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第十七話:決闘

前回のあらすじ!



我が国の長い歴史において、帝国暦99年のペルサキス内乱は公式な記録に残されていない。

この自作自演の反乱が存在したという証拠は、当時の人々の手記の中にしか存在しなかった。

ランカスター市の湖で発見されたアルバートの手記を元にハイマ大河沿いの遺跡を発掘調査したところ、数千人規模のおびただしい人骨が発見され、建国の父ニキアス=ペルサキスの犯した罪が白日の下に曝されたのだ。


――『帝都ペルサキスの歴史』 アレクサンドリア=ペルサキス 483年



後の歴史家はいい顔をしないだろうね。


――ニキアス=ペルサキス 帝国暦99年春頃、ペルサキス議会での発言 ※前述の調査が公開されるまでは、帝国に対して反旗を翻す議決をしたことに対してだと考えられていた。



ニキアスが出てきた。俺の勝ちだ。皇帝に良い知らせを持っていくことが出来る。


――ゼノン=オーリオーンの手記 帝国暦末頃 ※劇中では皇帝の弟で悪の王とされているが、本来の彼については皇帝の影武者であったとも、皇帝が抱える暗殺者、あるいは諜報部隊の長であったとも言われている。

――正午が迫る頃。ニキアスは静かに待っていた。



「……ニキアス様、まもなくです」


「あぁ、すぐに避難させるんだぞ。僕たちは正義の味方だからね」


 ランカスター人たちに自分の正義を救われた。とボレアスは納得して頭を下げ、走って向かう。

 一人立つニキアスは、ふと思いついた考えを反芻していた。


「シェアトの言うとおりなら、ここでアルバートを殺すのはアリだろう。アレクシアが帝国を統治するには、彼は邪魔だな」


 アルバートがスコルピウスを主導している。その事実は知っている。

 ニキアスは彼らを帝国との戦いの駒にしようと企んでいたが、シェアトの話を聞く分にはどうやら少々事情が違うようだ。


「今回の反乱……つっても演技だが。彼らは本気で乗ってくるだろうな。僕たちが負ければ組織内でアルバート派が有利になる」


 だからこそ、ここでアルバートを殺す。

 そうすればこのペルサキスでアレクシアに逆らうものは居なくなる。


 彼は自分の考えをまとめて、やはりどうあがいても避けては通れない障害ならば。

 ゼノンとアルバート。まとめて今日、ここで叩き潰すと決心した。



――正午の鐘が鳴り響く。



「よし、出番だな」


 アルバートとエリザベス、それにアンナが宿屋の屋上から見渡す先で鳴り響く轟音。崩れ落ちる建築物。

 アレクシアが見たらやりすぎだと卒倒しそうなほどに、各所に仕掛けられた爆弾が爆発する。


「どこを見ても帝国人かぁ……まぁ、悪くはないわね。連合国の人間は全て排除済み……思う存分暴れられるわけね」


「流石にちょっと心が痛みますが……」


 アレクシアを殺せ! ニキアスを殺せ! と叫び声を挙げて走り回るランカスター軍。

 彼らは産まれて初めて皇帝陛下万歳などと叫びながら、親皇帝派を装って、コンクリート造りの中心街に魔法を放ち、そのへんにあった棒や石を手に暴れまわる。

 一応、なるべく人には当てないようにと釘を刺されてはいたものの、長年差別に苦しめられた帝国の、その皇女のお膝元での暴動ということで気合の入った彼らは、お構いなしに街を破壊し、逃げるものや抵抗するもの問わず、人を殺して回っていた。

 アンナは少し目を伏せて、しかし今までの仕打ちを考えれば仕方のないことだろうか。と自分に言い聞かせる。

 アルバートはその彼女の肩をそっと抱いた。


「……帝国が自分で撒いた種だ」


「それは……そうですが……」


「帰ったら海でも行こう。気晴らしになる」


 複雑な表情を浮かべるアンナ。アルバートは彼女を元気づけようと笑いかけた。


――小一時間ほどが過ぎた頃。

 周辺住民の避難を終えたニキアスたちが慌てたふうに押し寄せてくるのを遠くで眺め、エリザベスはふとつぶやく。


「見える? ふたりとも。明らかにあたしたちとは違う奴らが暴動に混じってるわよ」


「あぁ。少し様子を見てくる」


「私も行きます」


 彼らにとっては、ゼノンの一味が現れないことは少し意外であった。

 暴動に加わっている連中を見渡してみても、既に正気を失って、何をしているのかも分からずなんとなく暴れているようなよくわからない連中や火事場泥棒に、貧民層であろう人々。

