118.狂犬、歯牙を抜かれる
ルプトが呼んだ雷は自然の力を利用しているが大まかな狙いを付けられる。
相手を狙って直撃させるのは容易い。しかしそれは他に阻害するものがなければの話だ。
ルプトとヘイロン。両者だけの空間なら、呼び寄せた落雷も意のままに操れる――はずだった。
「びぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
二撃目の落雷が落ちたタイミングで周囲に絶叫が木霊する。
それは間近で鳴った轟音を突き破って二人の耳に届いた。
「な、なんだ?」
これにはヘイロンも、もちろんルプトも動きを止めて困惑する。
たった今ヘイロン目掛けて落ちてきた落雷が勝手に逸れてしまったのだ。無事だったヘイロンもこれには攻撃の手を止めてしまった。
二撃目の落雷のおかげで、周囲を覆っていた濃霧は綺麗に晴れていた。ルプトが帯電している雷のおかげで辺りを見渡せるくらいには明るい。
そんな中、ぼんやりと光る夜の闇の中にそれの姿はあった。
「あれは……」
目を眇めてルプトは眼下にある物体を見つめる。
それは三メートル弱はあろう、岩の塊だった。それに先ほどの雷が直撃したのだ。
しかしただの岩に雷を吸われることなどあり得ない。直感的に違和感を感じ取ったルプトはそれをじっと注視した。
警戒するルプトとは裏腹に、ヘイロンはそれの正体にすぐに気が付いた。
雷が直撃したことで焦げているけれど、目の前のこれには心当たりがある。
「おまえ、何でここにいるんだよ」
突然現れたミディオラに声を掛けたヘイロンだったが、呼びかけに応える様子はない。なんせ雷が直撃したのだ。いくら彼が頑丈だからといっても限度がある。生きてはいるだろうが意識は飛んでしまったのかもしれない。
けれど倒れてしまったミディオラの口の中から何かが這い出してきた。それはヘイロンの姿を見るや否や、笑顔で駆け寄ってきた。
「ハイロぉ!」
「ニア!?」
まさかのニアの登場にヘイロンはおおいに驚いた。
彼女がここにいるのもそうだが――
「おまえ、その髪どうしたんだよ。爆発してるぞ!?」
「え? ほんとだ!」
抱き着いてきたニアはヘイロンの指摘に自分の頭を触る。静電気のせいでおかしな髪型になっているがニアは楽しそうである。
「それよりも、何でここに来たんだ?」
こんな戦場の真ん中にニアが居て良い理由がヘイロンには思い浮かばない。
魔王城を守っている仲間たちが雷火の雑兵にやられるとは思えないし、あそこには師匠であるモルガナだっている。
ならもっと特別な何かがあって、ヘイロンの元を訪れたのだ。
「えっと……みんな仲良くするんだって!」
「ハア?」
脈絡もないニアの発言にヘイロンは口をあけて呆けた。
何を言いたいのかちっともわからん。何か言伝があるのは確かだが……それをきちんと伝えられないなら伝令の意味がないではないか!
「とりあえず皆は無事なんだな?」
「うん!」
「ならいいけど……あ、そういや一人だけ無事じゃない奴が居たな」
のびているミディオラを見上げた直後、再び暗雲が雷鳴を呼び寄せた。
上空が光ったと思ったらすぐに轟音が鳴り響いて、先と同じようにミディオラに直撃する。
どうにもミスリル鋼のせいなのか。今のミディオラの身体は雷を誘導してしまうみたいだ。
「びゃああああぁぁぁぁ!!!!!」
再びの落雷に意識を失っていたミディオラは飛び起きた。
どうにも彼の身体の頑丈さはヘイロンが思っているよりも凄いものらしい。あの雷を二回もくらってもへっちゃらなのだから。
「だいじょうぶ?」
「うぅ……痛いし痺れて動けないぃ」
ミディオラを心配してニアが近寄るが、話せるくらいなら大丈夫だ。
二人の会話を聞いていると、今まで無言を貫いていたルプトが上背を折ってさめざめと泣いているミディオラに顔を近づけた。
「君は、ミディオラか?」
「オイラのこと、知ってるの?」
「ああ、そうだ。もちろん知っているとも」
意外にもルプトはミディオラに微笑みかけた。
先ほどまで死闘を繰り広げた相手とは思えないほどの変わりようにヘイロンは言葉もなく驚く。
「もっとも、私が知っているミディオラとは随分と変わってしまったがね」
「オイラはおじさんのこと全く知らないよ」
「それでいい。私のことを覚えていなくても、旧知の友に再び会えたことが嬉しいのだよ」
予想外の発言に、当の本人であるミディオラもヘイロンだって驚く。
「お前、こんなのが友人なのか?」
「こんなのって言うな!」
半信半疑の問いかけにミディオラは怒るが、ルプトは静かに頷いた。
「昔の彼は私よりも巨大だった。今はこんなだが……私たち雷火はとても世話になったものだ」
「だからぁ、こんなのって言うなよ!」
「はははっ、すまない。貶したわけではない。君は自分が思っているよりも凄い存在だ。それを誇っていい。私が保証する」
「もしかしておじさんって良いひと?」
「友人相手には酷いことは出来ないな」
ミディオラと話しているルプトは随分と温和だ。先ほどの戦いなどなかったかのような態度にヘイロンは拍子抜けしてしまった。
「はあぁ、どうすんだよこれ」
「ハイロ、怒ってる?」
「怒ってはねえけど、もう少しで倒せそうだったのになあ」
ルプト相手にヘイロンも窮地に立たされたが、何も完全に負けを認めたわけではなかった。
最後の一撃――隠していた奥の手を使えば勝てた勝負だっただろう。けれど今ここにはニアがいる。アレはルプトの攻撃と同じく無差別な範囲攻撃だ。ニアを巻き込むわけにはいかない。
そこまで考えてヘイロンは今回の勝負の勝敗を諦めた。
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