73話「刻々と迫るナッセの寿命」
表彰式が終わってから、二週間が経った。
夕日で城下町は淡いピンクで染まっていた。
ナッセとノーヴェン、モリッカは、城での仕事を終えて路地を歩いていた。
オウガ、ドラゴリラ、フクダリウス、コンドリオンは現在残業中。この後、飲み会で部下と一緒にどっか飲みに行く予定らしい。
ずっと前から浮かれすぎる……。
「行かなくて良かったのかぞ?」
「イエ、ミーは帰宅して自分のマッスルを更に鍛え込みたいのデース」
「相変わらずトレーニングの虫だなぞ」
「僕は格闘漫画を読んで戦い方を研究しておきたいんです!」
「そ、そうか……!?」
コンセットと融合するようになってから茶髪になったり、戦い方が武道家じみてきてるし、なんかキャラ変わった気がするぞ。
「オレはアンコール飲めん。それに家事もしないとな」
それだけが理由じゃないがな──。
「うん! そうですよ! 少女漫画のキャラは純粋……」
「悪い黙っててくれ」
モリッカのキラキラした目に、ナッセは疲れた顔をする。
「また明日!」
それぞれ手を振って、ナッセ達は明るく笑顔で解散した。
ノーヴェンはナッセの背中を眺めつつ思い耽ける。
「問題はナッセですカ……。いつもの通りを装ってますが無理してる感じがしマース…………。大爆裂魔法……、あれも負担が重いんでしたネ」
ふむふむと頷くと、指で何かを描く仕草しながら自宅へと歩んでいった。
ブツブツと「魔法力を放出する砲式は……」「莫大な魔法力を溜める際の制御も問題カ」「これは複雑な術式が必要デース」とか呟いていた。
とある酒場────。
やっと残業を終えたオウガたちは、ハメを外して飲み会をしていた。
「ワイはオウガと同じく年収八〇〇万なんや〜! うっほほ〜い」
「流石は俺様の親友兼相棒だっ!」
オウガとドラゴリラは互いに肩を組み合ってビールを片手に、美女達と部下達とわいわい騒いで酔っ払って極楽の宴会を愉しんでいた。
テーブルの上には肉、肉、肉!! 多くのアルコール瓶! そしてキャバクラ系美女達! 豪勢だ!
フクダリウスはカラオケのマイクを握り熱唱。きゃーパチパチ、美女達が拍手を送る。
コンドリオンは酔っ払いながら部下と囲んでドンジャラしていた。
「ふふっ、女達だけだったら良かったのに……」
イワシローは手際よく注文に応えてグラスを流していた。
どんちゃん、どんちゃん、わいわい、がやがや、わははは!!
フクダリウスがなぜ一緒なのかは、またオウガとドラゴリラがなにかやらかさないかと監視する意味で付き合っていただけなのだ。
悪酔いしていると碌な事が起きないとの事で目を光らせていた。
案の定、泥酔したオウガとドラゴリラがぐったり横たわったので、フクダリウスは二人を抱えてコンドリオンと一緒に帰路に着いた。
「全く毎回毎回飲み会行けるものだな……」
「そうですね。二人とも腹が大きくなってますし」
「たるんどるな」
というのも、オウガとドラゴリラはそれぞれの管理職へ出世して収入が増えたものの、残業を含む長時間の激務によりストレスが蓄積されているのもあった。
収入が高いんで錯覚しがちだが、管理職は地獄のような激務なのだ……。
その日の夜。自宅でナッセはキッチンで食後の皿を洗っていた。
リョーコが鼻歌しながらソファーでくつろいでいた。呑気なもんだ。ジト目でナッセは呆れた。
勝手に住み着いておいて、食器の片付けもしないからなぁ……。
──その時!
ズ キ ン!!
身体を引き裂くかのような激痛が走った。ドクン、ドクン……脈動が走る。
ふらついて跪き、息を切らす。冷や汗も掻いていた。視界が霞む。
「ぐ……、またか……」
項垂れたまま汗をかいて憔悴するナッセ。
恐らく前世で妖精王に覚醒したのが引き金だったのだろう。その後の度重なる強敵を相手に時空間魔法や妖精王の力を乱発してきた。
……そして今回は竜さんとニカ大将軍との戦い。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
つまり使う度に寿命が縮んでいるのだろう。
発作はその前兆。しばらくすればウソのように治るが、一定の周期が来るとまた発作がくる。
それにだんだん悪化しているような気がする。
今、しばらく体が震えてて満足に立てない。いずれ倒れるかも知れねぇ……。
この髪の毛も元々は黒髪だった。だが徐々に銀髪の割合が増えて、今や全部染まった……。末期と言った所か。
もし龍神オオバさまが座禅を教えてくれなかったら、とっくに死んでただろう…………。
分かる……。オオバさまが言ってたようにループできる余力はないって事が…………。
そして多分長くない。どんなに気を付けても後三年……、二十歳までは届かないだろうぞ……!
誰にも言わないでおこう。無用な心配をかけるぞ。
あと妖精王には極力ならない方がいいな。
できれば最終決戦まで取っておきたいのが理想だが…………。
「どしたのー?」
リョーコがひょっこり覗き込んでくる。
「いや……、なんでも」
「ふーん。それはそうと無茶はしないでよね」
ひょいと肩を抱えてもらい、寝室へ向かっていく。
「てか、なんでお前がここに住み込んでいるんだよ!?」
「こうなるかと思って」
「え……?」
「その内、倒れそうだから放っておけないでしょ……」
リョーコの顔が神妙だ。もしかして意外と勘がいいのでは……?




