97話「安堵の終了……!」
ガンマ皇帝がヨネ王に条件を申し出た。その内容とは……?
「我々はこの世界を安泰にするべき、王国の機密となる『万年遺跡』の技術流用を禁止としたい」
「ああ……、うむ。それでしたらワシらもそのつもりですじゃ」
ナッセはポカンとする。
……できすぎていないか? 都合良すぎている!
事情を知らないフクダリウス達は眉を潜め、ざわざわとする。
「万年遺跡……? この辺りにあったのか?」
「ありましたかね……?」
「見たことあらへんなー?」
「糞が! どういう事か説明しろっ!」
「王国周辺に、該当する遺跡は存在しまセーン。ホワッツ?」
「時空間ダンジョンのように、面白いダンジョンとかあるんですかね?」
そりゃ最高機密だもの。故に王族と、聖霊達とその関係者以外知らない。
サンライトの『万年遺跡』を知ってるのは現時点でオレ、聖霊ミキちゃん、ヨネ王、聖霊兼魔女クッキーの四人ぐらいだ。
多分、ヤマミも知っているかもしれない。時空間ダンジョン知ってたし。
……あの『万年遺跡』は機械方面に発達した技術の宝庫。そんなのが世界に流出されれば文明は飛躍的に上がる。
前世もそうだった。
ガンマ皇帝は『万年遺跡』の技術を世界に流出させ、全体の文明レベルを上げた。
どこにでも欲しいものを買える自動販売機、どんな遠い所も数分で渡れるワープ交通、夜も照らし続ける無尽蔵の灯り、世界中の人とコミュが可能な手持ちの携帯道具、光速を超える宇宙航行法、国及び大陸を一つ滅ぼせる滅亡兵器、そういった文明機器が制限なく誰にでも使えるようになる。
それはひいて星の資源を食い尽くし、星獣復活を促す事となる。
そうなれば人類の破滅へ繋がるにも等しい。
あの『万年遺跡』は過去の過ちの記録として保持されるべきであって、無用に世界の文明力を上げるためのものではない。
本来は聖霊が厳重に管理して流用を防ぐのだが、前世ではその禁を破ってガンマ皇帝はそれを利用して星獣を呼んでしまった訳だ。
この星を犠牲にして宇宙へ勢力拡大していく為に……!
そ、それを……ガンマ皇帝自ら……禁止するとは…………!?
絶句するナッセをよそに、ガンマ皇帝とヨネ王の会談はトントンと良好に進み纏められてしまった。
これはむしろナッセの望み通りになる形であった。
……なにが……なんだか…………?
「ヨネ王殿。汝と有意義な協議が出来て嬉しい限り。それはそうとプライベートで身内と再会の時間を頂いてよろしいですかな?」
「うむ。別にこれといった用事も無いですし、数日はこの国へ滞在しても構わない意向じゃ」
「ヨネ王殿のご厚意、痛み入ります」
黒頭蓋骨はペコリと会釈してから、ナッセへと近寄る。その後ろをアクラスが付いてくる。
緊張が走り強張るナッセ。
「こっち、く、来るわよ!? なんでっ??」
リョーコはおっかなくて思わず後ろに隠れる。
「……ナッセよ。もう心配は要らないぞ。我はもう星獣復活は望まない」
「………………!?」
怪訝に眉を潜めるも、黒頭蓋骨からは邪念を感じない。
「済まなかったな。本当は事前に話してから協議をやりたかったのだが、どの顔で会いに行けばいいか我も分からなくてな」
「そうだぞ! 親父はな、本当はお前に会いたくて堪らなかったんだぞ!」
アクラスがそう付け足す。
「そう……なのか?」
「我は不器用でな。うっかり誤解するような事言って、関係を壊すのも怖くてな」
「親父、未だに厨二病だしよ。この協議でうっかり口癖滑らしてしまわないかとドキドキしてたんだぞ!! 何事もなくて良かったけどよ……」
「ごはははははっ!!」
するとオウガが鬼の首をとったように喜々と指差す。
「やはりナッセは帝国の者! 国賊! 裏切り者だなっ! よし、みなのもの、悪の皇帝もろとも退治だっ!! これは燃える展開だぜっ!」
「ま、待つんや……。もうそないな事……」
「うるせえっ! ここはチャンスだろうがっ!」
しかし周囲は白けている。誰もがが白い目で見てくる事に気づいて、オウガは怖気づいていく。
呆れたヨネ王は首を振る。
フクダリウスに「場違いは黙っとれ!」とゲンコツを受けて、オウガは撃沈。
「確かに我は敵対されてもおかしくないが、ナッセには何の罪もなかろう。しかし良かったな。理解してくれる仲間がいて……」
「今までこの国の為に頑張ってたんたぞ! 皇帝命令に背いてまで勝手に攻める四天王も撃退したんだからな!」
「よく頑張ったな。我が息子ナッセよ」
味方してくれるガンマ皇帝とアクラス王子に、敵対の意志はないと確信した。
ナッセは緊張していた全身から力が抜けて、へたり込む。
「ナッセ!?」
慌てて介抱しようとしゃがみ込むリョーコ。
「そっか……。じゃあ、もうこれで終わりだ…………」
安堵し、穏やかな心境に沈む。
が、コポッと胸から喉を通って何か込み上げる違和感が湧いた。
ゲホッ!!
ナッセはおびただしい吐血を吐く。ゴホゴホと咳が止まらず、ぶちまけた大量の血が絨毯や床に広がった。
顔を青くし意識を失ってフラリと倒れようとする。この場にいた誰もが驚愕する。
あわあわと、リョーコは胸で受け止め、抱きかかえる。
顔が青いまま苦しそうにグッタリするナッセ。目を覚ます気配はない。
絶句する一同。
「ナッセェ────────ッッ!!!!」