 最初はランカスター軍三十名ほどから始まった暴動は、いつの間にか百人、数百人と広がっている。

 皇帝陛下万歳の声の中に、帝国を滅ぼせという掛け声がまじり始めて、エリザベスはため息をついた。


「ちゃんとした服装をしているのは……多分スコルピウスの協力者ね。まぁ、こんな罠に乗せられる奴らなんて居ても邪魔だけど」


 さて、適度に扇動して、ニキアスたちが暴れ始めたら撤退しますか。と、冷静に眺める彼女。こんな状況では指揮も何もあったものではない。ランカスター軍には被害の無いようにどうやって逃がすか。それだけを考えていた。


「ん? あれ、確か……」


 遠見の魔法で見守る彼女の視線の先に、どこかで見覚えのある少女が立っている。

 この土埃と飛び交う怒号の中、真っ白な服に汚れ一つなく、涼しげな顔をして立っている彼女。


「あたしの怪我を治してくれた子だわ! ……助けないと流石に悪いわよねぇ」


 名前は……確かシェアトとか言ったっけ? と思い出しながら、彼女は少女の元へ向かった。 

 


――



「お前が暴動の首謀者だな? このニキアス=ペルサキスに逆らった罪、その命で償ってもらおうか」


 瓦礫の上にニキアスが立つ。彼の目の前には、様子を見に来たアルバート。

 ニキアスは右腕に執った、自身の身の丈程のハルバードの切っ先を彼に向けながら、真剣な表情で告げる。


「……こんな事をしている場合ではないでしょう!?」

 

