもいいですし、こちらで働いてもいいですし」


 ヘルマンは悔しそうな顔で了承する。

 自分たちが育て上げてきた商会を手放さなくてはならないのか、と力を込めて握りしめた拳から血が滴った。


「悔しがることはありませんわ。数年後にはまた我々が商圏を取り戻しますので。そうでなくても、この完成された老帝国よりはよっぽど、連合国や外国との商売のほうがやりがいがありますわよ」


 アレクシアは慰めではなく、本気で言い切った。

 長年共に働いたヘルマンはその真意を理解して、自分にできることを探す。


「……姫様。私は貴女にこの生命を捧げておりますので。それだけはご承知おきください」


「理解しているつもりですわヘルマン。貴方だけでなく、全ての職員に必ず報います」


 

――その後も官僚たちとの打ち合わせを終えて真夜中、アレクシアとニキアスはぐったりげっそりといったふうに、執務室の椅子にもたれかかっていた。



「中央との領境の警備、忘れてましたわニキアス。どうですの?」


「とっくにやってる。配備を終わらせて帰ってきたら君が大学から帰ってきてないと聞いてね、少し怒ってる」


「本当に悪かったと思っていますの……」


 緊急の用事は呼び出しできるようにインターホンでもつけよう。と考えて、アレクシアは心からの謝罪をする。

 しばらくしたら皇帝からの使者が来るだろう。その相手をして……と考えていたらだんだん眠くなって。ぼーっとした声でニキアスに話しかける。


「ニキアス、リブラの撤退、案外幸運かも知れませんのよ」


「だいぶ疲れているようだね君は」


「我々はまっとうな商売をして信頼を得て商圏を広げたわけですし。きっとアホの中央貴族がやらかして、そこの住民たちが皇帝に歯向かう気になってくれるはずですわ」


「そうなれば助かるね。まぁ、手痛いことに変わりないが」


「逆境こそ好機……だと思わないとやってられませんわ。どうせ茨の道なわけですし、全身穴だらけでも踏破してやりますのよ」


 うぉぉ……と右腕を一度掲げたアレクシアは、すぐにその腕を力なくだらんと垂らし、泥のように眠り込んだ。

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