美咲捕獲大作戦
爽やかな風が美咲を誘って、学校まで守るように送り届ける。
そのあとを黒猫が軽やかについていった。
「にゃあ♪」
*
(久しぶりに二人の予定が合う日だよね)
(そうだな。今日を逃したら大会前で部活三昧になるから、もうチャンスはない。捕らえるぞ、ほのか!)
(気合の入れかたが蛮族だから。落ち着いて。真里)
(そんな猛禽類みたいな目で言われても説得力ないんだけど)
ほのかと真里が顔を見合わせて頷く。
本人たちが申告しているように闘気を立ちのぼらせているので、クラスの女子たちは遠巻きにしていた。
美咲がトイレから帰ってきて、教室の雰囲気がなんだか変だな? と首をかしげる。
が、真里たちは目で会話していたので教室の誰も事情を知らないのだ。
なんだかそわそわしながら、美咲は席に座った。
「ひゃ!?」
足首を黒い尻尾が撫でたような気がしたのだ。
がばっと押さえたが、なにもない。
キョロキョロしても何者もいないので、美咲はただ恥をかいてしまった。
(注目が痛い……今日も早く【四季堂】に行こうっと)
気分転換に、猫のキーホルダーを触る。
「にゃあぁ」ととろけた声が聞こえた気がしたが、また気のせいだったら困るので頭を振って無視しておいた。
美咲の見事な艶の黒髪が、みんなの視線を奪った。
*
放課後。
美咲追跡作戦が実行された!
(美咲さんは毎日同じ道を帰っている)
(見失っていたけれど、今度こそは!)
ほのかと真里は賭けに出た。
前に美咲を見失った地点に先回りして、体力を温存した上で、美咲のその後のあしどりをつかもうと考えたのだ。
地元ならではの土地勘で最短ルートを割り出した。
((来た!))
美咲が現れる。
いつもよりゆっくりとした足取りだ。
今日は急に気温が上がって、季節の変化がよく表れていたので、葉や花などを沖常に届けようと、辺りを観察しながら進んでいたのだ。
よく分からないけど大チャンス、とほのかと真里が息を殺す。
抜き足、差し足、しのび足!
「あっ。ちょっと立ち止まっていすぎちゃった……急ごう!」
美咲が走り出した!
真里とほのかも駆け出す!
風を纏った美咲の方が早いが、
「にゃあっ」
「きゃっ」
快調に飛ばしていた美咲の前に黒猫が現れたので、思わず足を止める。
真里たちは引き離されずにすんだ。
「あれっ。艶やかな黒の毛並み……あなた、もしかして彼岸丸さんと一緒にいた黒猫さん?」
「なーぅ」
黒猫が「そうよ」と言ったように、美咲は感じた。
「一緒に行こうか。【四季堂】へ」
黒猫と同じスピードで美咲は小走りに進みだした。
【四季堂】、と聞いて真里たちは頷きあう。前にも美咲が口にしていたキーワードだ。
「今回は逃げられなかったの、嬉しい。前ね、黒猫に横切られてしまったことがあったの。黒猫は幸運の証だから、通り過ぎられると不幸になる、なんて言い伝えがあってね……」
美咲は黒猫にひとりで話しかけ続けている。
(返事が返ってくるはずもないだろうに!)(ファンタジープリンセスか!)と真里とほのかが心の中で叫んだ。
商店街の細道を抜けて、おもむきのある雑貨店へ。
看板には【四季堂】の文字が。
美咲と黒猫は迷いなくそこに向かっていった。
後ろから、そっと忍ばせた二人分の足音がついてきていた。




