表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/123

106.戦人、冷酷に徹する

 

 雷火の二人が標的を定めた瞬間、暗闇の中に明かりがともった。

 奇妙な状況に二人は一瞬足を止めるが、あんな明かり程度じゃこちらの姿を捉えるのは不可能だ。


「よし、首尾よくいくぞ」

「ああ、まずは俺からいく。お前は隙を見てあの子供をやってくれ」

「了解」


 ラオシャは身を屈めて、気配を殺し足音を消してじりじりと二人に近づく。

 こういった隠密行動なら獣型である彼の方が適任だ。


 相手は夜目が利いていないし、こちらが圧倒的に有利。

 この作戦、失敗することはないとラオシャは自信満々だった。

 けれどその慢心が仇となる。



「シシッ、シんでホしぃナァ」


 彼が今まさに襲い掛からんとする、その瞬間――耳元で囁きが聞こえてきた。

 ラオシャがそれに振り向くよりも早く、それは彼の背を押さえつけて押し倒す。


「っ――ギャン!」


 潰れた犬のような鳴き声を上げて、ラオシャは何とか背後にいる者の正体を確かめた。

 彼を押さえつけた犯人は、まっくろな影のような獣だ。いや、獣というにはあまりにも歪な形をしている。


「なんっ、なぁ!」


 ラオシャの言葉にならない叫びを聞いたレコフは急いで彼の元に駆けつけようとする。

 けれど、それを阻止するように暗闇から伸びてきた刃が、彼の喉元を掠めた。


「動くな」

「――っ、」

「お前たちの他に仲間は?」

「ぐっ、……いつの間に」

「死にたくなければ質問に答えろ」


 背筋すら凍らせるような冷たい声音に、レコフは静かに頷いた。


「いない。俺たちだけだ」

「信用ならない」

「ほっ、本当だ! 作戦が成功したのは俺たちの部隊だけ!」

「お前が死ねば、隠れている敵も出てくるか?」


 冷徹な判断を下す背後の相手に、レコフは息を呑んだ。

 彼の体毛は怖気で逆立って耳と尻尾は垂れている。

 すでに戦意はどこにもない。押さえつけられているラオシャも同じだ。けれど、この声の主はどれだけ本当のことを話しても信じないだろう。


(ああ、俺たちはここで死ぬんだな……)


 生きていればいずれ死ぬときは来る。けれどそれに納得できるほど、生きてきたわけじゃない。心残りが沢山あった。そしてそれは仲間のラオシャも同じだろう。


 後悔を胸に半ば諦めていたレコフは、直後思ってもみない言葉を聞くことになる。


「ま、まって! 殺さないで!」


 レコフを救ってくれたのは、さっきまで殺そうとしていた者たちの一人だった。

 彼女は慌てて近づいてくると、レコフの背後に向かって声を張る。


「その人たち、もう戦えないと思う。無抵抗な人まで殺す必要はないんじゃない?」

「こいつらが嘘を言っている可能性もある。油断させて襲わせるつもりかもしれない」


 イェイラの説得にもローゼンは頑として譲らなかった。


「ハイロから頼まれたのはニアを守ること。殺せって言われてないでしょう?」

「そうだが……殺した方が安全だ」


 平行線な二人の会話を、じっと聞いていたレコフは情けなくも涙が溢れてきた。

 呻き声でなくみっともなく泣き声を響かせる。


「しぃ、しにだくない……」


 良い大人が年甲斐もなくわんわん泣く姿に、イェイラに抱えられていたニアは目を丸くして驚いた。

 そしてそれは、言い争いをしていた二人も同じだった。


「はぁ……戦意がないっていうのは本当らしいな」


 敵の泣き喚く姿を見て、ローゼンは諦めたようにナイフを首筋から離す。

 自由になったレコフは膝から崩れ落ちて蹲った。


 情けなさと惨めさで、顔もあげられなかったのだ。


「長いこと傭兵をやっていたけど、お前のように敵の前で泣く奴は初めて見たよ」

「ぐすっ……ずび」


 返す言葉もなく蹲りながら、レコフはラオシャの様子を見た。

 彼は彼で黒い獣に押さえつけられたままだ。


「あいつも離してやってくれ」

「仕方ない……その代わりお前たちは拘束させてもらう」


 渋々だがローゼンはレコフの頼みを許可した。

 それを聞いてイェイラはハイドに声を掛ける。


「ハイド。もう離してもいいわよ」

「ウ、ウウゥ……」


 しかし、ハイドはイェイラの命令に従わなかった。

 こちらに顔も向けないで、呻いているだけ。


「……ハイド?」


 刹那、嫌な予感がしてイェイラはニアを手放すとハイドにゆっくりと近づいていった。


 昔、一度だけ。

 ハイドがイェイラの命令を無視したことがあった。

 ――彼女の父母が死んだ時だ。


「グウゥ、ガアアアアッ!!!」


 ラオシャを踏み拉いて、ハイドは身の毛のよだつような咆哮を上げた。


ここまで読んでくれてありがとうございます!

応援してやる! 面白かった! そんな気持ちはとってもありがたいです!!


是非とも☆評価、ブクマしてくれると嬉しいです!(@^^)/~~~⭐⭐⭐⭐⭐

いいねボタンもぽちっと押してくれるとモチベ上がります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