 何故急に、今この場で俺を!? と驚いたアルバートはとっさに言葉を返した。

 しかしニキアスは首を振って、一度笑顔を浮かべる。


「している場合なんだよアルバート。僕もスコルピウスの情報は掴んでいてね。アレクシアのために、お前も邪魔なんだ」


「なっ……何故それを!?」


 スコルピウスの事を知っている……? とアルバートが驚愕する。

 以前潜入して、そして協力者として彼らの情報を得ていて。シェアトからの情報で確信を持ったニキアスはすっとぼけて、歯を剥いた、威嚇するような笑顔で返答した。


「さぁ? 何故だろうね。ともかくいい機会だ。手合わせ願おうか」


 ゼノンはどうするんだ!? とアルバートが叫ぶと、ニキアスはその笑顔のまま武器を構える。

 近くに居たはずのニキアスの兵士たちが、彼の獲物の間合いから逃れようと距離をとった。


「ゼノンもお前も、同じくらいに邪魔だからね。殺せる方から殺すよ」


 演技ではない。本気だ。と確信を持ったアルバートは、小さくつぶやく。


「……殺される覚悟はあるんだろうな」


 ニキアスは頷き、心底残念そうに言い返す。


「無論。今殺すことになって残念だ。もう少し後に取っておきたかったんだがね」


「そうか。俺も残念だ。あんたは良い君主だと思ってた」


「君は悪い扇動者だ。僕やアレクシアに尻尾を振っているふりをして」


 それは俺の意志じゃない。と返答したアルバートに、ニキアスは諭す。


「自分の派閥くらい自分で制御するんだな。アルバート派だろう? 今暴れている奴らは」


 今、暴動に混じっているスコルピウスの、彼らの挙げる声を聞く二人。

 ニキアスは憎悪の視線で、アルバートは動揺したような目の動きで。

 その一瞬の動揺を逃さず、ニキアスは突進した。


「クソッ!」


 反応が遅れた……! と、とっさに後ろに飛び、腰のコールブランドに手をかける。

 その剣の鞘に書かれた呪文を小声でつぶやきながら、アルバートはニキアスに視線を向けた。


「なんだ? その剣は……」


 今更、ニキアスがコールブランドに気づく。

 自分が見つけて、アレクシアが解読した鞘と。どこから現れたのか柄が一つになっている。


「エクス……カリバー!!」


 アルバートの視線を読んで、これは不味い。と判断したニキアスが跳び上がる。

 彼の足元を薙ぎ払った虹の軌跡が、周囲の瓦礫を吹き飛ばした。


「初見殺しは、後にとっておくべきだったな!」


 ニキアスが距離を詰め、ハルバードを薙ぎ払う。

 アルバートはそれを虹の刃を地面に突き刺し受け止めて、空いた片手でニキアスの無防備になった腹を殴りつけた。

 彼の鎧に刻まれた呪文が一瞬輝き、何事もなかったかのように光を失う。

 全くの無傷。アルバートが大きく目を見開いた。


「!? なんで」


 手応えがない? 確実に鎧は貫いたはず。

 気を取られたアルバートを殴り返し、吹き飛んだ彼を見てニキアスは呟いた。


「種明かしは無しだ」


 そう言って、持ち主の手から離れ、光を失い地面に落ちたコールブランドを蹴り飛ばす。

 アルバートがそれを拾おうと身をかがめて飛びかかったが、彼は顔面にまともに膝蹴りを受けて転がった。


「思ったより弱かったな。それも残念だが」


 その彼を仰向けに蹴り転がして、ニキアスがハルバードを振りかざす。

 首を狙った一撃を防御しようとアルバートが腕を交差させた時、彼は突風で吹き飛ばされた。


「良い魔法だ。誰かな今度は」


「……ニキアス様、あなたには失望しました。私達を騙していたのですか」


「アンナか。騙したつもりはないな。叩きのめすと言っただろう? ……あぁ、安心してくれ。ランカスター人は今まで通りだ。アレクシアの機嫌を損ねない限りはね」


 まぁ最初からこうするつもりではなかったから。そこは温情ってやつだね。と彼は付け加えて。

 ハルバードを彼女の方に向けると、殺意を込めて斬り掛かった。


「ッッ! ウィンドブレイド!」


「効くかよ。安い風魔法なんか」


 アンナが放った風の刃を鎧で吸収して、その衝撃を自らの身体強化に変換する。

 魔法鎧に刻まれた呪文が輝き、ニキアスの筋肉が膨れ上がる。


「え、加速し……?」


「悪いねアンナ。名前は覚えておくよ」


 強化された肉体で一瞬で距離を詰め、放たれる斬撃。アンナはそれを回避しきれずに。

 彼女の左腕が宙に舞い、吹き出した血がニキアスの鎧を血に染めた。


「アンナ……! アンナ!!!」


 アルバートは頭を揺らされて朦朧とした意識の中、アンナを救おうとして。

 妻の名前を呼びながらふらふらと立ち上がり、コールブランドの柄を持ち上げる。

 彼の視線の先で、アンナの腹に突き刺さるハルバードと、彼女の体を蹴り飛ばしてそれを抜くニキアス。


 アルバートの目の前が真っ白に染まる。


「随分頑丈だなお前は!」


 舌打ちをしたニキアスが、伸びる虹の刃を警戒してアルバートの方を振り返った時。

 


 そこには髪も眼も虹色に輝いた、勇者が立っていた。



「アレクシアと、同じ……?」


 怯えている? この僕が? と、ニキアスは自分の首筋に冷や汗がつたるのを感じて。

 彼は後ろに崩れ落ちるアンナを忘れた。


「……ごめんなさい……アルバート……」


 自分はもう助からないんだ。と彼女は確信する。

 血の気の引いた冷たい頭で、アルバートをどうやって逃がすか考えて、彼女は閃いた。


(あの鎧、魔法を身体強化に変換するんですね。皇女殿下が前に言っていたもの……ですが、それなら、不意打ちでは機能しないはず!)


「……風の神よ、嵐の神よ……私の命を喰らい尽くせ……」


 激痛と出血で息も絶え絶えの彼女。全身全霊を振り絞り、風の神に祈りを捧げる。


「アルバート!! その剣を!! ウィンドストーム!!」


「まだ生きていたのか!」


 とっさに消術を起動しようとする。しかし間に合わず。

 放たれた最期の突風が、ニキアスの足元を浮き上がらせた。


「ニキアァァァァァァス!!!」


 雄叫びと共に放たれる虹の刃の輝き。

 それを回避できないと悟ったニキアスは、魔法鎧に刻まれた消術の呪文に全力で意識を向ける。

 物理的な衝撃に対しては絶対の防御力を誇る、とアレクシアが自信満々で持ってきたその鎧は、その言葉通りに着用していたニキアスを守り通した。


「ごふっ!」


 しかし吸収しきれなかった光の魔法が鎧を砕き、跳ね飛ばされた彼は付近の壁に叩きつけられた。

 彼は息を吸い直し折れた歯を吐き出して、ハルバードを杖にして立ち上がる。


「やるじゃないか。だが鎧を壊したくらいでいい気になるなよ」


「殺してやるニキアス!! 殺してやる!!」


 大量の出血で意識を失った妻を抱きかかえ、涙で濡れる頬。

 アルバートは恐らく産まれて初めて、心の底から怒りを覚えていた。

 無駄だと分かっていてもとりあえずの止血を施して、そっとアンナを寝かせて。


「別れの言葉を言う暇くらいはくれてやる。僕も悪魔ではないからね」


 まぁ息を整える暇が欲しいだけなんだけど。とニキアスは心の中で呟いて。


 自分の愛する女のため。二人の男は睨み合う。

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