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91話「前皇帝の転職! そして魔海の脈動!」

挿絵(By みてみん)


 シュパンシア公認の初心者向けギルドにて、かつての皇帝が訪れていた。


「すみません。なんか職ありますか?」

「えぇ……」


 受付嬢は、ボロボロ姿の貧相な陛下()()()人に引いていた。


 二十年以上も前の独裁陛下じゃないですかー! マジぱねぇっす!

 でもでも今の王政権ってば、頑張ってくれてるから活気良くなってんだよねー!


「まずは戦士職から始めましょうか? 初心者向けですよ。職につけば守備力増強のパッシブスキルつくし体力が高くなるから生存率高いですよー!」

「おお! 余はそれにしよう」

「余はもういいですよ。堅苦しいし変な目で見られるでしょう?」

「え……? じゃあどうすればいいのだ?」

「……そうだね。俺でも僕でも私でも」


 新しく冒険者カードを発行され、それを受け取る前皇帝。


「あ、俺でいいかな? もう皇帝じゃなくなったし、それでいいか」


 ボロボロの前皇帝の風貌をした貧相な男はとりあえず当面の生活を確保するため、ギルドに寄って戦士になったのであった…………。

 かつて威張ってた者!

 かつて大きな国を統括した者!

 かつて恐るべき力を得ようと欲張った者!


 全てを失った、かつての皇帝……。


 その名は………………ファンブル・メゲナーイ・シュパンシアⅧ世!!




 この晩の晩餐会でアクラスとガンマ皇帝(名前長いから省略)は料理を平らげていた。


「……アクラスよ! 時はきた! 今こそサンライト王国へ侵略の時だぞ……!」

「ククク……待ってろよ! 愚弟ナッセ……!」


 ガンマ皇帝こと黒頭蓋骨は両目を怪しげに輝かせた。カッ!

 終焉を呼び込む恐怖のガンマ皇帝とアクラス王子による侵略の魔の手がサンライト王国へ忍び寄るぞ……。

 その巨大とも言える邪悪な力を前にサンライトセブンは立ち向かえるのだろうか?



 運命となる翌日、ぐっすり寝てスッキリしたアクラスとガンマ皇帝は、歓声を上げる国民に見送られながら出国していった。

 門番の兵士たちも会釈して見送る。


「だが、まずは寄るところがある……」

「おいおい」

「大事な用だ。勝手にサンライト王国へ派遣して不当侵略した愚か者どもの粛清がな」

「あー、また勝手に軍勢率いられても困るしな」

「その通りだ」


 カッと赤く目を輝かせるガンマ皇帝。




 大陸と大陸を分ける広大な海に、邪悪な気配が漂う奈落の地帯がある。

 それは『魔海(まかい)』と呼ばれるものだった。

 時々、反射光のように不気味に黒紫に発光する海底。

 魔の瘴気が自ら発光し、邪悪なる殺意を振りまいているようだぞ。


 そこでも街や城があちこち点在していて、それぞれが領地を構えていた。

 ここに住まうは人間ではない。

 邪悪なる瘴気のこの空間では、普通の人間など発狂して死に至るであろう……。

 だって溺れるからね。


 居るのは『魔鱗族(マリンぞく)』であり、モンスター達だぞ。

 それらが天の光も届かぬ深い海底で巣食い、跋扈している。


 この星で生きる生物すべての邪念が収束して生まれてくるのが彼ら。

 ある程度、知能があるモンスターは他の魔族と共に共存して社会を形作っている。

 だが、この世界に『温情』『性善説』『妥協』と言うのが存在しない。故に、徹底的な競争社会である。

 より強く、より優れているほど、地位は高く、そうでないものは踏み台になるしかない。


 そして強い力を持つ魔王に多くのモンスターが群がり、お零れを与る代わりに手足となる。

 そうした勢力が領地を広げて、日々争いに明け暮れていた。



 大きな魔城はさながらダンジョンのように複雑に入り組んでいる。

 突然のアクラスとガンマ皇帝による訪問に、多くの護衛するイルカ兵は怖くて素知らぬ顔で「いらっしゃいませ」と会釈するしかない。

 下手に「アポを取ったという連絡はない。すみやかに立ち去るがよい」と言おうもんなら殺されるからだ。

 ゆえに、何事もなく魔王の広間までたどり着いてしまったぞ。


「こんにちは、お久しぶりです。ラジク様」

「ククク……、ずいぶん調子に乗っているようだな……。魔海王ラジクよ、この我が貴様に引導を渡そう」

「き……貴様ら……、なぜここに…………!? そして引導だと!?」


 非情な笑みのアクラス。そしてその背後に黒頭蓋骨から変貌してゆく巨大な漆黒の皇帝竜。


「それこそがガンマ皇帝……、そして終焉を呼ぶ“カラミティ・エンド・ガンマ・エンペラードラゴン”であるぞ……」

「ま、待て!! 我はしばらく魔海に引きこもっていた! それに貴様らシュパンシア帝国とは盟友の仲ではないかっ!?」


 うろたえる巨人。深海を連想させるマントを羽織り、クジラを連想させる巨躯の半魚人。

 これが魔海に住まう『魔王』の1体である。

 単体で一騎当千の力を誇り、多くのモンスターを従えている個体だぞ。


「ククク……! さきほどのイルカ兵大侵攻のお礼をせねばと思っていた! だがサンライト王国は我の獲物ぞ……! 世界を制圧するために一番の邪魔となる魔海は我が力で潰さねばな……」カッ!

「そう言うことだぞ! 悪いが愚弟のため……いや我らの野望の為に消えてもらうぞ!」

「く、クソ! この海魔王ラジク様に喧嘩売ろうなど、サンライト王国のみならず帝国も愚かだな!!」


 ゴゴゴゴ…………!!


 なんと更なる巨大化を遂げ、魔王は空浮かぶ巨大なクジラへと姿を変えた。

 大きなツノが三対、悪魔の翼のようなヒレ、六つの紅い目、そしてサメのようにトゲトゲの牙が並ぶ巨大な口!


「クラアアアアアアアア!!!」


 流石は魔王、周囲が震えるほどの威圧が席巻する。ビリビリ……、城下町にいる魔鱗族(マリンぞく)やモンスターは畏怖し青ざめる。

 が、アクラス王子とガンマ皇帝は涼しい顔だ。

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